教えて! セレスティア先生!
カロ様の着任から二週間が経ち、ついに今日、カロ様の新しい機体となるホブゴブリン、形式名称『F.M.P5GN.HG-01』が納品される。
私の研究室で、カロ様と私は、エレンが淹れてくれたお茶を飲みつつ、納品作業の終了を今か今かと待っていた。
そういえば、この二週間で気づいたことがある。
それは、カロ様とフォロワー談義をしていると緊張しない、ということ!
どうやらカロ様は辞令が出てからここに着任するまでの三ヶ月、かなり魔導科学とフォロワーについて勉強したらしい。
すごいよね。普通の試験操縦士なら与えられた機体に乗って感想を言うだけなのに、この先進研で専門用語ばかりの会話についていけるくらいに勉強しているんだもの。お陰でコミュニケーションも取りやすいし、周りの評価も爆上がりです。
ホブゴブリンを指定したのはきっと勉強したからこそ、その有能性を知りたかったのかも。うんうん、ホブゴブリンも良い機体ですからね。私の好みはパワー! なスプリガンⅣのほうですけど、堅実性はホブゴブリンが上ですし。
そんなことをエレンに報告したら、「はぁ……」とため息をつかれた。なんで?
そして今日もカロ様が、そういえば、と言いながら私にフォロワーについて聞いてきた。
「いつも思っているんだが、なぜホブゴブリンはプレ第五世代機なんだ?」
私は上げていたティーカップをソーサーに戻しつつ応える。
「ああ、よく聞かれる話ですね。これにはちゃんと理由があるんです」
そのまま椅子から立ち、黒板へと近づく。そのままチョークを手に取り、黒板に書き始めた。
「魔導歩兵の世代を決めているのは王家なんですが、明確な基準点があって」
「一つは、前世代と比較して性能を超えていなくてはならない」
文章を書いた後、マッチョなフォロワーを描く。
「二つは、前世代と隔絶した技術革新をしていなければならない」
文章を書いた後、猿と人を描く。
「三つは、魔導科学の進歩を示すものでなくてはならない」
文章を書いた後、その横に『Follow Magia』と書いた。
Follow Magiaとは、魔導歩兵の正式名であり、『魔導科学と共にある者』という意味。形式名のF.M.もこの略称だね。
「要するに、第五世代は第四世代より強くて斬新でこれぞ魔導科学の最新! でないとだめなんです」
バン、と黒板を叩く。この指針があるからこそ、魔導歩兵における世代基準はとても厳しい。
「この基準からすると、ホブゴブリンに代表されるプレ第五世代は世代基準を超えてないんです」
ホブゴブリンのパンフレット写真を黒板に貼り付ける。スプリガンより少し背が高くなり、手足のバランスも良くなったホブゴブリンの体は、第四世代にあった魔力肢がなくなり、樹脂・金属、そして魔導流動筋肉をボディフレームに採用したことでより機械的な見た目になったフォロワーだ。
この魔導流動筋肉というのは、スライム種の魔力で伸縮・流動する体を解析し、原始魔術でより効率の良い素材へと改良・精製した人工の魔力駆動筋肉のことだ。これにより、魔力肢より消費魔力が少なく、出力の減少が少ないボディフレームが出来上がった。
黒板に貼ったホブゴブリンの写真から線を引き、マギア・アクチュエータ・フレームや魔導流動筋肉、魔力導線などの語句を書き込む。
「第四世代よりも出力や操縦性能が落ちる代わりに、魔導流動筋肉のお陰で稼働時間が長く、タフで、理念制御も緩め」
スプリガンもホブゴブリンも、一長一短の性能をしている。短期決戦のスプリガンに長期戦のホブゴブリン、といったところだろうか。
「ただ技術的には第三世代の発展系であり、第四世代の退化とも言えるんです」
フォロワーは第三世代まで、魔力糸魔術などの物体を操作する魔術を参考に開発されていた。魔力肢のような魔力による物質化現象を利用したものではなく、魔力で糸を作り出し、物質で構成された機体を操っていた。
こういった物質機体の利点は、魔力の消費が少ないこと。問題点は、操作難易度と力がないこと。
