推しの機体を落札しました
『さあ! 終戦記念軍部チャリティオークションもついに、ついについに最後の一品となりました!』
オークション司会者の声が響く。これまで落札された品物はどれも最高額を達成し、会場のテンションも最高潮で、それに引きずられているのか、マイクパフォーマンスも絶好調だ。
仮面越しに周りを見ると、私とおなじように仮面を付けた人々が、魔導光で照らされた演壇を見つめている。
バックヤードから持ち出されてきたのは、スエード調の赤布に隠された、一枚の板。
板が演壇に設置されると、司会者が布を取り払う。
『さすがに大きいので会場に持ってこられなかった一品! なんと! 南部戦線を終わらせた英雄、カロ・デ・フォンターレ大尉の愛機、《スプリガンⅣ改・砂漠仕様》だあああああ!!!』
その板に転写されていたのは、黄土色の外装と、浅黒い角ばった四肢、そして一つ角の顔が印象的な魔導歩兵『フォロワー』の姿だった。
『きゃあああああああああ』
その勇姿を見た瞬間、私も含め女性陣が一斉に声を上げた。
それもそのはず。軍部ジャーナルや新聞のモノクロ写真じゃない、リアルなフルカラーの写真に興奮しないのは無理があるだろう。
『おっと、ご令嬢方のいい声ありがとうございます! 聞こえてますかー! 観覧席にいるカロ大尉! お、手を振ってますねー!』
壇上の司会者が三階にある観覧席へ声をかける。そう、今日のオークションは私の推し――カロ様も来ているのだ。しかも手を振って……!
同じ空間に推しがいる――、幸せで死にそうだけど、本番はここからなのだ。
『このフォロワーはスケールモデルやレプリカどころじゃあない! そのまま! 南部戦線で戦い抜いたそのままの姿であなたの家に届くぞ! 諸君、ちゃんとお迎えの場所は用意しているだろうな?! いいか、でかいぬいぐるみじゃないぞ!』
少し笑い声が聞こえる。「うちには入らないからな!」という小言も少し聞こえた。
『ここで注意だ! このフォロワーはすでにカロ大尉にゾッコンなので、本人以外は起動することはできないぞ! ただフォロワーの体である魔力肢はカロ大尉のご協力で発現状態で固定していただいたから安心してくれ! 魔結晶を魔導炉にくべ続ければ、推しの魔力が少し混ざった機体の体を存分に愛でることができるぞ!』
ああ、そこはちゃんと説明するんだと感心する。
操縦者に惚れ込んだフォロワーは、その操縦者以外では起動できない。
特に第四世代のフォロワーは、身体を魔力肢という半実体で構成しているので、発現しないと頭部だけになってしまう。そうなると装甲も武器も装備できない。
つまり、操縦者が発現しないままだと、落札して届いたのが頭だけでピクリともしないフォロワー、なんてことになりかねない。
『ほかにも細かな注意点はあるが、そんなの関係ねえよなあ、レディース・アンド・ジェントルメン!!』
注意点は最低限に、会場の熱狂を冷まさないよう、司会者はさらにボルテージを上げていく。
『さあ、お前達の推しへの愛を見せてみろ! 九億エンからスタァァアトォォォオ!』
ガベルが叩かれ、最後のオークションが始まる。
今回は終戦直後ということもあり、非常にいい雰囲気のチャリティーオークションだった。皆の顔も明るく(仮面で隠れてるけど)、軍部もタレント契約した兵士だけでなく、いろんなアイテムを提供してくれた。ここから戦後復興に使われるだけあって、貴族も大盤振る舞いだ。
ただ、開始価格には異議を申したい。
英雄の愛機が同世代の一般価格とか、なめてるのって話!
だから、私はパドルを上げてふるいをかける。
「九◯億」
掲げられたパドルが、一斉に下がった。
『おっといきなり十倍だぁ! 他はいないか!』
『一◯◯億!』
蝶の仮面を付けた貴婦人が、パドルを上げて宣言する。さらに減る参加者。
『なんと十億上乗せだあああ! 数多くのオークションで司会者をしてきた俺も冷や汗をかいてきたぞぉぉ!』
安心して、司会者さん。この熱狂はあなたの司会運びのせいじゃないから。
私たち、カロ様単推し勢が本気を出しているだけだから。
『一◯五億!』
猫の仮面を付けた令嬢も負けじと食らいつく。
『おっと、ここで刻んできたか!? いや騙されるな! 五億だぞ! 五億! 平民の生涯年収の数倍だぞ!?』
「そんな刻みで足りるとでも思っているんです? 一二◯億」
そして、ルキアルク王国第三王女であり、魔導科学研究所分局F.M.先進技術研究室主席研究員である私、セレスティア=ヴェリタ=ルキアルクが推しに本気を出せばどうなるか、見せてあげましょう!
