第28話 爆ぜる「想い」
満腹亭の裏手。
ネオンの光が届かない場所に、静かな影が集まっていた。
「……無事で、よかった」
最初に声を出したのは、花崎だった。
瑠偉は、小さく息を吐く。
「正直、もう少しお兄ちゃんが遅かったら――」
一拍。
「確実に、殺されてた」
その言葉は、淡々としていた。
だが、軽くはない。
「……でも」
瑠偉は、拳を握る。
「私だけじゃない」
「捕まってた人、たくさんいた」
視線が落ちる。
「その中で……来枝 満って人がいて」
「すごく、良くしてくれた」
「自分だって鎖に繋がれて衰弱していたのに。……あんな震える手で、私の頭を撫でてくれた人を、あそこに置いていくわけにはいかないの」
花崎が、静かに頷く。
「……俺も」
「怖くて、何度も心が折れそうだったけど」
少しだけ、笑う。
「満さんがさ」
「“生きてれば、なんとかなる”って」
短い言葉だった。
でも、それがどれだけ救いだったかは、顔を見れば分かる。
「私も、花崎も」
「励まされたんです」
瑠偉は、真っ直ぐ前を見る。
「だから」
「今度は、私たちが助けたい」
その場に、静かな熱が広がった。
怜が、短く頷く。
「……決意は、十分ね」
振り返り、全員を見る。
「作戦を確認する」
地面に、簡単な図を描く。
「正面は、安室たち」
「満腹亭の入り口を、真正面から叩く」
一拍。
「その混乱に紛れて」
「私が確保していた“隠しの地下道”から侵入する」
「翔さまさまだね、彼が暴れてくれたおかげずいぶん楽になった」
視線が分かれる。
「花崎、瑠偉」
「あなたたちは、私と一緒」
「捕らわれている人間――」
「特に、兄を含む被害者の救出が最優先」
二人は、力強く頷いた。
そして。
怜の視線が、こちらに向く。
「吉沢」
「号」
「大地」
一拍。
「あなたたちは、施設の中枢」
「実験設備の破壊と――」
言い切る。
「幸田零士の排除」
吉沢が、軽く肩を回す。
「了解」
「派手にやろうか」
号は、静かに刀に手をかける。
「……今度は」
「逃がさない」
俺は、拳を握った。
後悔しないために。
そのとき。
「――よし」
無線越しに、安室の声が響いた。
『時間だ』
遠くで、エンジン音。
人数分の足音。
『行くぞ、お前ら』
一拍。
『俺の人生』
『最後の、デカい祭りだ』
笑う声。
『――ド派手にいくぞ』
ノイズ混じりの声の向こうで、何十台もの大型バイクのふかし音と、男たちの雄叫びが重なった。かつてこの街を救った情熱を、安室さんが再び、そして最後に爆発させようとしているのが伝わってきた。
次の瞬間。
銃声。
爆音。
ガラスが砕ける音。
満腹亭の正面が、炎と騒音に包まれた。
「……始まったわね」
怜が、低く言う。
「行くわよ」
隠された扉が、静かに開く。
暗い地下道。
湿った空気。
俺たちは、そこへ足を踏み入れた。
正面では――
町の大人たちが、矜持を賭けて戦っている。
地下では――
俺たちが、奪われたものを取り戻す。
「行くぞ」
吉沢が、背中越しに言った。
「全員、生きて帰る」
誰も、異論はなかった。
想いは、もう揃っている。
あとは――
突き進むだけだ。




