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想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―  作者: ベルナルド
二章 歓楽街転神町編

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第19話 渦巻く「想い」

 転神町に足を踏み入れた瞬間、

 空気が、肌にまとわりついた。


 ネオンは眩しい。

 だが、どれも目に残らない。


 音が多い。

 笑い声、音楽、呼び込みの声。

 重なりすぎて、どこにも焦点がない。


 人は多い。

 距離が近い。


 肩が触れても、誰も気にしない。

 気にしていないふりをしているだけかもしれない。


 ――落ち着かない。


 理由は分からない。

 ただ、胸の奥がざわつく。


 気づけば、拳を握っていた。


「……ここ、嫌な感じがする」


 俺が言うと、

 号は周囲を見渡したまま答えた。


「人が多すぎる」

「隠れるには、ちょうどいい街だ」


 その通りだった。

 この町では、異常が異常として扱われない。


「手分けしよう」


 怜が言った。


「固まって動くより、噂を拾う方が早い」


 翔は、すでに楽しそうに周囲を見ている。


「じゃ、俺は音のあるとこ行くわ」


 指さした先は、ライブハウスだった。

 重低音が、外まで漏れている。


「人が集まる場所には、感情も集まる」

「感情が集まれば、口も軽くなる」


 そう言って、ギターケースを肩に担ぐ。


 俺たちは、散った。


 俺は、店を回った。


 飲食店。

 雑貨屋。

 小さなバー。


「最近、変わったことはありませんか」


 最初は、皆同じ反応だった。


「さあね」

「特にないよ」


 だが、話題を少し深くすると、

 空気が変わる。


 視線が逸れる。

 声が、低くなる。


「……最近、人が消えてる」

「大人も、子供も」


 ある店主は、声を潜めた。


「化け物を見たって話もある」

「それと……」


 一瞬、言葉を選ぶ。


「……子供が、二人」

「男の子と、女の子が戦ってたって」


 胸の奥が、きしんだ。


「勝ったのか?」


 店主は、首を振った。


「負けたって」

「それで……連れていかれた」


 どこへ、とは言わなかった。

 言えなかったのかもしれない。


 路地裏では、号が動いていた。


「ガキが、俺らのシマでウロウロしやがって」


 チンピラが笑った、その直後。


 号の拳が、腹に入った。


 音は、小さい。

 だが、相手は崩れ落ちた。


「……で」


 号が、淡々と聞く。


「最近、何が起きてる」


 数分後。


「餓楽だ……」

「最近、急にでかくなった」

「さらに、やつらが来てから市長も急に変わった」


「化け物みたいなやつが、二人いる」

「大男と……細い男」


 唾を飲み込む音。


「……逆らったやつは、戻ってこねえ」


 怜は、警戒心の強そうな男と並んで歩いていた。


 距離が近い。

 近すぎる。


「……あそこは、楽園だって言うやつもいる」


 男の声が、いつの間にか緩んでいた。


「行けば、世界が変わるって」

「全部、満たされるってさ」


 怜は、何も言わない。

 ただ、相手の目を見る。


「……満腹亭」


 その名前を出した瞬間、

 男の奥歯が、ガチリと鳴った。喉の奥からヒュッという短い呼吸の漏れる音がして、彼はまるで自分の影に怯えるように口を閉ざした。その沈黙は、雄弁すぎるほどの恐怖を語っていた。


 だが、もう遅い。


 ライブハウスは、熱気に包まれていた。


 翔は、ステージに立っていた。


 ギターを鳴らす。

 音に、感情が乗る。


 会場が沸く。

 知らない者同士が、肩を組む。


 演奏が終わる頃には、

 翔の周りに人だかりができていた。


「最近さ」

「化け物が暴れてるって知ってる?」


「ああ……餓楽だろ」

「満腹亭、あいつらのクラブだ」


「行けば分かる」

「世界が変わるって」


 翔は、笑いながら聞いていた。

 だが、目は笑っていない。


 再び、四人が集まった。


 拾った噂は、どれも形が違う。

 だが、指し示す先は同じだった。


 化け物。

 連れ去られた人間。

 楽園だと囁かれる場所。


「……満腹亭」


 怜が、その名を口にする。


「餓楽が持っているクラブ」

「表向きは、ただの娯楽施設」


 翔は、腕を組んだまま黙っていた。

 冗談も、軽口もない。


 怜は、俺と号を見た。


「……ここで、若い二人はお別れだ」


 一瞬、意味が分からなかった。


「俺も行く」


 反射的に言った。

 だが、怜は首を振る。


「満腹亭への潜入は、大人の仕事よ」


 はっきりした声音だった。


「君たちは未成年」

「それに――まだ未熟」


 言い切られる。


「不満なのは分かる」

「でも、これは遊びじゃない」


 翔も、何も言わない。

 否定しない。


「君たちは、吉沢に報告してきなさい」

「私と翔で、中を調べる」


 胸の奥が、ざわついた。


「……分かりました」


 納得したわけじゃない。

 だが、理屈は理解できた。


 俺と号は、転神町を後にした。


 報告を聞いた吉沢は、少しだけ考えてから頷いた。


「判断としては、妥当だね」


 否定はしなかった。


「君たちが止められた理由も、分かる」

「だからこそ――」


 一拍。


「今回は、任せよう」


 それで、終わりだった。


 俺は、部屋を出た。


 納得したはずなのに。

 胸の奥に、何かが残っている。


 モヤ、とした感覚。


 瑠偉。

 花崎。


 一緒に戦った。

 助けてもらった。


 恩がある。


 ――本当に、何もしなくていいのか。


 翌朝。


 気づけば、俺は転神町に来ていた。


 勝手な行動なのは、分かっている。

 叱られるのも、覚悟している。


 それでも、足は止まらなかった。


 そのとき。


 ――ドンッ。


 爆発音。


 空気が、震えた。


 反射的に、走る。


 人だかりの向こうで、

 異様な姿が見えた。


 どこか歪な想獣。


 形が、定まっていない。


 そして、その前に立つ影。


 ――号。


 雷を纏い、

 一人で、戦っていた。


 嫌な予感が、確信に変わる。


 この街は、

 待ってくれない。


 正しい順番も、

 正しい判断も。


 すべてを置き去りにして、

 事態は、動き始めていた。

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