推しバレ、せ、せ――――ふ!(セーフではない)
な、なんでバレたの!
あまりの展開に動揺した私は、顔にそのまま出してしまった。
「どうして、と言いたげな顔だな、王女殿下」
それを見逃さないカロ様。
鋭利な眼差しが私を射抜く。うああっ、すごく格好いいけど、責められる側で見るのはなんというか、別の感覚が芽生えそうで危険です!
その視線でタジタジになりながらも、私は必死に言葉を探す。
誤魔化す→無理、あの様子は絶対確信してる。
論点をずらす→そんなことより、ってどんなことよりって話!
定型文で攻める→本日はお日柄もよく、晴れときどき推しバレ?
だめだ、どんどんだめな方に行ってる……!
いや、よく考えるのよ、セレスティア!
そう、まだカロ様の愛機を研究室で落札したことがバレただけ!
誰が落札したとかはバレていない!
だから、この場合の最適解は……!
「はい……、あなたのスプリガンⅣを改造したのがあのフォロワーです」
素直に、認めること……!
「やはりそうか……」
眉を寄せるカロ様、まるであの子に会いたくなかった、と言いたげな顔だ。
「でも、なぜ気づいたんですか?」
「……操縦席の右側に、テープの跡が残っていた」
「テープ? 何かを貼っていた?」
「ああ、そこには写真を貼っていたんだ」
「写真?」
「俺の、彼女の写真だ」
「へっ?!」
カロ様の彼女?!
いやまあ、タレント契約していても彼女とかいる人もいますし?
別にこの国では貴族以外は自由恋愛は当たり前っていうか?
だからカロ様に彼女がいても別に、推し活を辞めるなんてことはないですけど?
「俺が訓練生として中央軍部に来る前に故郷で付き合い始めた彼女だ」
「ソ、ソウナンデスネ」
知りたくもない情報が追加されていく……!
推しの彼女歴を推し本人から聞くとかなんの地獄か?!
「ああ、そして先日、故郷に帰ったときに彼女の子供に会ったよ」
「――へあっ?!」
子供? カロ様の?! いやだってこの間のインタビューで十年ぶりの帰郷って書いてましたよね!? 十五歳のときの子供ってこと?!
「俺の親友との子供だってさ」
「ええぇ――――ッ!!!」
それってつまり、始祖王様が「この世の邪悪の一つ」と言い切った『寝取られ』ってやつ?!
「『待てなかった』、だそうだ。まあほぼ十年放置した自分も悪かった。仕方ないとは納得したし、溜まりに溜まったご祝儀も送っておいた」
カロ様、真面目か?!
「もちろん、写真は即捨てたけどな」
フッ、とカロ様はどこか影のある微笑みを見せる。
「私、いい呪術魔導具知ってますよ」
ニヤリ、と私も悪い笑みを返す。NTRダメ絶対。
「いや、呪うほどじゃない。それよりも」
再び、彼が私を見やる。あの鋭利な眼光で。
「なんでこのデザートスプリガンがあるんだ?」
「え、えーとですね……」
ついに聞かれてしまった! 必死で理由を考える私。
そして閃いた。特別予算を使った理由をそのまま使えばいい、と。
「ほら、カロ様の愛機ということは、かなりの実践データが溜まっていまして」
ぴくり、とカロ様の眉毛が上がる。
「そのデータをオークションで失ってしまうことは魔導科学研究所としては損失なわけです」
「そうなのか?」
「ええ、なので、他人に取られる前に落札したわけです」
軍部がチャリティオークションに出すという情報を聞いたときに「何やってんの、ちい兄様――――!」と叫んだ理由の一つに『貴重な情報が何処かに取られたらどうするの!』というのもあった。もちろん一番の理由は『推しの愛機をオークションに出すな!』です。
「なるほど……。しかし、落札した人はかなり喜んでいたが……」
そういえば観覧席で見ていましたね……!
「そりゃあもう推し……じゃなくて、貴重なデータを得られたことに喜んでいたのでしょう」
ええ、推しの機体とデータを得られたと、両方の意味で喜んでいましたよ、私が。
「しかし、あれに二一◯億の価値はあったのか?」
「何をいいますか! まず十年近く戦場を戦い抜いたという実績! 南部戦線という特殊な戦場の生データ! そしてカロ大尉の類まれな操縦による戦闘痕! どれも一級、いえ、特級のデータです! これがフォロワーの発展に寄与することは間違いなしです! 特にフォロワーの惚れ込み具合は初めて見たレベルですよ! だからこそ、カロ大尉専用にこの機体を作り上げたんです!」
「そ、そうか」
はっ、力を込めて語ってしまった! カロ様も若干引いてる気がする。
「こほん、ともかく、自信を持ってください、カロ大尉。英雄機にはその価値があるんです」
「英雄機、か……」
カロ大尉は、遠くを見るように目を細める。
その先には、イモムシっぽいオーガの姿。
そして、私は気付いた。
あれ、いい感じに話をずらせた気がするぞ、と。
これは、もしや、推しバレを回避したのでは!
脳内の球場で、『セレスティア第三王女、推しバレ回避!』の横断幕が垂れ下がり、球審が「セエエェェフ!」と叫ぶ光景が目に浮かんだ。
……ええ、全然セーフじゃないです。まだ『この研究所に落札した人物がいる』という事実は変わっていないので。でも……この場は切り抜けた!
なんとか窮地を脱したと確信(?)した私は、そのまま言葉を続ける。
「このオーガは、きっとカロ大尉の新しい英雄機になります。さあ、乗ってみてください」
私は、オーガを指差す。二本角の頭部の中で、きっと彼女が今か今かと待っているはずだ。
しかし、カロ様は首を横に振った。
「いや、すまないが、俺はもうあの機体には乗らない」
「へっ?」
まさか断られると思わなかった私は、呆けた声を出す。
「第四世代は魔結晶の消費が激しすぎる。現場意見だが、これからはプレ第五世代の時代だと思う。だから、プレ第五世代であるホブゴブリンを用意して、それを開発機にしてくれ」
え――っ! 特別予算をほぼ使い切ってデコったのに! それに、彼女があんなに待っているのに! と文句を言い出す前に、カロ様が言葉を続ける。
「その条件を飲んでくれるなら、俺は貴女の試験操縦士になるよ」
「はい! わかりました! よろしくおねがいします!」
私は手のひらをぐるんと裏返し、彼の提案を受け入れたのだった。
◆◇◆◇◆
『小娘』
『カロ様はどうした、小娘』
『聞いているのか、小娘』
『小娘』
『小娘』
「あーもー! 知らないー! カロ様の考えなんてわかるわけ無いでしょー!」
私はオーガの操縦席で、無限に尋ねてくる彼女の声に音を上げるのだった。
──◆◇◆◇◆ 次回予告 ◆◇◆◇◆──
推しバレ回避――!! セレスティアの脳内で踊る横断幕。
しかし、よくよく考えると推しとひとつ屋根の下(研究棟)で一緒に過ごす(働く)ってこと?!
果たして、セレスティアは耐えることができるのか!
次回、『教えて! セレスティア先生!』
あれ、話の流れ変わったな?
楽しんでいただけたら、応援やブクマで“推し”ていただけると嬉しいです!




