信仰ってこわいね 2
◆◇◆◇◆
『小娘、カロ様はどうした』
「カロ様は来ませんよーっと」
私はかつてのカロ様の愛機、今では『オーガ』となった操縦席の中で、魔導核へ改造を施していた。
拡張アダプタを円形ウィンドウの右に設置。スクリーン付き再生機と接続する。
「どうです? 見えますか?」
『小娘、何だこれは』
「ふっふーん、これは映像再生機ですね。あなたにも同時再生できるように改造した、私のお手製です」
自慢しながら私はケースにヒビが入った記憶魔結晶を白衣から取り出した。
「コレが壊れてなくて良かった……」
MDが壊れないように注意しながら、再生機のスロットに挿入する。
「さてさて、時間のない中でカロ様のホブゴブに設置した、録画&測定機はうまく動くかな……?」
そのMDの中身は、カロ様がボロボロにしたホブゴブリンが目にした録画画像だ。
「お、ちゃんと映ってますね。音声は――だめでしたか。マイクの品質が悪かったか、接続部が欠落してたのかな」
『小娘、これは』
「はい、カロ様が乗っていたホブゴブリンの戦闘を録画したものですよ」
『小娘、嫌味か?』
彼女の凄んだ声が聞こえる。彼女にとっては寝取られたような展開なのだろう。私は慌てて謝る。
「あ、違う違うの、ごめんね? そういう意味じゃなくて、ちょっと手伝ってほしくて」
『手伝う?』
「新型魔導核の魔導回路で解析してほしいの。この戦闘での、神使の魔力の流れを」
開発した新型魔導核は、私たちが調子に乗ってかなり処理能力と記憶層を強化してしまった。その性能差は、なんと前の魔導核の十二倍。そんな性能を使わないなんて、もったいないよね!
『ふむ?』
「あと、ホブゴブリンの最適化も手伝って」
『やはり嫌味か?』
「違いますー。カロ様の生存率を上げるためですー」
カロ様の敗因の一つである、ホブゴブリンの最適化。
マギア・アクチュエータ・フレームという人間にとっての異物を、人の身体と思わせるためには、類感同期――フレームを自分の体の相似だと思わせること――の最適化が必要だった。
プレ第五世代しか乗っていない操縦者なら、『コレぐらいの操縦感覚が普通なんだ』と思ってそのうち慣れてくるから、あまり最適化の必要はない。
だけど、第四世代に慣れた操縦者は魔力肢との類感同期がぴったりだから、プレ第五世代に乗ると、フレームとの違和感やズレを感じてしまう。
特にカロ様は、デザートスプリガンという彼女とかなり深いところまで同期していたようだし……悔しいけど、最適化には彼女の協力が必要だった。
「お願い。あなたにしかできないことなの」
『……録画とデータ』
「はい、ここに」
拡張アダプタに取り付けたスロットに、魔力測定機から取り出したMDを挿入する。
『少し待て』
「録画の上に魔力の流れを可視化したフィルタをかける感じでよろしく!」
『注文が多いぞ、小娘』
「ごめんごめん」
『しかし、神使か。信仰とは怖いものだな』
「そうですね。何かを信じる力っていうのは人間の美徳だけど、傾倒しすぎると危険ってことです」
『小娘が言う推し活は信仰ではないのか?』
「全然ちがいますねー。推し活はヒトの尊さを語ることですから、根底が違います。傾倒しすぎると危険ってところはどの活動も同じってだけです」
『ふむ、よくわからん』
「あと、神さまは人じゃないから、あまり推し甲斐がないんですよねー。推しには幸せになってほしいですけど、神さまってそういう次元じゃないですし」
そんな会話をしながら小一時間が経ち、沈黙していたウィンドウに灯が点る。
『できたぞ、小娘』
「さっすがぁ! じゃあ鑑賞会しましょ、鑑賞会!」
一度やってみたかったんだよね! 同担での戦闘鑑賞会ってやつ!
私は嬉々として再生機の再生ボタンを押す。
「うわあ、ほんとに神使が十人いる……」
画面の中、ホブゴブリンの視界に見えたのは、十人のルツィー神国の僧衣を着た僧兵。
『これが北部の敵。普通の人だが』
「ここから信仰魔術を使って自身を強化するんですよ、ほら、体内の魔力が高まって……?」
緑色にフィルタリングされて可視化された魔力が神使の中で高まり――頭の頂点からまっすぐ、上に伸びていった。
その魔力は、とある高さで世界に溶け込み、その後とても濃い魔力が先程の魔力の道に沿って降りてくる。
これって……信仰魔術の発動パターンなのでは?
三回ほどその部分を繰り返して視聴し、私は確信した。
このデータを解析すれば、信仰魔術を無効化できる、と。
『小娘、どうした、鑑賞会は?』
「ごめん! 今から研究室に籠もる! また今度ね!」
MDを取り出し、席からハッチに移動し、そのまま私は研究室に向かう。
『こ、小娘ぇ……?』
彼女から戸惑いの声が聞こえた気がするけど、ごめん、それどころじゃないの!
『せめて、録画MDを置いていけ!』
彼女の言葉が届く前に、私は廊下に繰り出していた。
◆◇◆◇◆
「床も机も見えないんだが、王女殿下はいるのか?」
「あ、カロ大尉だー」
数日後、本の森と化した研究室にカロ様が尋ねてきた。
「……ッ! 生存、しているんだな? どうだ、進捗は」
森の中から、カロ様はなんとか私を見つけ出した。
何故か一瞬だけ顔を背けたけど、その後「エレニア様からだ」とお茶を差し出してきた。
「えへへー、ありがとうございます。えーと、理論はだいたいできたので、あとは開発フェーズですね」
ずずず、とお茶をすする。はちみつあまーい。
「そうか。何かすることはあるか?」
「今のところはないですねー」
「ならしばらく、ホブゴブリンの練習機を借りていいか?」
カロ様が私の顔を見る。普段ならテンパるシチュエーションだけど、脳内に情報を詰め込んでいる私は、思考能力が落ちているのかあまり緊張しなかった。
「いいですけど、ホブゴブリンも改修しますよ? それからでもいいんじゃないですか?」
「いや、ホブゴブリンでできることを色々試したいんだ」
カロ様が右手を握る。
さすが、努力の天才と呼ばれたカロ様。
自らの鍛錬を怠らないし、次の目標に進もうとしている。すごいなぁ。
「わかりました、頑張ってください!」
紙束の下から、私は親指を立てる。
「ああ、王女殿下も無理をせずにな」
「はぁーい」
間延びした返事に、カロ様が少し笑ったような気がした。
◆◇◆◇◆
「……エレニア様」
「はい、なんでしょう」
「王女殿下は、なぜ、その、上の下着を着ていないんだ?」
「見ました?」
「少し」
「ぎるてぃ」
「不可抗力なんだが?!」
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