第四世代は魔力の消費が激しい代わりに、出力も上がり、操作追従性が圧倒的に上がったため、第三世代を駆逐した。
しかし、戦争が長期化するにつれ、高い魔力消費量は魔結晶のもととなる魔石の枯渇という予測できる危機を招いてしまう。
それを解決すべく立ち上がったのが、第三世代発展型開発計画だった。
「ホブゴブリンはあくまで大戦時の魔結晶不足を解消するための、いわば間に合わせのフォロワーなんですよ。戦時中で緊急性があったとはいえ、軍部から依頼を出された時の私たち先進研の胸中は複雑でした」
懐かしいなぁ、みんなでブーブーと抗議を室長にしたなぁ。
負けたら真っ先に潰されるのはここだぞ、と室長に言われたらみんな黙って開発し始めたけど。
「魔結晶の兵站は戦場での喫緊の課題だったからな。材料の魔石確保によく魔物狩りに連れていかされたよ」
「えぇ……軍部はなにやってるんですか、兵站崩壊してませんか?」
「中央と現場は遠いってことだ。俺たちにはデザートスプリガンがあったから配備されなかったが、ホブゴブリンはあの戦争には合っていた」
「燃費よし! 扱い良し! 耐久よし! ですからね。軍部の要望を叶えた甲斐がありました。あと、反ルキアルク連合の狙いの一つに魔石枯渇による魔導科学兵器の使用不能があったという見方もあって」
「有り得る話だな。魔導嫌い共が考えそうだ」
「ほんとあいつらしつこくて嫌ですね。ということでプレ第五世代は本当のところ、第三世代発展型というべきなんですが、戦中の活躍によりプレ第五世代に格上げ指定になったというわけです」
黒板に『第三世代発展型(3GNev)→プレ第五世代(pre5GN)』と書いて、私はチョークを置いた。そして椅子に座り直し、ごくり、とお茶を飲んだ。
「じゃあ、第五世代はどうなるんだ? このままプレ第五世代が最新世代になるのか?」
「そこなんですよ。確かに魔導流動筋肉は技術革新であるんですけど、原始魔術系統魔物素材工学の話であって、魔力肢生成の別アプローチでしかないですし」
ざっくりいえば、フォロワー自身が肉体を魔力で作り出して動かすか、外で作っておいた体に繋いで魔力で動かすかの違いだ。
「そもそも、第4世代が魔導科学として完成されすぎているんですよねー。だけど、それは魔導科学を研究する者として悔しいじゃないですか。魔導科学は進歩すべき科学。魔導科学とともに進化するべきフォロワーに、完成したものはありはしないんです!」
「完成したものはない、か」
カロ様が、握り込んだ自分の拳を見て呟く。
「じゃあ、なにか解決策はあるのか?」
私がそれをじっと見つめていたことに気づいたカロ様は、慌てたように続きを聞いてきた。
「そうですね。プレ第五世代をそのままにして、別アプローチから第五世代、もしくは第六世代を作ったほうがいいんじゃないか、というのが私の考えです」
「別アプローチ?」
「今まで魔導歩兵に搭載していない機能を搭載する、もしくは魔力効率はそのままに性能や出力を拡張するシステムを載せる、あたりでしょうか」
「性能を拡張、か」
その時、館内のブザーが鳴った。ハンガーの固定完了のブザーだ。
「そして、その真・第五世代を開発するのが、魔導科学研究所分局F.M.先進技術研究室、つまりここなのです! さあ、カロ様のホブゴブリンも納入されましたし、早速起動してみましょう!」
ぱっと椅子から飛び降り、その勢いのままドアを開けて、私はハンガーへ向かう。
「……なんというか、変な姫様だ」
後ろでカロ様が何か呟いた気がしたけど、多分気のせいだよね。
──◆◇◆◇◆ 次回予告 ◆◇◆◇◆──
意気揚々と納入されたホブゴブリンを見に行くセレスティアとカロ。
そのホブゴブリンの前に、とある人物が立っていた。
その姿をみて半眼で睨むセレスティアと、敬礼するカロ。
「やあ、元気なようだね。南部の英雄」
次回――『北部平定しちゃおうぜ! by 第二王子』
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