対信仰魔術【神使】特化戦略兵器『信ずるは誰ぞ』性能試験リザルト 1
「つまりだ、設置型の戦略兵器は罠として使うべきであって、攻めるために使うものじゃない。実際、範囲外からの神使には意味がなかった。せめて投石機みたいなもので上げて短時間だけ効果があるとかできないのか?」
私とカロ様はテーブルを囲って討論を交わす。
議題は『対信仰魔術【神使】特化戦略兵器『信ずるは誰ぞ』性能試験の結果』について。
「簡単にいいますね! でもそのアイディアはいいかもしれません。ただ、使い捨てみたいにフォロワー級の魔導核を使うのはさすがにコストが高いですよ。せめて帰還できるようにすれば」
性能は上々、神使化どころか信仰魔術自体を無効化できるため、信仰魔術に頼っているルツィー神国の戦力を効率的に削ぐことができた。
しかし、それはうまく展開できた時の話。
平定作戦終盤になると『ずるぞ』自体もばれ始め、神使たちは間隔を取って配置、襲撃されれば神使化して集結という戦術を取った。
だけど、魔力測定機を積んだ通信兵フォロワーが集結を事前に察知して、それをカロ様が叩くことで万事解決。
北部平定作戦は、たったの五日で目標を達成した。
ちなみにカロ様は後詰めしていた砦建設部隊に『早すぎるわ!』と怒られたらしい。
頑張ったのに怒られるのは、私としてはちょっと納得できないって話!
「空中で止まるとかできないのか? 結界機能のみなら他の魔術を詰め込めるだろ?」
「魔術で空中固定は消費する魔力と制御がすごくかかるんです。フォロワーだって浮かないでしょう?」
単純な浮遊魔術なら原素魔術系統になる。
だけど、原素魔術は魔力で魔素を操る魔術系統だ。
そのため、操作する魔力と操作対象の魔素で魔結晶のコストは二倍なのだ。
うーん、なんという非効率!
「……空を飛ぶフォロワーか、それもありだな」
カロ様が空を飛ぶフォロワーに思いを馳せる。
最近フォロワーで跳んだらしいので、それを思い出しているのかもしれない。
「ありですね……ってそれは置いといて、今は『ずるぞ』ちゃんの評価ですよ」
私が軌道修正を図ろうとすると、カロ様が肩を竦める。
「とはいってもな、やる意味あるのか? 反ルキアルク連合は解体、ルツィー神国は国自体が存続の危機だとも聞いたが」
「兵器の評価はちゃんとしておかないと、あとで痛い目を見ますよー。文書にしておかないと、そもそも検討項目にもあがりませんし」
「それもそうだが……そういえば、何故連合は解体になったんだ?」
ふと思い出したかのようにカロ様は首をひねる。
「あれ、聞いてませんでした? ルツィー神国のやらかし」
「やらかし?」
てっきり軍部から聞いているのかと思ったけど、軍部もこの件の扱いを決めあぐねているのかもしれない。
まあ『ずるぞ』の試験をしているカロ様にとっては隠しても今更だよね。
「そうですね、『ずるぞ』の報告書にも載せる予定でしたし、神使の魔術の代償について説明しましょうか」
私は自分の執務机から一枚の紙を取り出し、テーブルに広げる。
「ルツィー神はルツィー神国に神使の魔術を使わせる代わりに、信者の胎児の魂を回収してたんです」
そこに書かれていたグラフは、横軸に年月、縦軸に流産率が書かれていた。
それは綺麗な、右肩上がりの曲線を示していた。
「は?」
呆けるカロ様。わかるよー、私もこれに気づいたときはあの神様、本気? とか思ったもの。
「ルツィー神は子守の神にして冬の神。そして不義に対する罰はどの神様よりも厳しいです。神使の魔術を使う信者に子を育てる価値なし、と判断したんでしょう。憶測ですけど」
そして、代償は人にとって一番重い。子供という未来を奪うものだからだ。
「王国内のルツィー信者から集めた出生率の統計と、神使化の頻度を組み合わせて、ざっくり計算した結果――」
私は両手を開いて十本の指を立てる。
「向こう十年、ルツィー神の信者には子供はほとんど生まれませんね」
「十年?!」
カロ様は驚いて声を詰まらせる。
「そうです。十年分、ルツィー神国は未来を失います。それが神使化の魔術を使いすぎた代償です」
それは国の冬と言えるだろう。人口ピラミッドも歪みまくるだろうなぁ。
ちなみに、ちい姉さま経由で神国には連絡済みです。推測の根拠のデータまでつけてあげましたとも!
「だけど、その魔術は俺達が生まれる前から使われていたぞ?」
「別に少しであれば問題ないと思います。あくまで過剰に使った場合に顕著に出るだけです。おそらくですけど、ルツィー神は戦闘力を持たない信者たちに抵抗する力を与えたかったのかと」
「……だが、やつらは戦争に使ってしまった」
「そうです。これは私の推測ですけど、ルツィー神国の上層部はその代償にうすうす気づいてたんだと思います。でも、神使を使うことをやめられなかった。だから――自国で生まれにくいのであれば、他から奪えばいい――そんな考えを持ったのかと」
「北部での、子供の拉致か」
苦虫を噛んだような顔をするカロ様。
「そうです。論理が飛躍しすぎて、何言ってるのって話です」
あの国は『ルツィー神を信仰しない者は不義あり。しかし、子供は更生できる可能性があるので、神国へと連れてきなさい』なんてことを言って、神官に魔術適正のある子供を自国へ送るように命令していたのだ。
「これに関しては、子供の返還を要求してますね。ついでにお金も資源もたんまりふんだくってやるわ! とちい姉さまが言ってました」
あのちい姉さまだ。
不幸が起こっていない限り、きっと取り戻してくれるだろう。
「戻るといいな」
「そうですね」
私たちは、ぬるくなってしまったお茶を口に運び、窓の外の世界樹を見上げた。
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