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五智の『作品』なら瀬良は見えること。そして五智があの女性を作って瀬良に見せたこと。オフィスに設置された立派な机を挟んで、荒木は巡に今回の顛末を語った。満足げにそれを聞く巡を見て、荒木も鼻高々である。
「で、あの女性が誰か分かったんですか?」
「はい、瀬良さんの母親でした」
「え? 違いますよ?」
「え?」
自信満々で答えた荒木を、巡はあっさり否定する。一体なにが違うというのか。瀬良が母だと言ったのだから違うわけがないだろう。
「ほら、写真残ってますから」
荒木も知っている、あの部屋にある肖像画。あれは巡の祖父である。写真にはその絵が映し出されていた。その横には油画そっくりの祖父と、その横で緊張した面持ちの子供、そしてさらにその横に女性が映っている。
「子供が瀬良さんで、隣がお母さんです」
塩顔でまっすぐな黒髪は肩の辺りで切りそろえられている。あの絵にも、そして五智が作った彫刻とも乖離している。
「……どういうことですか?」
「聞きたいのは僕の方なんですけど」
完全にやり遂げたと思い込んでいた荒木は絶句する。しかし己が成果を挙げたことは間違いない、と巡に再度対峙した。
「まあほら、なんにせよ、五智さんが作って見せてくれたわけですから。誰であれ瀬良さんに描かせることはできるじゃないですか」
「できませんよ? あの人、自分が描いてる絵も人間だと認識した瞬間に見えなくなるんですから」
覚えてないんですか、昔あの人が描いてた人物画。と巡は続ける。荒木の脳内は子供の落書きのようなハチャメチャな絵を思い起こした。完全に失念していた。荒木は反論が思いつかない。何も言えずにいると巡はふっと表情を崩した。
「でもあとちょっとですね。じゃあ引き続き頑張ってください」
あれが誰なのかも分からず、瀬良に描かせることもできない。つまり己はまだあの画家の面倒を続けなければいけない。
転職しようかな、と荒木は思った。しかし流石に行動に移すまでには至らなかった。




