推しの機体をデコって最強にしよう! 1
私、エレニア=フェリド=ヴェルサリアは眼の前にいる我が主、セレスティア=ヴェリタ=ルキアルクの狼狽ぶりに困惑していました。
昨日の辞令を見て以来、三回は転倒、お風呂で溺れかけ、朝は下着を履かずに出勤しそうになり、今は私の前で椅子に座りながら小言を繰り返しています。
しかし、こんなに狼狽していても我が主は可愛いです。
金糸もかくやという輝きを持つ金の髪、翠玉の瞳、可愛らしい小顔と、始祖王の伴侶であった始祖王妃様の種族であるエルフの血が色濃く出た顔立ち。その長い髪を編んで大きな毬にしているのは勿体ないと思いますが、切ろうとするよりマシと思いましょう。最近は両側に毬を作るのも流行っているようなので、また編み技を仕入れないといけませんね。
お背はギリギリお殿方とダンスができる程度。お世辞にも高いとは言えませんが、可愛らしいのでよし。しかし、こんな可愛らしい姿で大きめのTシャツと丈夫な作業ズボン(若干裾あまり)という姿、まるでエルフ娘がドワーフの鍛冶師の真似をしているような、そんなチグハグ感があります。この上に白衣を着ているときもあるのですから、我が主のファッションセンスは壊滅的です。お陰様で着せ替えが捗ります。ただ、上の下着だけは忘れないでほしいものです。そちらはそれなりに大きくなっているのですから。
「エレン、どうしよう、エレン」
意識が別方向に飛んでいましたが、セレスティア様の声で戻されました。
お側付きとしては頼っていただけるのは嬉しいですけど、対応には限度というものはあります。
「どうしようもありませんね、カミングアウトするべきでは?」
昨日の提言を再び申します。
「そんなことできるわけないでしょ?!」
しかし、返事はいつもこれです。
カロ様の隠れ推し活をするセレスティア様には譲れないものがあるようです。
「そうはいっても、コレを落札している時点でどう回避するのですか?」
「うっ!!」
現状はどう見ても王手。対応手はあるのですが……。
「データはもう取ったのですし、あの機体を捨てれば解決しますよ?」
「そんなことできるわけないでしょ!!」
こんなふうに自ら詰みに追い込んでいるのです。
「それはそうでしょう。運用資金以外ほぼ全財産注ぎ込んだアレを捨てるなんて、ありえません。むしろ捨てたら私は実家に帰らせていただきます。さあカミングアウトしますか?」
お側付きとしてセレスティア様の資産運用なども見ていますが、あのオークションの落札は私も衝撃を受けました。
運用資金以外すっからかんで、自由にできるお金が全く無くなっていたのですから。
いくらお金がかかる美容・衣装・宝飾品に興味がないからと言って、日用品もロイヤルグレードで高いのですから、限度というものがあります。
あと私の給金も忘れていたでしょう?
「あ、あぁぁぁ」
再び頭を抱えるセレスティア様。
まだまだ続きそうですので、お茶でも淹れて差し上げましょうか。
私は席を立ち、給湯室へ向かいました。
◆◇◆◇◆
お茶を飲みながらしばらく待っていると、ついにセレスティア様が顔を上げました。
「――はっ! 理解りましたよエレン!」
「はい?」
ひらめいた!と目を輝かせるセレスティア様。
なぜでしょう。すごく嫌な予感がします。
「つまり、気づかれなければいいんです!」
「まあ、そうですね?」
つまり、捨てるということでしょうか。私は続きを聞きます。
「スプリガンⅣをデコりましょう! そりゃあもう原型もわからないくらいに!」
「はい?」
「ついでに、最強のフォロワーにしちゃいましょう!」
「え?」
『デコる』という言葉は、セレスティア様が様々なものを改造したり開発するときの言葉ですが、あの壊れかけをデコる?
「それに、彼女にとってもそれが最良です!」
彼女って誰ですか?!
