とある英雄、推し文化に恐怖する
新作はじめました。推し活 × ロボ開発 × 英雄モノです。
※初日だけ、序章〜第一章をまとめて投稿します(続けて読めます)
※第二章以降は基本、毎日1話更新予定です。
※本作はカクヨムにも掲載しています。
俺の機体が売れた。
世代遅れな上、連戦に次ぐ連戦の果てに超過稼働でジャンク扱い、魔導核ごとリサイクル行きになりそうだった俺の愛機が、軍部主催のチャリティーオークションで売れた。
その額、なんと最新機一◯体分。
仮面で覆い隠されたオークション会場の観覧席で、愛機が落札される瞬間を見ても状況を飲み込めなかったが、割り当て分の金額が通帳の数字としてずらりと並んでいるのを見たときは悲鳴を上げそうになり、思わず口を押さえた。
一体何が起こっているんだ。
このことを居酒屋で一緒に飲んでいた同期に聞いたところ、呆れた顔で言われた。
「はぁ……カロ、君は何を言っているんだい。僕と同じ南部の英雄である君を推しているファンが、君の機体を欲しがるのは当然だろう」
白銀の長髪が印象的な同期であり盟友のアヴェンの嘆息が、盃に注がれた花酒に波を作った。
このルキアルク王国は昔から、個人が特定の人物や組織を応援する【推し活】が推奨されてきた。
他人を推すなんて余裕のない辺境で生まれ育った俺にとっては、それは中央都市で安穏と過ごす貴族たちの遊びだと思っていた。
だが、実際に動く金額、チャリティーオークションの熱狂、中央貴族の本気度は、紛れもない本物だった。
「それに、君、ちゃんと記帳していたのかい? 給与のほかに軍からのグッズのタレントライセンス料が記帳されているはずだよ。ほら、ここ」
通帳の数字の羅列を、同期が長い指でなぞる。
年俸の数倍が、毎月、ライセンス料として支払われていた。
内訳のグッズを見ても、『1/144スプリガン カロ機モデル』『クリスタルスタンド』『ブロマイド』『1/1抱き枕』…などの文字列が見て取れた。
意味はわからないが、相当な数のグッズが売れたのだろう。
総額はいわずもがな。桁を数えるのが怖くなった俺は、そっと通帳を閉じた。
推し活、怖い。
金額から察せる規模はもとより、中央でこんなにも不特定多数の人間に推されているということが、恐怖でしかなかった。
「……戦場でもここまでの恐怖を覚えたのは数回ほどしかないぞ」
「カロ……、タレント契約とかインタビューとか一緒に受けたりしたのに、いまさらその認識とか……僕と同じ南部の英雄としての自覚はあるのかい?」
アヴェンの意見はいつも急所を突いてくる。いつもは黙って受け止めるが、俺は一つだけ反論する。
「……英雄になった覚えはない」
「相変わらずだなぁ、君は」
苦笑いをする同期。
「俺はお前と違って能天気に受け入れられないだけだ」
「能天気って……ともあれ、中央への栄転おめでとう。我が盟友、カロ・デ・フォンターレ。君の未来に栄光あれ」
「ありがとう。我が盟友、アヴェン=レナト=ヴェルタリア。そっちも南部伯軍顧問として頑張ってくれ」
「ああ、もちろん。せっかく掴んだ勝利だ。連中が変なことをしないよう常々見張っておこう」
「助かるよ。何かあったら連絡をくれ。できるだけ力になる」
「おっと、言質を取っていいかい?」
全く、能天気で調子がいいやつだ。俺が眉を寄せると、アヴェンは冗談だよ、と笑った。
「とはいえ、よほどのことがない限り呼ぶことはないよ」
「よほどのことってどれくらいだ?」
「そうだな、――世界滅亡の瀬戸際とか」
ニヤリ、と笑うアヴェン。だいぶ酔いが回ってきているな、こいつ。
「だったら呼ばれることはないか」
「ああ、それは――ないとは思うけど、フラグ、立たないかな?」
「フラグ?」
「なんでもないさ。さあ、飲もう! 故郷の酒もしばらくお預けだ!」
その後、しこたま飲んだ俺たちは、なんとかホテルにたどり着いた。
明日、俺は中央――王都へと向かう。
推し活のメッカであり、戦場帰りの俺を震撼させるファンがいる――新たな戦場へと。
一体、誰が俺の機体を落札したのか。
できればその人物に会いたくないところだが、そいつの推し活には、少し興味はあった。
ここまでの他人への熱量は、自分にはないものだから。
俺はホテルの床に置かれたバッグの中にある手紙を手に取る。
そこには一行の辞令が書かれていた。
『カロ・デ・フォンターレ大尉を王国暦323年4月をもって魔導科学研究所分局F.M.先進技術研究室付魔導歩兵試験機操縦士に任ずる』
──◆◇◆◇◆ 次回予告 ◆◇◆◇◆──
仮面オークション
そこは、ファンが推しの限定グッズをゲットするための戦場
そこに、一つの機体が壇上に上がる
次回――『推しの機体を落札しました』
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