うれしくなると、龍になる
キーンコーンカーンコーン
始業式の始まりを告げるチャイムの音だ。
始まった。たった3年だ。耐えてきたじゃないか。
うれしくならないようにしなきゃ、じゃなきゃ…奴が目覚める。
そうして、高校生活最初の教室へ向かい、ニシムラと書かれた席を見つけ座った。
「ふう 変な印象は与えていないはずだ。」
早く荷を軽くしたいので筆記用具を机にしまおうとしたその時
「おっす!隣の席のタケウチだ、よろしくな」
おい貴様、なぜ話しかけてくるんだ!
「よ、よろしくおねがいします」と蚊の羽音よりも小さく答えた。
心底やめてほしい、友達を作らないためにわざわざ遠い隣の県の学校まで来ているのだから。
俺は友達を作りたくない。
いや、それは違う、作れないんだ。
それは、、、俺は体内に龍の血が流れているからだ。
俺はうれしくなると龍の姿に変身してしまうのだ。
この特異的な体質のせいで俺は誰とも仲良くすることができない。
すまないな、クラスメイトA、話しかけてくれてとてもうれ…
その時ジュンイチの身体に異変が起こり始めた。
く!熱い!熱い血が頭に上ってくる、これはまずい!
そして俺はトイレに駆け込んだ。本当に厄介な体だ。
「ちっくしょう!いつからこんな体になっちまったんだよ!」
そう言いつつも、忘れはしない。あれは12歳の夏休みのことだった。
始まって1週間で宿題をやり遂げるという偉業を無しとげた俺は、
蚊すらも飛ばないほど熱せられた大地という環境をもろともせず、
冷やされたこの空間で悠々とそうめんを食べていた。
おそらく日本中の小学生の中で一番贅沢な夏を満喫していた。
その日の夕方、何の予告もなく玄関のチャイムが俺を呼んだ。
「ジュンイチ、祭り行こうぜ」と同じクラスのサトルが約束もしていないのに誘ってきてくれたのだ。
俺は素直にうれしかった。おそらく世界で一番幸福な夏休みを送っていると思った。
もちろん俺は「いくいく!30分後に神社にいくから待ってて!」と言って身支度を始めた。
だが悲劇もなんの予兆もなく訪れる。
突然体が焼けるように熱くなり、一晩寝こんでしまい、サトルとの約束を破ってしまった。
俺はベッドでうなだれながら、俺を待っているサトルの姿を想像した。
「誘ってくれたのにごめんよ…サトル君、おれ次に会うときどんな顔をすればいいかわからない…」
すると突然胸が苦しくなった。水を飲もうと洗面台に立ち顔を上げた。すると、
俺は真っ赤な龍の姿になっていた。
発作が収まると何事もなかったかのように人間の姿に戻った。
結局夏休みの間、彼には謝ることができなかった。サトルの家を知らないからだ。
きっと怒っているだろうな…と思いつつ、夏休み明けの始業式に登校した。
そして、ほかの友達に声をかけることもせず、一目散にサトル君の目の前に立ったあ。
「ごめんなさい!祭りの日、急に熱が出ちゃって行けなかったんだ」と誤った。
するとサトルは、「よかったよ!何かあったのかと思って心配したんだ。今日顔が見れてよかったほんとに」と言ってくれた。
本当にうれしかった。
夏休みが終わってもうちの地域にはまだ祭りがある。詫びもかねて俺から誘おう。
「サトル君、今度の…」すると、奴が騒ぎ始めた。龍だ。
龍が俺の体内で暴れている。熱い血が足から喉元まで登ってくるのがわかった。
俺は急いでトイレに駆け込んだ。
鏡を見たら…真っ赤な龍の顔になっていたのだ。
俺はうれしくなると、龍の姿になってしまうという事がわかった。
それ以来、俺はみんなと接することを避けた。
大丈夫、誰にも指摘はされていないから龍の顔はまだ見られていないはず。
だが、中学時代はそれ以上に化け物扱いをされてきた。
だが、それでいい。俺は龍なんだ。おそらくこの姿になったらみんなを恐怖させ、
おそらく傷つけてしまう…
遠い学校を選び、元から目立たない存在となって、3年間やり過ごすんだ。
そう決意して臨んだ今日の入学式だったが、さっそく急いでトイレに駆け込む姿を見せてしまった。
大変目立ってしまっただろう。
発作も治まったので教室に戻った。
すると同時に担任の先生もやってきた。
初めてのホームルーム。メモすることがたくさんある。
俺は一生懸命シャーペンを走らせた。
すると。
「わりー!ちょっと消しゴム化してくれ」
と前の席の人が話しかけてきた。
無言で消しゴムを貸した。こんなこともあろうかと、2個持っているのだ。
ホームルームも終わり、帰り支度をしていると、
「さっきは助かった!サンキューな!俺、ナカノ!お前は?」
おいナカノ!気安く話しかけてくるな。礼なんかいらないからな!