あまり使わずにおいたお小遣い、開発した技術ライセンス料、軍部依頼の特別報奨金をぜーーーーんぶ解放し、なんなら先進研の特別予算も使う! 貴重な戦闘データを取得するためとか言えばなんとかなるだろうし!
『おっと、またペースを上げてきたぁぁあ! ってかいきなり十倍にしてきて今度は一五億アップって、そこの不死鳥の君は何者なんだ!』
『一二五億!』
『再び五億アップ! ケタがでかい刻み合いだぁ!』
『一三五億!』
「一五◯億」
『あれぇ? 五億刻みが可愛く見えてきたぞ? 一気に一五◯億突破ァ!』
『ひゃ……一五五億』
猫仮面令嬢の声が上ずった。
『ここで五億刻みの君が追いすがる!』
私はそこを見逃さず、追撃する。
「一七〇億」
私が申告した値段を聞いた猫仮面令嬢は少し笑い、札を下げた。
『な、なんと不死鳥の君、五億刻みの君を追い立てて札を下げさせたァ!!!』
『一八◯億!』
だけど、オークションは終わらない。ついに私と蝶仮面の貴婦人だけとなり、決闘の雰囲気を出していた。
「一九〇億」
『息をつく隙無し! もう少しで大台を突破するぞ!』
『くっ、一九一億』
「そろそろ刻み合う頃合いですか……? 一九三億」
『一九四億』
「一九六億」
『一九七億』
「一九九億」
『……一九九億五千万』
五千万刻み。確かにそれに乗って細かく最終価格を決めても良い。
だけど、私の推し愛は……圧倒的勝利で決めたい!
だから私は、最後の価格を告げた。
「もう終わりにしましょう。二一◯億」
二一◯億。フォロワー最新機一〇体分の値段だ。
蝶の貴婦人はこちらを見て、微笑みながら札を下ろした。
私は天高く拳を上げ、勝者のポーズを取る。
『静かな刻み合いのなか、不死鳥の君、トドメの二一◯億!!! すべての札が下がり、これにて落札だああああああ!!!』
ガベルが振り落とされ、少し鈍い音とともにこのオークションが閉じる。
過去最大の価格が更新され、万雷の拍手をもってオークションは終了した。
オークションが終わった後、最後まで競っていた蝶の君が話しかけてきた。
「ナイス推し愛でしたわ、セ……不死鳥の君」
「こちらこそ、ナイス推し愛でした、蝶の君」
同じ推しを持つ同志、推し愛を魅せた者同士、熱く握手を交わす。
始祖王様も言っている。同担はいいぞ、と。
「いえいえ、手に入らないのは残念ですけど、あなたならカロ様の機体を大事にしていただけるでしょうし」
「もちろんです」
「ふふ、それに、これはこれでカロ様の中央入りのお祝いになるでしょうから」
チャリティーオークションといえども、提供したタレントにはそれなりの割り当て分が入る。たしか三割ほどかな? つまりカロ様に最新機三台分から税金を引かれた額が入る。
南部から中央に来るカロ様にとって、お金はあって困らないはず。
そういえば、観覧席にいたカロ様はどうなったのだろう、と三階を見る。
「……動きませんね?」
椅子に座ったまま、微動だにしないカロ様がいた。
「……感動で打ち震えてるかもしれませんわ」
「……かもしれませんね」
動かない推しを見て、私たちは妄想をふくらませるのだった。
──◆◇◆◇◆ 次回予告 ◆◇◆◇◆──
公私混同の末、推しの機体をゲットしたセレスティア
研究所に納入されたそれを見上げ、自然と口元が緩む
しかし、それは彼女への苦難も導いていた
次回――『推しの機体が研究所に納入されました』
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