推しの機体をデコって最強にしよう! 2
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『第四世代魔導歩兵の魔導核内部に発生した高度知性体の再利用方法の確立』
『第四世代魔導歩兵の強化発展型プロトタイプの開発』
彼女を説得した次の日、この二つの研究計画書を私は所長の机に叩きつけた。所長は黙って計画書を読み、一言。
「承認する。特別予算内でやりたまえ」
白髪のオールバックでスリーピースのスーツをかっちり決めている所長が、承認印を取り出し、ぽん、ぽん、と二つの企画書に押印する。
「話が早くて助かります、所長」
「こういう時の君は止めないほうが国の益となろう。この研究所が爆発しない限りは好きにやりたまえ。それに――この間の無駄遣いについての言い訳にもなる」
「ええ、英雄の愛機ですもの、二一◯億の価値はあります!」
「ん? 特別予算の五◯億を使ったと、報告書にはあったが」
「え? 落札額は二一◯億エンですよ?」
私の言葉を聞いて、所長の顔が固まった。
「……セレスティア君」
「はい」
「それは公金の私的利用にならないかね?」
「大事の前の小事です」
「それ、使い方を間違えているからな……」
所長は眉間をつまみながら、深くため息をついた。
「あら?」
大きなことを成すなら小さなことは気にしない、って意味じゃないんです?(※違います)
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カロ様が来るまで、約三ヶ月。日数で言うと八◯日しかない。
この八◯日の間に、彼女のデータを解析して、具体的なサルベージ案をまとめ、新魔導核を開発した後、載せ替えをする。
さらに、第四世代フォロワーの発展機の開発も同時並行しないと時間が足りない。
「ということでアルト研究員」
「なんすかー、セレ様」
廊下を歩いているアルト研究員を捕まえた私は、「手を出して」とジェスチャー。彼は素直に手のひらを私に差し出す。
「これ、書き溜めた第四世代発展型の設計図と今まで解析できた魔体子ね。一週間ぐらいで組み合わせが良いのを見繕って?」
かちゃかちゃ、と十枚の記憶魔結晶板《MD》をアルト研究員の手に載せる。
「ははは、冗談うまいっすね」
引きつった笑いをするアルト研究員。
「ふふふ、本気よ」
「え?」
私は彼の肩をポンと叩きたかったけど、叩けなかったのでお腹にパンチ。
よし、これで一週間、私はサルベージの方に専念できる!
絶望顔のアルト研究員を放って、私はスプリガンⅣの操縦席に向かった。
『小娘』
昨日、MD五◯枚ほどのデータを吐き出して安心したのか、彼女の声色は落ち着いていた。いや、私の声なんですけどね。膨大なデータは現在解析にかけています。
「昨日ぶりですね。だいぶ落ち着きました?」
『……』
「そうですか、良かったです」
体調、まーるっと、魔導板にメモする。
「それで、新機体の件ですけど、先に言っておきます。おそらくこの魔導核をオーバーホールしても十分には動かないです。良くて七割かな」
『小娘?』
「なので、あなたに合った新しい魔導核を作成して、そこにあなたを移植します。今日は新しい魔導核の要望を聞きに来たわけです」
『小娘』
「おっと、データの垂れ流しはだめですよ。よく考えてください。なにせカロ様が来るまであと八◯日しかないんですから!」
虹色発光をし始めたウィンドウの光がやみ、代わりにウィンドウに文字が表示された。
「データストリーム以外で意思表示できるじゃないですか……どれどれ。げっ」
そこには、ウィンドウいっぱいに並べられた最小フォントの文字列。
「魔力炉の出力性能を三倍、魔導回路の記憶層を一◯倍なんてできるわけないでしょ! 身体の類感転写のラグをなくすって簡単にいってますけど、原理的にゼロにできませんから!」
