信仰ってこわいね 4
◆◇◆◇◆
「できたぁ」
私はフォロワーほど高く、黒い六角柱を見上げる。
なんとかフォロワーでも担ぎ上げられる大きさだ。
それが六本。
これを集落の周りに、一辺が有効距離以内の正六角形になるよう立てれば、とある結界魔術が発動する。
テスト機なので本数は多いけど、ゆくゆく三本でも発動できるように減らす予定だ。
「ようやくだな」
私が開発している二ヶ月間、ホブゴブリンを乗り回していたカロ様が横に立つ。
「テストに時間がかかりましたから」
信仰魔術の発動プロセスに気づいてから、実験・検証するまでが大変だった。というより、国内と友好国から信仰魔術を行える人を探すことが一番大変だったけど。
仮説は実験により理論になり、そして信仰魔術は魔導科学として「再現はできないが、実証可能」となった。
そしてできたのが、この六角柱群。
「名付けて、対信仰魔術【神使】特化戦略兵器『信じるは誰ぞ』です!」
ばばーん! と口で効果音を鳴らしながら、カロ様に向けて両手で示す。
「信ずるは誰ぞ?」
「そうです、簡単に言うと、信仰魔術を不発にさせる結界装置ですね」
カロ様が私と『ずるぞ(信ずるは誰ぞ?の略)』を交互に見て、呆けた顔を見せた。
「信仰を不発? どういうことだ?」
「信仰魔術の魔力を捧げる神のチャンネル、つまり魔力の向かう先を変更することで『あなたの信仰する神様、間違ってますよ』となる兵器です」
「つまり、捧げる神を無理やり変えて、強化魔術をなかったことにする兵器か?」
「そういうことです! 向けられた神様も『いや何だよしらんがな』となります」
世界で初の、信仰魔術の魔力移動を視覚で観測したことで分かったことがある。
天に祈る=魔力が空に上ることで、神との交信が開くのだ。
魔導科学でも通信は電波を使っているけど、魔力による通信はできなかった。
でも、信仰魔術はそこを神との交信のために魔力通信の壁を突破していたのだ。
こういう発見があるから、やっぱり魔術っておもしろい。
あとは、いろんな神さまの信仰魔術を観測して、差異を分析し、チャンネル合わせを割り出す。そのチャンネル合わせを阻害する、置き換えるなどの方法で信仰魔術を不発化する方法を研究するだけだった。
調べてみたところ、神が魔力を受け取るまでは発動のキャンセルが効いて魔力のロスが少ない。
なので、別の神チャンネルに置き換える方法になりました。
「……てっきり、神使を圧倒できるフォロワーの武器を開発するのかと思っていた」
神使を想定して訓練していたカロ様が、少し残念そうに言う。
「ごめんなさい、でも、魔法級の強化魔術に対抗しようとすると超高コストになるんです」
でも、仕方ないことなのだ。あんな面倒な敵、姿が変わること自体をできなくしたほうがいい。
それに、もう一つの仮説の裏付けができれば、これから先、神使は生まれないほうがいい。
「そうか……しかたないな。コストは重要だ」
カロ様は南部での戦場を思い出したのか、沈痛な面持ちになる。
「あと机上計算だと単純にデカくなりました。フォロワーの二倍くらいに」
「それは流石に無理だな」
フフッと笑うカロ様。
「そうなんです。ただ、このことで強化魔術に対する知見を得たので、カロ様のホブゴブリン、改修しますよ!」
「本当か?!」
カロ様が目を輝かせる。
彼も私と同じで、フォロワーが好きだということが分かってきた。
最近知ったことだけど、デザートスプリガンへの改修を主導したのも彼らしい。その時も試験操縦士をしていたんだとか。
ちい兄様の采配は合ってたようです。納得はできないけど!
「ええ、生まれ変わらせてあげましょう。私、フォロワーをデコるのは得意なんです! もちろん、デコった子をテストしていただけますよね、試験操縦士さん?」
「ああ、任された。俺の鍛錬も、もう少しで終わるからな」
カロ様が右手で握りこぶしを作り、それをゆっくり開いた。
◆◇◆◇◆
強化魔術をフォロワーに取り込むことは、実は何回か検討されたことがある。強化魔術は様々な系統で存在しており、そのどれもが魔力効率が悪いという理由で却下された。
単純な話。強化する魔術に魔力を使うなら、動力に回したほうが効率がいいのだ。
「強化魔術を一時的な出力増強に使う機体もありましたけど、魔導核への負担が大きかったんですよねー」
魔導核の魔力はフォロワーを動かすために使ったほうがいい。だったら、強化魔術の魔力は別の所から取ってくればいい。
そのヒントは、信仰魔術からもらった。もちろん、神様から取るわけじゃないけどね。
魔導板にデコ案を書く。これまでのカロ様の発言と、信仰魔術、強化魔術の知見をパフェのようにたっぷり盛った新しいホブゴブリン案を書いていく。
魔力効率がよく、操縦性も第四世代に比肩し、更に強化魔術によって第四世代を凌駕する。
「『今まで魔導歩兵に搭載していない機能を搭載する、もしくは魔力効率はそのままに性能や出力を拡張するシステムを載せる、あたりでしょうか』と、私も確かにいいましたが」
エンチャントスキン、エンハンスブースト、とメモし、書く手を止める。
「まさか、どちらも解決するとはねぇ」
設計図の、機体名称欄に書かれている『ホブゴブリンカスタム』を二重線を引き、消す。
「もうこの子はホブゴブリンじゃありませんね。そうですね……ゴブリンの中でも、キングとは別系統の最上位に位置する、最強のゴブリン種の名前をあなたに与えましょう」
私はそこに『レッドキャップ』と書き込んだ。
「さあ、新しい名前と姿でリベンジです!」
──◆◇◆◇◆ 次回予告 ◆◇◆◇◆──
ついに完成した兵器を引っ提げ、カロは北部へ。
装い新たに、彼は赤帽子の機体と北部を駆ける。
次回、『南部の英雄、北部で一方的に暴れる』
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