リコ樹国へ 2
更新再開です。
◆◇◆◇◆
魔導列車が目的地の駅に近づく。
そういえば、正当な手段で外国に行くのは初めてだな、と俺は気付いた。
特に、戦争中は街は攻略対象でしかなかったから、こういう形で他国の街に来るのはなんとも変な感じだ。
とはいえ、今回はこのリコ樹国からの魔物討伐依頼を受けてここにいる。
敵国でなく友好国、今までのような命を狙われるような心配はしなくていいだろう。
それよりも、だ。
目の前の姫様が、ずっと固まっているのだが、どうしたんだろうか。
いつも通り、気さくな感じで話しかけてくれればありがたいのだが。
何度も声をかけようとしてエレニア様に止められているのを見るところ、共通の話題を探そうとしていることは分かる。
一応助け舟として魔石消費と魔物氾濫について質問したが、それ以降は黙ったまま車窓の向こうを見るか、こちらをちらりと見るだけだ。
その時に視線が合うのだが、慌てたようにまた車窓へと視線を戻す。
うーん、謎だ。
まあ、謹慎期間が終われば、またいつも通りの姫様に戻るだろう。
今は目の前の仕事に集中しよう。
王女殿下が言ったように、リコ樹国はこの世界樹の周辺を大昔から管理してきた歴史ある国だ。それこそ、古代魔法王国がこの大陸を支配していた頃からここ一帯はエルフの土地だと認識されていたくらいに古い。
彼ら曰く、神の時代の頃から世界樹に居たとも。
俺は歴史学者じゃないから、何が正しいかわからないが、それだけ長くいたことは事実のようだ。
そんなことを思いふけっていると、車窓の景色が変わった事に気づいた。
色鮮やかな花々が、車窓を埋め尽くしたのだ。
建物の土壁が根ざした華樹で花々しく入り乱れる様子が、車窓越しでも鮮明に伝わってきた。
これが、華彩の都市とも言われる、リコ樹国の首都――『アルボレア』か!
俺の目が丸くなる様子を姫様が見たのか、少し笑う。
「すごいでしょう? これがこの世で一番美しいと言われる華彩の都市、アルボレアです」
「ああ、ああ! すごいな……。語彙力がなくなるのが悔しいくらい、圧倒的な美しさだ」
興奮しながら目の前の光景について俺は話す。脳の処理能力が全て鮮やかな光景を覚えこもうと躍起になっていた。
「この花々は植物魔術によって手入れをされていて、枯れることはほぼないんですよ」
「それもまたすごいな」
この光景の全てが魔術で作られ、維持されている。
エルフはほぼ全員魔術師だと聞いていたが、ここまでのことができるとは思わなかった。
「でしょう? あと、季節によって咲かせる花が違うんですよ。四季で都市の色が変わるので、『アルボレアへは四度訪ねるか一年居るべき』と言われるほどなんです」
「この光景がまた変わるのか……色が想像できないな」
今でも季節の花色を手当たり次第にばら撒いたような色彩だが、妙に統一感がある。
秋の今、淡い色合いの花が多い。これが冬になったらどうなるのか、俺には想像が出来なかった。
「もちろん、この花たちはただ美しいだけではなくて、魔物除けの効果もあるんです。これが世界樹の麓で首都を持てた理由の一つになってるんですよ」
「ああ、だから氾濫の中心地に近いのに建物に傷がないのか」
辺境では家というのは魔物から身を守るシェルターでもある。だから、建物に傷がない王都にも驚いたが、アルボレアには城壁もない。つまり、魔物がここに来ないのだ。
「魔導具の魔物除け花冠ランタンも、この植物魔術から来てるんです」
「まじか……魔物狩りでめちゃくちゃ世話になったぞ、あのランタン」
師匠と一緒に夜超えの魔物狩りに行った時、ランタンをテント近くにぶら下げるだけで狼の魔物が寄って来なかったことを思いだす。
「あのランタンのように、夜にあの花たちもほんのり光るので、それはもう綺麗ですよ。ただ、カーテンは厚いものが必須です」
「たしかに、ずっと明るいと寝れなさそうだ」
ですよね、と姫様が笑い、釣られて俺も苦笑した。
「お二人とも、もうそろそろ駅に着きますよ」
エレニア様が引き出し机の上を片付けながら到着が近いことを知らせてくれた。
文字通り花々しい線路を進み、巨大な木造の駅舎へと進む。
樹木魔法のおかげなのだろうか、木を組んだような継ぎ目がなく、まるで木がそのまま建物の骨格になったかのような建物の中を、列車が進み、そして減速する。
『終点、アルボレア駅〜、アルボレア駅〜。お出口は左側です』
ルキアルク王国――リコ樹国間鉄道の終着点である、アルボレア駅に着いたことを、車内アナウンスが伝える。
おっと、降り口は反対側か。俺は後ろへ振り向く。
振り向いた車窓の先に、異様な光景が広がっていた。
駅のホームが花で覆い尽くされていた。
いや、正しくは壁全体が花文字である文章を構成していたのだ。
その文章とは――『ようこそ! セレスティア王女殿下!』。
「セレスティアちゃーん! おひさしぶりー!」
その花文字の中心に、耳以外は姫様に瓜二つの顔をした、エルフの女性が立っていた。
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