表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―  作者: ベルナルド
二章 歓楽街転神町編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/37

第16話 日常に残る「想い」

 朝の通学路は、変わらず混んでいた。


 俺は、その流れに身を任せながら歩いていた。

 歩幅は、人より少しだけ大きい。


 気づいて、意識的に縮める。


 校門の前で、同級生に声をかけられた。


「近藤!」

「帰ってきたんだな」


「うん」


「一か月の留学、どうだった?」

「向こうって、やっぱ違う?」


 立ち止まる。

 一瞬、言葉を探す。


「……環境は、違ったかな」


「それだけ?」

「もっとさ、すげー話ないの?」


 首を振る。


「普通だったよ」


 自分でも、便利な言葉だと思う。

 聞かれたくないことを、全部包める。


「ふーん」

「まあ、近藤っぽいか」


 そう言われて、笑った。

 ちゃんと、笑えている。


 教室は、いつもの匂いがした。

 チョークと、ワックスと、朝の空気。


「おかえり」


 声が飛ぶ。


「ただいま」


 席に着く。

 机に肘を置いた瞬間、硬さを感じた。


 こんなに、固かっただろうか。


 授業が始まる。


 ノートを取る。

 板書を写す。


 教師の問いに、自然と手が上がった。


「近藤」


 指された。


「はい」


 答える。

 正解だった。


「……留学ボケはなさそうだな」


 教室に、軽い笑いが起きる。


 それを聞きながら、俺は黒板を見ていた。

 文字の列が、少し遠くにある。


 昼休み、生徒会室。


 書類を整理し、連絡事項をまとめる。

 手順は、体に染みついていた。


「近藤くん」


 生徒会長が声をかける。


「最近、仕事が早いね」


「そうですか?」


「うん」

「前より、余裕がある」


 ペンを置く。


「いい顔をしている」


 一瞬、返答に困った。


「……ありがとうございます」


「留学で、何か掴んだ?」


 少し考えてから、答える。


「……俺が、どこにいるかは」


 生徒会長は、満足そうに頷いた。


「それは、良かった」


 午後の授業も、問題なく終わった。


 放課後、短い任務。


 現れた想獣は、小さく、荒れてもいない。

 それでも、放ってはおけない。


 拳を握る。


 想力が集まる感覚に、もう戸惑いはなかった。


 踏み込む。

 一撃。


 想獣は、声も上げずに消えた。


 終わり。


 拍子抜けするほど、あっけない。


 帰り道、空は赤く染まっていた。


 歩道橋の上で、足を止める。


 街を見下ろす。

 車の流れ、人の流れ。


 全部、動いている。


 ――止まっているわけじゃない。


 そう思って、すぐに否定した。

 自分も、ちゃんと歩いている。


 家に帰る。


「ただいま」


 返事はない。

 それでいい。


 夕飯を済ませ、風呂に入り、部屋に戻る。


 机に向かい、ノートを開く。

 書くことは、特にない。


 それでも、閉じなかった。


 窓の外を見る。


 夜の街は、静かだった。


 何も起きていない。

 今日も、無事に終わった。


 それなのに。


 胸の奥に、薄い影が伸びている。


 気のせいだと、思うことにした。


 電気を消し、布団に入る。


 目を閉じる前、

 拳を、そっと握った。


 力は、ちゃんとそこにあった。


 それを確かめてから、

 俺は眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