魔石が欲しい、大量に。 by 先進研室長 1
「本当によくやってくれた、カロ大尉、エレン」
室長室で俺とエレニア様が、うなだれている王女殿下を挟み込むように扉付近で並び立つ。
机に座る室長は、資料を見つつ俺達を労う。
「いえ、当然のことをしたまでです」
エレニア様は何も言わずにいたので、代わりに俺が応える。室長は資料――彼らの開発プラン――をパラパラとめくり、特大のため息をついた。
「まさか裏でこんなことをしていたとは」
「自分もエレニア様から聞いたときは驚きました」
公的な研究機関の私物化とも取られかねない所業に、室長も俺も眉間に皺を寄せる。
「セレスティア、年々君の悪癖はひどくなっているな」
「う……」
バツの悪そうな顔で、室長から顔を背ける王女殿下。
「研究員十五人を巻き込んで、F.M.5GN.RCの武装コンペとは……、君は傾国の美女にでもなる気かね?」
「うう……でも」
言い訳をしようとする彼女を、室長は手で制する。
そして、彼女を地獄に突き落とす言葉を告げた。
「謹慎だ」
「えっ?」
呆ける王女殿下。
俺も耳を疑った。王女が、謹慎?
「君には罰が必要だ。謹慎一ヶ月、その間、研究開発を禁止する。エレン、見張りを頼む」
「承知いたしました」
エレニア様はスカートを摘んで綺麗なカーテシーで返す。横の王女殿下、ロイヤルにあるまじき顔をしているが大丈夫か?
顎が外れたようにあんぐりと口を開けている姫様。そして、大きな声で抗議を始めた。
「そ、そんな! 大叔父様、私に死ねといいますか?!」
「人生、研究も開発も出来なくても生きていける」
絶望した声を出す王女殿下だが、室長は涼し気な顔で反論。
「生きがいなしで、何が人生ですかー!」
その場で足踏みする王女殿下。王家の姿か、これが。
「エレン君、そこのバカを抑えておいてくれたまえ」
室長は眉間を揉みながらエレニア様に指示をだす。
エレニア様は王女殿下を持ち上げる。
持ち上げる?! エレニア様、細腕と思いきや、力あるんだな……。
持ち上げられた王女殿下は地面に足がつかないのか、次第に大人しくなっていった。
「さて、カロ大尉」
「はい」
室長が俺に声をかける。何かしらの依頼を頼まれるのだろうか、何度か感じた雰囲気だ。
「以前、このバカから聞いたのだが、南部で魔石集めに魔物を倒していたそうだね?」
「ええ、自給自足が常でしたので」
師匠に良く連れられたことを思い出す。生身でもフォロワーに乗っても、よく魔物を狩ったものだ。
「なるほど。ところで、君もうすうす感づいていると思うが」
机の上で手を組み、室長は重々しく言葉を吐いた。
「――魔石が、ないのだ」
魔石、それは魔導具やフォロワーを動作させるのに必要な魔結晶の原材料だ。
その枯渇はこの国の根幹が揺らぎ、そして崩れることを意味する。
「……魔結晶高騰の話は聞いていましたが、枯渇するのはいつの予定ですか?」
「非常時の在庫を含めて、あと一年だ」
国庫にある魔石は、そもそも腐らないためかなりの数を保存していた。しかし、この反ルキアルク戦争によってかなり消費したと聞いている。
「……いや、少なすぎませんか?」
だとしても、少なすぎた。以前の軍務教習では十年分の魔石はあると習ったんだが。
「北部の大戦、魔導建機の普及、国境砦や北都の建設ラッシュ……そして、かつての反ルキアルク連合に参加していた国への魔導具輸出によって、魔石の需要が爆発的に上がっている」
「あー……平和需要、ですか」
「平和維持需要、とも言えるがな」
自虐的に笑う室長。とは言え、魔石がないことはもう一つの問題が出てくる。
「それなら、魔物が増えている可能性がありますね」
魔石は古くから魔術師の魔力回復に使われていた。
しかし、魔石を大量に消費すると、魔物が出る。
これは辺境の経験則から知っているが、最近は法則性が見つかったらしい。
たしか、論文のタイトルが『原始魔法による不活性魔素の活性化と魔物出現の因果性について』だったか。魔法研究家の彼が言っていたな。
正直よくわからなかったので、今度王女殿下に聞こう。
「そうだ。しかも先の大戦で大量の魔素が敵味方で消費されてしまった。これは由々しき事態と言える」
「魔物の、氾濫」
「すでにその兆候は西の国、リコ樹国で起こっているらしい」
リコ樹国は、ルキアルク王国建国時から友好国であるエルフの国だ。
始祖王のお后もエルフだったことから、密な交流を続けている。
この部屋からもよく見える世界樹は、リコ樹国の象徴であり、その麓と森が彼らの土地なのだ。
この世界樹は世界に恩恵を多く与えるが、魔素が濃い影響で魔物が発生しやすく、氾濫が起こりやすい。
しかし、そこは人類種最強の魔術適性を持つエルフ。
魔術によって幾度も魔物の氾濫を抑えてきた。
彼らは世界樹の管理者であり、世界の守護者なのだ。
俺は軍務教練で習ったリコ樹国の内容を反芻する。
「たしか、王国も魔物氾濫の鎮圧に参加しているんですよね」
「ああ、第四世代ができてからはむしろこちらがメインになった」
「そうなんですか……って、今まで戦争していたと言うことは」
「ああ、察しのとおりだ。森の魔物の駆除依頼が、リコ樹国から来た。氾濫寸前で止めている、とのことだ」
いままでフォロワーという力で圧していた魔物の勢力が、戦争によってできなくなり、氾濫しかけている。
そこに大量の魔力・魔石の消費だ。リコ樹国の森は魔物の楽園になっている可能性がある。
「カロ・デ・フォンターレ大尉、君にはリコ樹国に行き、魔物を狩ってもらいたい」
そして――、と室長が言葉を続ける。
「魔石が欲しい、大量に」
すごく切実そうな声が、室長室に響いた。
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