推しの機体が研究所に納入されました
魔導歩兵『フォロワー』を固定するハンガーに、その機体が固定された。
一つ角を持った兜を思わせる、後頭部が伸びた頭部。
そこから首下は浅黒く、角ばった肢体が伸びる。人の形を取っているが、指の数が四本だったり、足の形が違っていたりするし、手足の長さの割に背が低い。
そして、その身体に突き刺さるように、金属で作られた外装のハードポイントが露出している。
ハンガーの、右手側を見ると、半分削れた肩装甲、へしゃげた足甲、塗装どころか地金まで削れた手甲など、歴戦を思わせる外装パーツが、固定用ハードポイントにマウントされていた。
左手側には、巨大なボウガンと片手剣がマウントされている。どちらもよく手入れされていて、大事にしていたことがわかる。
「こ、これが……カロ様が乗っていたフォロワー」
私は感動で打ち震える。軍部ジャーナルでも新聞でもない、推しの愛機が目の前にあるのだ。許されるなら、このまま拝み倒したいくらい。
「型名F.M.4GN.SP-04ad.cs-D、第四世代の名機であるスプリガンⅣをベースに改良をほどこし、さらに砂漠仕様に現地改修を施したカロ様の愛機」
装甲色には砂漠のカモフラージュとして黄土色を採用することで敵機に見つかりにくくしている。さらに砂塵の中でも問題なく動くよう、高い密閉性を持つ特別なハードポイントを使っているため、砂漠で潜伏しても問題ないようになっている。また、スプリガンⅣ本来の魔力肢のカラーである赤色発光から、ライトブラウンに変更し、できるだけ発光を抑えるように魔導回路を改造した特別なモデルだ。
実利を重んじる南部伯軍での遊撃を担うデザートスプリガン隊にのみ配属された現地改修モデルだ。本当は防刃防塵マントもあったらしいけど、最終戦で無くしたらしい。残念だけど、仕方ないね。
「セレさまぁー、ハンガーには載せましたけど、ほんとこのボロどーすんです?」
同じ所属であるアルト研究員が私に声をかけてきた。短い赤髪と高い背、垂れ目が特徴的な人だ。言動から分かる通り、非常にのんびりしている。
「え、いまボロっていいました?」
だが、私は彼のその言葉を見逃さない。
「いってないです、ロボっていいました」
慌てて訂正する彼。まあいいでしょう。
「ですよね。ほらほら、見てください、この手甲の傷! おそらく正面から来た敵の斬撃をいなしたんでしょう、裂くような傷じゃなくて、かすれるように傷がついてます。さすがカロ様! なんという身体制御!」
ハンガーに固定された装甲だけでも垂涎ものの情報の宝庫だ。この傷はもしかして、あの戦いの時の!? と妄想するだけでもパン三個は食べられそう。
「はぁー、なるほどー、傷を見るだけでも得る情報はあるとー。でもうちらは実働データを見たいんですよねー。なので、さっさと魔導核から抜き取って来てください。また室長が無限小言生成機になりますよ」
しかし、彼は感動しない。さすが『推しなし』を公言するアルト研究員だ。ガードが硬い。
それに室長の無限小言はさすがにまずい。
この前のオークションで、私の権限を使って特別予算を使ったら、室長とすれ違うたびに「特別予算……」「五◯億エン……」「魔結晶二◯年分……」と小言が降ってくるのだ。英雄機からのデータサルベージのためと説明したら止んだけど、二回目はご勘弁願いたい。
「しかたないですねぇ……愛でるのは後にしますか。アルト研究員、搭乗シークエンス出してください」
「はーい、ほらほらーみんな退避ー。英雄機が頭をさげるよー」
アルト研究員は、魔導板とよばれる片手で持てるサイズの板から、指で操作して搭乗シークエンスを実行する。
頭部の固定具が外され、体勢が自由になったスプリガンⅣは、肘と膝を曲げながらゆっくりと倒れ、頭部の目線が地面と並行になるように接地した。
フォロワーの操縦席は頭部の後頭部にあるため、魔力肢発現状態だとこの姿勢が一番乗りやすい。
アルト研究員に首後ろからはしごを渡してもらい、いそいそと登って、ハッチ前に到達。スイッチを押してハッチを解放する。
「ここが、カロ様が搭乗した操縦席――!」
席の後ろから操縦席全体を見回す。
カロ様の身体に合わせた席の両脇には、身体の固定と射撃管制を制御する操縦桿があり、席の前には大きな球体、その先にはスクリーンが配置されている。
この大きな球体こそ、魔導歩兵の中心部、魔導核だ。
魔導核にはウィンドウと呼ばれる円形スクリーンがあり、ここに魔力を込めて触れると、魔導歩兵が起動する。
「中はスプリガンⅣからあまり変わってないんですね」
席の背面からぐるっと全体を見回した後、思い切って席に座る。
カロ様に合わせているだけあって、大きい。私の背では肩口までギリギリ届くくらいだ。
それに、少しザリザリとした感触もある。南部戦線の砂だろうか。オークション司会者が言ったように、そのまま持ってきたのだろう。
「あ、でもテープとかでシーリングしてる。なるほど、砂対策ですね」
スクリーンや操縦桿の接続部など、砂が入ってはいけない部分に黒いテープで細かくシーリングされている。良い整備士がいたんだな、と感心する。
「さてさて、一応試しましょうか」
魔力を手に込めつつ、私は魔導核のウィンドウに触れた。