「あ、俺はニシムラ…ジュンイチ…」
と言って受け取った消しゴムをさっさと筆箱にしまい帰り支度をした。
ドクン やつが脈打つ。俺は内側の頬を噛んだ。これで抑えるんだ。
突然肩を叩かれた。
「ニシムラ…だっけ?連絡先教えろよ!」と言って俺の通信端末を奪った。
「おい!ミゾグチ!強引なんだってお前は」タケウチが彼を止めようとしていた。
「あ、わりーな!俺はミゾグチ!後ろの席だ、よろしくな!」
といって端末を返された。
本当にやめてくれ!離れてくれ!奴が、目覚める。
「なんだよお前たち!もう仲良くなったんかよ、俺も混ぜろって!」
そしてナカノがそばに来た。
「なあなあ、この後、飯いかね?お近づきによ!」
とナカノが提案した。
いかんそろそろ限界だ。変身してしまう!
「ご、ごめん 用が… ま、また!」
といって俺は走った。 トイレに。
全く、君たちはパーソナルスペースというものを知らないのか…
危ないぞ…俺に近づくと…
と言って、水で顔を洗って龍をひっこめた。慣れたものだ。
「さ、帰ろう…誰にも会わないように…」
と三度も左右を確認して廊下に出た。
「はぁ、3年間…上手くやれるかな…」
不安におもいため息をつきながら靴に履き替えた。
すると
「よ!ニシムラ!どこ行ってたんだよ!」
と肩を組まれた。
「ちょ、ちょ、なにを」ミゾグチだ。
こんなことされたらあいつが目覚めないわけがない。
たちまち全身が熱くなる。やばい!抑えきれない。
「は、離れて!」
もう手遅れだ。俺にはわかる。変身してしまった。
彼の視界は真っ赤に染まることなく真っ青に染まった。
終った…3年耐えればいいものの、まさか初日で失態を…
残りどうすればいい…俺は、どう生きていけばいいんだ。
「お、おい大丈夫か!?ニシムラ!」
そう言ってタケウチが声をかけてきた。
「ほんとだ、顔…」ナカノは認識したようだ。
「ニシムラ…顔…真っ赤じゃん!風邪?」ミゾグチが喋った。
「え、あぁ、え?」
顔が真っ赤?いやそうだろう赤い龍だからな。
「なんだ、体調悪かったのか?ごめんな無理して誘って!」
タケウチが手を合わせてゴメンと言ってきた。
? 俺は急いで玄関の鏡の前に移動した。
彼らは化け物を見るような顔をしているだろう。鏡に映る姿が想像できた。
それでも恐る恐る顔を上げた。
ホラやっぱり、鏡には赤い龍のように真っ赤になった俺の顔が映っていた。
「ニシムラ!早く風邪直して、学校帰りに一緒にラーメン食いに行こうぜ!」
3人の顔は化け物を見たような顔もしておらず、ただひたすら曇りのない笑顔だった。
「え、あ、うん!ごめんね!また今度誘ってね!」
そう言って俺は高校最初の下校は一人で下校した。
うれしさを抑えることもなく電車に乗り込んだ。
キーンコーンカーンコーン、授業の終わりを告げる音。
翌日、3人の友達と一緒に下校した。
たった3年。耐えなくていい高校生活が始まった。




