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想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―  作者: ベルナルド
二章 歓楽街転神町編

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第21話 背負う「想い」

 路地裏の空気は、まだ張りつめたままだった。


 ごろつきたちは、いつの間にか距離を取っている。

 誰も、先に動こうとしない。


 その中央に立つ男が、静かに口を開いた。


「――そう身構えないでくれ」


 低く、よく通る声。


「私は、君たちを食いに来たわけじゃない」


 一歩、前に出る。


「私の名は、安室 仁(あむろ じん)


 一拍。


「この町――転神町を仕切る、正藤会せいどうかいの代表だ」


 空気が、変わった。


 号が、わずかに目を見開く。

 俺も、息を呑んだ。


 ――ビッグネーム。


 安室は、それを分かっていて、苦笑する。


「そんな顔をするな」

「今日は、感謝を言いに来た」


 指で、先ほど想獣が消えた方向を示す。


「あの化け物」

「最近、私のシマを荒らしていてね」


 淡々と続ける。


「銃も、刃物も通らない」

「時間が経つと、勝手に消える」


 視線が、鋭くなる。


「……あとに残るのは、死体だけだ」


 嫌な沈黙。


「不気味だろう?」


 安室は、そう言って肩をすくめた。


「今の市長も奴らの手先だろう」

「このままでは、町の人間が安心して暮らせない」


 そして。


「だからだ」


 真っ直ぐに、こちらを見る。


「私と――協力しないか」


 号が、すぐに口を開いた。


「俺たちに、何のメリットがある」


 鋭い言い方だった。


 安室は、少しだけ口角を上げる。


「君たちは、餓楽がらくを追っている」


 ――ビクッ。


 俺の肩が、跳ねた。


 思わず、視線が動く。


「……っ」


「ばか」


 号が、低く吐き捨てた。


 安室は、気にした様子もなく続ける。


「私は、この町のすべてを知っている」

「君たちが、どこを歩き、誰と話したかもね」


 静かな声。


「今や、餓楽は“町を侵す存在”だ」


 言葉が、重い。


「人身売買、ドラック、言えば切りがない」

「それだけにおきたらず」


 一瞬、目が細まる。


「ああいう怪物を使って」

「私を、狙っている」


「……正直に言えば」


 視線を逸らさず、続けた。


「外部に、ましてや子供に」

「この町の行く末を託すつもりはなかった」


 空気が、重くなる。


「だが――」

「何もせずに、町を渡す気もない」


 号は、黙って聞いている。


「お互い、狙いは同じだ」

「私は、情報を渡す」


 間を置いて。


「だから――町を救ってほしい」


 長い沈黙。


 号が、視線を落とす。


 正しいかどうかは、分からない。

 だが。


 この町で、頼れる人間は、確かにいない。


「……仕方ないな」


 号が言った。


「承諾する」


 だが、すぐに続ける。


「勘違いするな」

「信頼したわけじゃない」


 安室は、ふっと笑う。


「それでいい」


 そのとき、俺は一歩前に出た。


「……わかりました」


 短く、言う。


 選択肢は、もうなかった。



 その夜。


 安室は、部下と二人きりで話していた。


「本当に、あのガキどもに町を預けるんですか」


 部下の声は、硬い。


 安室は、窓の外を見ていた。


「預ける?」


 小さく笑う。


「違う」


「守るために、使うだけだ」


 静かに言う。


「町を救えるなら」


「私は、悪魔と契約してもいい」


 振り返る。


「それに――」


 少し、間を置いてから続けた。


「若さというのは、いいものだ」

「眩しくて、美しい情熱がある」


 安室は、どこか遠くを見る。


「……私は、もう失くしてしまったがね」


 静かな声だった。


 一拍。


「私が動けば、大きな戦いになる」


 一拍。


「……もう、若くはない」

「正直に言えば――」

「あの渦中に、耐えられる体でも心でもない」


 目を伏せる。


「だからだ」

「町のために、君たちを使わせてもらう」

 路地裏。


 号が、俺に言った。


「あんなやつらが信用できるはずがない」


 だが。


「この町で、頼れる人間はいない」


 視線を上げる。


「こっちも――利用するぞ」


 俺は、拳を握った。


「……分かった」


 もう、後戻りはできない。


 人の欲と、歪んだ想いが渦巻くこの町で。


 俺たちは、

 一歩、踏み込んでしまった。

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