第22話 蠢く「想い」
それから数日間。
俺と号は、転神町を駆け回っていた。
餓楽が仕掛けた化け物が現れれば、そこへ向かう。
倒して、痕跡を消す。
それを、繰り返す。
ある日。
路地の奥で、悲鳴が上がった。
「――来るぞ」
号の声と同時に、
俺は前に出ていた。
店先に立っていた子どもが、凍りついたように動けずにいる。
「逃げろ!」
叫んで、肩を掴む。
突き飛ばすように、背後へ押し出した。
次の瞬間。
化け物の腕が、店の壁を叩き砕いた。
瓦礫が、飛ぶ。
間一髪だった。
俺は踏み込み、拳を振るう。
号の雷が、重なる。
化け物は、短い悲鳴を上げて消えた。
静寂。
震えていた子どもが、ゆっくり顔を上げる。
「……ありがとう」
小さな声。
それだけで、十分だった。
「助かったよ」
「本当に、ありがとう」
店の奥から、大人たちが出てくる。
町の人間が、頭を下げる。
正藤会の構成員も、無言で道を空けるようになった。
名前を呼ばれることも増えた。
顔を、覚えられている。
……悪くない。
そんな感覚が、
胸の奥に、ゆっくり芽生え始めていた。
一方、その頃。
暗い部屋。
「……どういうことだ」
男は、苛立ちを隠そうともしなかった。
「なぜ、まだ安室を殺せていない」
酒瓶を煽り、
次の瞬間、床に叩きつける。
「――あいつがいる限り」
「この町は、俺様のものにならないじゃないか」
部下が、おずおずと口を開く。
「あ、あいつらが……」
「強い子供がいるんですよ、幸田さん」
拳が、飛んだ。
「――俺の名前は」
低く、吐き捨てる。
「マスターと呼べと言っただろう」
部下は床に転がる。
「す、すいません……マスター……」
「これだから、使えないやつらは困るんだ」
男は、背後を振り返る。
「おい」
「怪物兄弟」
闇の中に、二つの影。
「このままじゃあ、俺様の計画は進まない」
一拍。
「――やっかいなガキども」
「片づけろ」
低い声が、返る。
「……了解した」
それだけだった。
夕暮れ。
俺と号は、歩いていた。
「……なあ」
俺は、ふと思ったことを口にする。
「この町の人たち」
「言うほど、悪い人たちでもないのかもな」
号は、足を止めずに答えた。
「あまり、肩入れしすぎるな」
冷静な声。
「俺らとは、生きている世界が違う」
一拍。
「深入りは、危険だ」
分かっている。
頭では。
そのとき。
「――きゃあああっ!!」
悲鳴。
空気が、凍る。
「……またか」
俺が呟く。
「日に日に、多くなってる」
号が、前に出る。
「行くぞ」
踏み出した瞬間。
――ぐにゃり。
視界が、歪んだ。
足元が、消える。
「……っ!?」
次の瞬間。
俺たちは、別の場所に立っていた。
路地でも、広場でもない。
静まり返った空間。
「なんだ……今の」
振り返る。
そこに――
大きな男。
そして、細い男。
並んで、立っていた。
空気が、重く沈む。
――来た。
揺らいでいた想いが、
一気に現実に引き戻される。
この町は、
まだ何も終わっていない。
むしろ。
最悪の相手が――
姿を現したところだった。




