南部の英雄、北部で一方的に暴れる 4
◆◇◆◇◆
「あっはっはっはっは! いや、最高だよ、カロ大尉は!」
ルキアルク王国軍部最高司令室に併設された執務室で、アゼルは報告書を握りしめながら、腹を抱えて笑っていた。
この執務室に来てから、ここまで笑ったのは初めてだった。
「試験機単騎で神使十人に完勝、一日で北部国境部にある集落の一割を一人で解放、貴重な戦略兵器はこちらに預けた上でこれかい? もう南部の英雄から南部を取ったほうが良くないか?」
カロに随伴した通信兵の悲鳴のような報告書は、その進行の早さを物語っていた。
「しかも律儀に森に穴を空けたことについての始末書まで……理由は『新型の性能と神使の技の威力を見誤っていたため』だって? そんなの僕でもわからないさ!」
ヒーヒー! と過呼吸寸前になるアゼル。
「はぁはぁ……何にせよ、よくやってくれた。彼のおかげで無事に神使をこの国から排除できた。あとはホブゴブリン部隊に砦建築をさせれば、国境緩衝帯の出来上がりだ」
今後必要になるかはわからないけどね、アゼルはつぶやきながら、執務室の棚へ足を運ぶ。
アゼルはグラスを取り出し、鼻歌を口ずさみながらボトルを選んだ。
今日は、カロにちなんで彼の故郷の酒である花酒にしよう。
白と赤の花弁が美しいラベルが特徴的な、無色透明な酒だ。
透き通った液体が人差し指の幅の分、グラスに注がれる。
グラスを回して空気になじませると、水蘭系特有のみずみずしい香りが鼻をくすぐった。
「やはり、僕の差配に間違いはなかった。セレと彼は相性がいいと思っていたし、実際、あの子のやる気も上がった」
アゼルは、セレスティアに前の大戦でホブゴブリンの開発、製造効率化のアップ、操縦簡便化などの施策を全部まかせてしまったことを思い出す。
燃え尽きたようなセレスティアを見て、ご褒美をあげようと思ったのだ。
「そのご褒美が転じて、あんなものができたわけだ」
執務室から見える最高司令室の大きな円卓、そこに置かれた地図と、複数の黒い六角柱の模型。
あそこで、効率よくルツィー神国との国境に『信ずるは誰ぞ』を設置できるかを検討している。
「『信ずるは誰ぞ』は、信仰する側にとっては尊厳破壊と言ってもいい悪魔の兵器だ」
グラスを傾けて、花酒を口に含み、味わうように飲む。
「魔導科学の申し子であるセレの才能は、こうした『戦争の概念を根本から書き換える』戦略兵器でこそ発揮されるのかもしれないな」
魔術を分析し、魔導科学に落とし込む能力が高すぎるため、彼女は魔術という神秘を分解することができる。
始祖王が反魔術障壁を魔導歩兵に組み込んだことで、我が国は独立するための軍事力を得たが、今回のセレスティアの偉業は、それに近い。
「兄としてはその方向に進んでほしくはないが……ルキアルク王家としてはそういうわけにはいかないだろうな」
アゼルはグラスを机の上に置き、革張りの椅子に座る。未読の報告書はまだ山のようにあった。
「何にせよ、しばらくは平和になるだろう」
アゼルは椅子を回転させ、背後の窓からも見える巨大な樹――世界樹――を見る。
あそこには和平交渉のために第二王女であるオーロリアが向かっている。
「ルツィー神国、いや、反ルキアルク連合は戦争なんてしている場合じゃなくなる」
◆◇◆◇◆
世界樹の麓にある迎賓館にて、此度の大戦での和平交渉が行われていた。
今回の和平交渉には、ルキアルク王国の第二王女であるオーロリア=ヴェリタ=ルキアルクが代表を務めている。
反ルキアルク連合の各国代表と、オーロリアが向き合う形で長机に着座する。
国境線の確定、捕虜の扱い、賠償金などは戦勝国であるルキアルク王国有利に進んだが、王国は『反ルキアルク連合の解体』を求めた。
流石に難色を示すルツィー神国代表。他の国も神国の顔色を伺う。
仕方ないですわね、とオーロリアはセレスティアから託された切り札を切った。
「ところで、ルツィー神国では今年、子供は生まれました?」
ルツィー神国代表の顔が青ざめ、その後、各国はその動揺の理由――転じて自国の未来――についてオーロリアから知らされることになる。
一ヶ月後、反ルキアルク連合は解体された。
そして、連合に参加していた各国は、主神をルツィー神から別の神に改めると宣言したのだった。
──◆◇◆◇◆ 次回予告 ◆◇◆◇◆──
かくして、北部は平定された。
反ルキアルク連合が解体され、王国建国からの悲願である平穏な時代が幕を開けたのだ。
セレスティアは平和の鐘の音を聞きながら、今回の開発をまとめる。
次回、『対信仰魔術【神使】特化戦略兵器『信ずるは誰ぞ』性能試験リザルト』