「じゃあ、ちょっと説得しに行ってきます!」
誰を、どこへ?!
理解不能の情報に処理が追いつかず、ツッコミが間に合わず、風のように去る我が主を見送って、私は呟いた。
「ど、どうしてそうなるんですか……」
◆◇◆◇◆
『カロ様を連れて来なさい、小娘』
再び、スプリガンⅣの操縦席に来た私は、理念選定機構を起動させ、私の声を真似るこの子に会いに来た。
「多分こっちの声聞こえてますよね? じゃあ単刀直入に言いますね」
一息ついてから、私は《《彼女》》に提案する。
「あなたを新しいフォロワーに生まれ変わらせます」
『カロ様を連れて来なさい……小娘?』
1フレーズを繰り返すだけだった彼女の声に変化が生まれた。
「ぶっちゃけますと、あなたはもう戦場では戦えないんです」
『……』
「黙ったということは、自分でも理解ってるんですね」
魔導核のウィンドウがピカピカと光る。そこには、すべて異常なしを示す画面。
「ウィンドウでは騙せたかもしれません。しかし、現実は非情ですよ。測定機のデータによれば、魔力炉はボロボロ、魔力肢は実体維持がせいぜいで、戦闘稼働すれば消えてしまう、魔導回路も魔力経路が擦り切れ寸前、現地改修したハードポイントは無事ですが、骨格マウントとの接続部の摩耗が」
『小娘』
もうわかっている、と言いたげに私の言葉を切る彼女。
「うん、野暮ですね。でも、これでわかっちゃったんです。あなたの考え――」
それでも、彼女は操縦者に会いたい。残り少ない魔導回路の空きに、私の声で作った願いを繰り返す、その意味は。
「――カロ様に、最後の別れを言いたいんですよね」
沈黙した彼女。私は言葉を続ける。
「現状、魔導核を再利用する方法はないです。それに兵器ですから、耐用年数を超えた、稼働基準を満たさないフォロワーは通常、分解後、リサイクルされます」
彼女がここにいるのは、彼の愛機としてオークションの品物になっただけで、本来はもうこの世界にはいない。
「人工生命体である魔導核がここまで自我を持つケースは聞いたことがないですけど、おそらく、近いケースは戦場では多くあったと思います」
『小娘』
「でも、そんなの悲しいじゃないですか」
『小娘?』
ぽたぽたと、太ももに何かが落ちる。
私は、いつのまにか泣いていた。
目元をゴシゴシと擦って、彼女に向き直る。
「カロ様はここに来ますよ」
『カロ様を連れて来なさい、小娘!』
彼女の語気が強くなる。強く願う。
「でも、そのボロボロの姿で会いたいですか?
どうせなら、新しく美しく強い機体で、会いたくないですか?」
だから、私は彼女の願いにも応えたい。
「そして、もっとずっと、一緒に過ごしたいって思いませんか?」
もちろん、私の都合もあるけど。
「安心してください。私、フォロワーをデコることには自信あるんです」
私は胸を叩いた。
『……小娘』
彼女は一言いうと、ウィンドウを光らせる。
「ん? えっ、これって」
淡い赤の発光から、橙、黄、緑、青、藍、紫と変化する。
この発光パターンは、データストリーム開始のパターン!
「アルト研究員! 記録魔導具とありったけの記憶魔結晶板《MD》持ってきて!」
すぐにハッチまで戻り、外にいるアルト研究員にお願いする。
「えー、またっすかー、いってきまーす」
間延びした声が聞こえ、どたどたと走り出す音も続けて聞こえた。
「絶対にあなたを生まれ変わらせてあげる」
おそらく、この虹色の光は彼女の構成データだ。
「同担だからね。助け合わないと」
こつん、と私は光り始めたウィンドウに拳を当てた。
楽しんでいただけたら、応援やブクマで“推し”ていただけると嬉しいです!