びっしりと書かれた注文に私は冷や汗をかく。おそらくカロ様を乗せた戦闘のタラレバから生まれた内容。世界初の、フォロワーからの生の意見。技術的に無理なことも多いけど――
「能動的に動かせる腕が欲しい? 確かにあなたなら動かせますね」
ちょくちょく使えるアイディアもあったので拾っていった。
要望をまとめ、アルト研究員と新機体を設計し、同時進行で彼女をサルベージする魔導具の開発、新機軸の魔導核の設計も行う。
時間も予算もないので、スプリガンⅣから使えるところは使っていく。
操縦席は清掃してからそのまま使用、特別製のハードポイントも利用、魔導核の外殻も利用だ。
お陰で、拡張する部分の開発に注力できた。
「できたっすよ、新しい身体。……なんでうちよりも三倍仕事してるのに、生き生きしてるんですかね、セレ様は」
目の下に隈を作ったアルト研究員がそういいながら、人工魔体子の設計図が入ったMDを私に渡してくる。
「ありがとう。うーん、楽しいからかな?」
最初は、英雄機をデコることの後ろめたさもあったけど、今は純粋に楽しい。
彼女からの要望から、カロ様の操縦のクセが読み取れたのも大きい。この新機体をカロ様が乗ったらどんな操縦をするのか妄想するだけでもワクワクが止まらない。
ともあれ、新機体の最後のパーツである人工魔体子――魔力肢の設計図をもらったので、これを新しい魔導核に組み込んで、彼女を移設すれば完了だ。
そして、その日がやってきた。
研究所のハンガーに、二つの外装を外した魔導核が並んでいた。
旧式の魔導核、つまり彼女が入っている魔導核は、正方形に近い六面体が印象的だ。
対して、新しい魔導核は八面体。
ええ、魔導核は全部新設計です。そのおかげで世代交代してもいいくらいの超高性能。ただ、試作品な上、かなり無茶な実装をしているので一般化できませんが。
私とアルト研究員でそれぞれの魔導核に触れ、魔力炉を手動で起動。外装が淡く輝き、魔力生成を確認。
そして、それぞれの魔導核にある、一つの面にあるウィンドウ接続用のコネクタにコードを繋げる。
そのコードの先に、牛ぐらいに大きな黒い箱があった。高度知性体移植魔導具『のりかえるくん』(命名:アルト研究員)だ。
類感魔術の特徴である、存在の相似――似た者同士に、同じ現象が起こるってやつ――と、魂魄魔術の特徴である魂の魔術化――ざっくり言うと、自分の魂を飛ばして対象の意識を乗っ取ったりする魔術。
そこに、彼女が提供してくれた魂の構成データを組み合わせて開発した『のりかえるくん』は、高度知性体限定で身体の乗り換えを可能にした。
ちなみに、私たちの魂は構成データマップがないし、ゴミデータが多すぎ&アク抜きできないので無理です。体を入れ替えて無限の命とかできません。
できないと言っているのに所長から『本当か? 封印指定しなくてもいいのか?』と何度も確認されたけど。
そんな『のりかえるくん』の機能は単純。旧魔導核と新魔導核を同じ身体と思わせて、魂をこねこねして魔術化、同じと思わせた新魔導核に魔術を発動し、その後、魂を新魔導核にきちんと定着させてから解除するだけ。
するとあら不思議。
『……小娘?』
新魔導核に外装とウィンドウを取り付ければ、見事に彼女は起動した。
「成功したよ、お疲れ様。調子はどう?」
私はウィンドウを覗き、彼女の動向を見守る。
『小娘――ありがとう』
新しい魔導核で増えた記憶層を使い、彼女は初めて『願い』以外の言葉を紡いだ。
「どういたしまして!」
それに、私は満面の笑みで答えた。
カロ様が先進研に来るまで、あと三日。
──◆◇◆◇◆ 次回予告 ◆◇◆◇◆──
やるべきことはやった。
セレスティアは満足そうにハンガーに吊るされたフォロワーを見つめる。
推しの機体から作り出した、推しを最強に至らせるフォロワーを。
そして、ついに時は訪れる。
次回、『推し、来る』
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