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想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―  作者: ベルナルド
一章 緑等級編

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第10話 調べる「想い」

 任務の内容は、単純だった。


 町の外れ、山の中に化け物が出るという噂。

 それを調べ、必要なら排除する。


 だが、顔を合わせたときから分かっていた。

 この三人は、まだ噛み合っていない。


「……で、どう動くの?」


 天歌が、少し苛立った声で言う。


「まずは町で情報収集だろ」


 俺が答えると、彼女は肩をすくめた。


「そんな回りくどいことしなくても、山に行けばいいじゃない」


「でも……」


 花崎が、遠慮がちに口を挟む。


「噂の出所とか、時間帯とか……分かってた方が……」


「慎重すぎ」


 天歌は、ぴしりと言い切った。


 空気が、また硬くなる。


 それでも結局、町で聞き込みをすることになった。

 吉沢が、何も言わずに見ていたからだ。


 商店街。

 人は少ないが、噂は意外とすぐに集まった。


「山のトンネルだよ」


 年配の男性が、そう教えてくれた。


「夜に通った人が、何人か追いかけられたらしい」


「追いかけられた……?」


「うん。走って逃げたって」


 詳しく話を聞くため、俺たちはその人物を探した。


 見つけたのは、まだ若い女性だった。

 顔色が悪く、落ち着きがない。


「……あれは、人じゃなかった」

 女性はそう言うと、真昼の商店街であるにもかかわらず、何度も自分の背後の路地を怯えたように振り返った。まるで、その怪物の視線がいまだに自分の背中にへばりついているのを確信しているかのように。


 女性は、震える声で言った。


「獣、だったと思う。でも……普通の獣じゃないわ」


「どこが違った?」


 俺が聞くと、女性は少し考えてから首を振る。


「うまく言えない。でも……不気味だった」


 目を、合わせようとしない。


「目が、妙だった気がする。

 あと……泣いてるみたいな声も聞こえたわ」


 その言葉に、花崎が小さく息を呑んだ。


「……泣き声?」


 天歌は、腕を組む。


「化け物が泣く?」


「分かりません。でも……とにかく、怖かったわ」


 話は、それ以上深まらなかった。


 町を出たあと、三人で顔を見合わせる。


「想獣の可能性、あるよな」


 俺が言うと、花崎は頷いた。


「想いが歪んでる感じ、します……」


「夜まで待つ?」


 天歌が、少しだけ考える。


「……そうね。

 出るなら夜でしょうし」


 珍しく、意見が一致した。


 日が沈み、山へ向かう。


 街灯はなく、月明かりだけが道を照らしている。

 問題のトンネルは、山道の奥にあった。


 古く、湿った空気。

 中は暗く、奥が見えない。


「……静かですね」


 花崎の声が、やけに小さく聞こえる。


「静かすぎる」


 俺は、拳を軽く握った。


 そのときだった。


 ――くぅ……。


 低く、かすれた音。


 人の声にも、獣の鳴き声にも、はっきりとは当てはまらない。


「……今の、聞いた?」


 天歌が、足を止める。


 トンネルの奥からだ。


 ――ひっ……ひっ……。


 今度は、はっきりとした泣き声だった。

 それは、あまりに無防備で、あまりに痛々しい響きだった。天歌の剣幕がわずかに削がれ、花崎の恐怖に「戸惑い」が混じる。誰かの「助けてほしい」という切実な想いが、闇の奥から物理的な圧力となって押し寄せてきた。


 胸の奥が、ざわつく。


 人か?

 それとも――。


「……行くよ」


 天歌が、一歩踏み出す。


「待って」


 花崎が、思わず腕を掴んだ。


「まだ……中に何がいるか……」


 二人の視線が、ぶつかる。


 俺は、深く息を吸った。


「……慎重に行こう」


 トンネルの闇を、見据える。


 調べなきゃいけない。


 ――この泣き声の、正体を。

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