表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
京葉文化大学美術サークル及び株式会社スラストーン美術課活動報告書  作者: 荒間文寧


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/42

4-5

 それから永旗はひたすらデッサンを続けた。師であるはずの五智はあまり教えてはくれない。鉛筆の削り方と、紙への当て方や道具の使い方は一通り教えてくれた。後はこれを読め、と教本を渡されて後はほぼ放置だ。

 永旗は渡された三冊の本を頼りにひたすら見よう見まねで鉛筆を滑らせる。

「無心でやれ」と五智は言う。永旗は永旗は頷きながらも内心「無理でしょ」と思っていた。たった一つの物体を書き出すために見るべきものが山ほどある。大きさ、距離、形に色、質感。そして影と光。それらをかみ砕いて飲み込む。脳から出た信号が右手を動かし、それに連動して動いた鉛筆が一本の線を紙に残す。それをつなぎ合わせた形は微塵も想像通りにならず、寝かせて塗った面はいつまで経っても白黒で色など微塵も再現できない。

 一枚描くたびにヘトヘトになる。五智に差し出すと一瞬だけ見て、頷いて、すぐに仕舞われる。

 それを週五の八時間だ。三ヶ月が経ったころ、永旗はついに五智へ尋ねた。

「これ、いつまで続ければいいんですか」

 今日描き上げたデッサンを差し出しながら永旗は言った。今日の題材は事務椅子と、座面に置いたスーツのジャケットだ。上着は別の社員に借りた。

「飽きたか」

「だいぶうんざりしてきました。最近退職の二文字が頭を過ぎります」

 五智は今日描いたデッサンを受け取り立ち上がった。いつも通り、物置と化しているデスクの引き出しを開ける。そしていつもどおりそこに仕舞うかと思いきや、今回はそこからもう一枚を取り出して永旗へ差し出してきた。

「ほら」

 今完成させたばかりのデッサンと同時に差し出されたのは三ヶ月前に永旗は人生で初めて描いたデッサンであった。鉛筆と練り消し、そしてスケッチブックが描かれている。線はへにょへにょで光源はめちゃくちゃ、パースもおかしくて遠近感が微塵も表現できていない。

「私、めちゃくちゃうまくなりましたね」

「そろそろデッサン以外もやるか」

 周囲の社員たちが立ち上がって順に去って行く。今日も無事に定時を迎えた。

「明日は歩くぞ」

「はい」

 返事をしつつも、どこかへ行くのだろうか? と首をかしげるも五智は説明する気がないらしい。作りかけの彫刻を置いて帰り支度をしている。永旗もそれに習った。歩こうが座っていようがどうでもいい。デッサン以外ならなんでもいいか、と思うほどに疲れ果てていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