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京葉文化大学美術サークル及び株式会社スラストーン美術課活動報告書  作者: 荒間文寧


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5-5

 結論から言うと、五智は岩手県にある寺の離れにいた。彼の地元にある、そう大きくはない寺である。実家から歩いて四十分ほどだ。

 失踪してすぐに実家には確認を取ったと聞いていたが、どうやら隠されていたらしい。ダメ元で荒木が訪ねたところあっさりと教えてくれた。

「何も知らない体でいてくれ、と最初は言ってたんですけど、先日、もう終わるから誰か来たら通していいと言い出しまして。会いに行くのであれば場所はお教えします」

「ぜひお願いします」と荒木が食いつくと、母親は荷物を差し出してきた。ついでに食べ物持っていってもらってもいいですか? と言われたので素直に頷く。寺の住所をスマホの地図アプリに入力してから五智の実家を出た。暦の上ではすっかり秋だが、まだ涼しいとは言いがたい気候である。住宅街を抜け、山へ向かって荒木はゆっくりと歩いて向かった。道中、巡にだけは一本連絡を入れておいた。


 寺は閑散としていた。木々に囲まれている分、道中よりはずいぶんと心地がよい。近くに川があるおかげだろうか、吹く風も涼を含んでいるように感じた。大きくはないが歴史のありそうな本堂の側に一人、軽装の中年男性を見かけたため荒木は声を掛ける。五智の荷物を持ってきた、と伝えたところあっさり場所を教えてもらえた。

 離れと聞いていたが実際目の前にすると蔵である。予想よりずっと背が高く、重たそうな観音開きの扉がそびえ立っている。かんぬきは掛かっていない。逃げたわけではないだろう、と瀬良とともに結論を出してから三ヶ月、その間も荒木は彼を探し続けていた。別の同期にも会いに行ったし、地元以外に縁のある土地はないかと身辺を洗ったりもした。手伝うでもなく油絵を描くわけでもなく、その間ひたすら怠惰をむさぼる瀬良に苛立ちを感じながらも荒木は捜索していたのだ。それでも見つかるときはこうもあっさりしたものらしい。

 数ヶ月の苦労がついに報われる歓喜と、やっかいな仕事が終わる安心感。そして渦中の人間と対峙する緊張感を胸に荒木は扉を叩いた。返事はない。もう一度強く叩くが、やはり中からは何の返答もなかった。荒木はため息をつく。そして意を決して扉を開けた。

 広い蔵の中で、光源は一つしかなかった。それは奥の床から発している。ランタンのような、そう大きくない光であった。しかし扉を開けたことで自然光が差し込み、内部の様子を荒木ははっきり認識することができた。自分から開けておきながら、荒木は声を発することができなかった。その光景は異様としか表現しようがない。蔵中の床を埋め尽くすように、それどころかさらに山のように積み上がっている物体は人の頭部であった。木を削って作られたそれは当然のように全て違う顔つきと表情をしている。当然動くはずがない。オフィスで見たときのような精密さはない。どれも荒々しく削り出されている。なのに今にも喋りだしそうなほどリアルであった。そんな顔が大量に、そして乱雑に蔵の床を埋め尽くしている。

 生きた人間は一人だけであった。ランタンの側で座り込んでいる。荒木側からは丸めた背しか見えない。大きな音を立てて空いた扉にも反応を示さず、ただひたすらに手を動かしている。髪は肩よりも長い。癖がついてあちらこちらの方向へ毛先がはねており、到底手入れなどしていない様子である。身につけているTシャツも古びて薄汚れている。我々の読みは当たったらしい。本当にここへ籠もっていたのだろう。荒木は掛ける言葉が見つからなかった。荷物を持ったまま蔵の中へ足を進める。意図的に五智の背を凝視した。床に転がる頭部に視線を向けると目が合うようで怖かったからだ。

 荒木がすぐ背後に立ったと同時に、五智は手を止めた。そしてこちらを振り向く。顔の下半分は髭に埋もれていた。その上部にある瞳は鋭かった。腹を据えたように、覚悟が決まったような強い視線は荒木を認識した瞬間に弱まる。どうやら五智にとって、荒木の登場は予想外だったらしい。

「お前、まだ巡の遣いやってんのか」

「お久しぶりです」

 最後に会ったのはおおよそ七年前だ。荒木はそのときの五智の容姿をそう鮮明に思い出すことができない。日本人離れしたほど背が高く、体格がよかったことだけはぼんやりと覚えている。少なくとも目の前の、世捨て人のような風体の男があの大学生と同一人物であると明確に認識することはできない。しかし五智は覚えているらしい。七年経過しているにもかかわらず、荒木があのときの運転手であることに一目見ただけで気がついたのだ。

「持ってきましたよ」

 家族から預かった荷物を差し出す。五智は座ったままそれを受け取った。そしてまたすぐに鑿を手にして手元の木材へ当てだした。

「もうすぐ終わる。あと少しだ」

 荒木を見ないままそう呟く。そんな五智の周囲にもやはり大量の彫刻が転がっていた。やはりどれも頭部ばかりで荒々しい。オフィスで作っていたような、精密かつ全身を作る時間はなかったのだろう。そんなことをしてはどれだけ掛かるか分かったものではない。

「全員作るつもりですか」

「もう終わった。あとは頼まれたものだけだ」

 つまり残すは永旗の兄だけということか。荒木はポケットから名刺ケースを取り出す。

「できあがったら、私に連絡もらえますか。……永旗さんはもう完成してます。それから、瀬良さんが同席したい、と」

「……そうか」

 五智はまた手を止めて荒木を見た。そして「分かった」と呟いてしっかりと頷いた。

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