魔力が繋がる感覚、その後、魔導核のウィンドウが光り、現在のステータスが表示される。
魔導歩兵教練に従い、ステータスを口頭で確認していく。
「魔力炉、通常使用範囲内で正常稼働。魔力肢への魔力供給、正常。魔力肢の実体保持、正常。外装ハードポイント保持、正常。全ステータス、問題なし。操縦系掌握のため理念選定機構へのアクセス開始」
『我は問う。汝は如何なる者か。理念を示せ』
口頭確認を認識した魔導核が、私に問う。
「我、王国を司る者にして、民の守護者なり」
私は、王家に連なる者としての理念を宣言した。
『否決、我が主、カロ・デ・フォンターレの理念と相違あり。操縦権限なしと判断だんだんだんDa――』
「まあ、それはそうよね。私が起動できるはずないか」
魔導核はいわば人工の生命体といえる存在だ。
なぜそんなものを開発したかといえば――魔導歩兵の基幹技術である魔導科学は、もともと“魔術を再現する科学”として発展してきたからだ。
もともと、魔術というものは魂を持った生命体が魔力を使って発現する現象のことだ。
そんな魔術の発現に必要なものはざっくり三つある。
それは、魔力・生命・理念。
魔力をエネルギーとして、生命活動で加工し、理念で現象を固定・制御する。
魔導核は、そのうちの魔力と生命活動を再現するけど、最後の理念だけは、使用者や操縦者が示さないといけない。
私の意思、魂の形、存在定義はこうである、と。
――ってエラー音やまないな。一回再起動したほうがいいかな?と思った矢先、
『――カロ様を連れて来なさい、小娘』
エラー音が止み、魔導核から合成音声じゃない、私の声色を真似た音声が聞こえた。
「ひっ」
私は慌てて魔導核のウィンドウに手を触れて魔力伝達を切った。
「超過稼働させて耐久限界まで使った、とは聞いてたけど、魔導回路もだいぶやっちゃってない……? 惚れ込みすぎでしょ。というか何よ小娘って。これでも成人してるんですけど」
私はじっと魔導核を睨む。魔力接続を切られた魔導核は、もちろん沈黙していた。
「まあいいです。さっさとその魔導回路にたまりにたまった稼働データをちゅーちゅーしますか」
再び起動した魔導核のウィンドウに記録魔導具のアダプターを取り付けて、ボタンを押し吸い出し開始。
記録魔導具にセットしたカセットの円盤が低速で回転しながら、ウィンドウに表示されたデータを刻み込む。
「……え、うそ、記憶魔結晶板一枚じゃ足りない?」
記録開始してしばらく経った後、異変に気づいた。
データ吸い出しの進捗が全く進んでいないにも関わらず、MDの容量が限界を迎えそうになっていたのだ。
データの精度は魔導核によって多少の誤差はあるけど、ここまで膨大なデータを詰め込んでるなんて、聞いたことがない!
「ちょっとまって――アルト研究員! 書き込み可能なMDありったけ持ってきて!」
ハッチから顔を出し、外にいるアルト研究員に頼み込む。こんな貴重なデータ、ヌケモレするわけにはいかない!
「えー、まじっすかー、そんなにあったかな。倉庫みてきまーす」
「ありがとう!」
走っていくアルト研究員を見送り、私は再び魔導核と向き直る。
「どんだけ語りたいのよ、あなた……そっか、あなたもカロ様の推しってことね」
魔導核は、操縦者の理念を魔導回路に刻み込む。
魔導歩兵を起動するために。
魔導核は、操縦者の理念に同調する。
より強く魔導歩兵を動かすために。
その末に、魔導核は惚れ込むのだ、自分の主人を。
魔導歩兵はそれ故に、一般からフォロワーと呼ばれる。
操縦者に追従する者と。
「だったらさっきのは牽制? 同担拒否なの?」
むっ、と私は口を尖らせる。始祖王様は同担拒否もまた推し方の一つ、とは言ってたけど、私は同担はいればいるほど良いと思う。
「私たち、仲良くはなれなさそうね――まあ、安心しなさい。あなたをスクラップにすることはないから」
ふふっ、と私は魔導核に向かって微笑んだ。
その時、ハッチの方から足音が聞こえた。
アルト研究員かな、とその方向を見たとき、私のお側付きであるエレンが血相を変えてハッチの端を掴んでいた。
その手には、封を切られた封筒があった。
「セレスティア様、これを、これを見てください」
エレンがウェーブが入った黒髪を揺らしながら、操縦席近くまで寄り、私にその封筒を渡す。軍部の紋章が入った封筒だ。また依頼かしら、と封筒から厚手の紙を取り出し、固まった。
『カロ・デ・フォンターレ大尉を王国暦323年4月をもって魔導科学研究所分局F.M.先進技術研究室付魔導歩兵試験機操縦士に任ずる』
「へあっ?」
何やってるんですか、ちい兄様――――――!!!
私は心のなかで、兄であり軍部大将である第二王子に叫んだのだった。
──◆◇◆◇◆ 次回予告 ◆◇◆◇◆──
南部の英雄、魔導科学研究所分局F.M.先進技術研究室に配属せり。
この一報は各界に衝撃を与えたが、セレスティアはそれどころではなかった。
このままでは、推しに愛機を落札したのが自分だとバレてしまう。
この事実を隠蔽するために、この国の第三王女が取った行動とは――
次回――「推しの機体をデコって最強にしよう!」
楽しんでいただけたら、応援やブクマで“推し”ていただけると嬉しいです!




