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たったひとりの。

作者: アーク

マリィベル・ゲルズ子爵令嬢は妹を助けたい。

流れる様な美しいスカイブルーの髪をハーフアップにして、流行りのドレスに身を包み、チェリーブロンドの髪の青年にエスコートされて登場したのは、かつて王家が「役たたず」として国外追放したマリィベル・ゲルズ子爵令嬢だった。


この国では5歳になると身分問わず教会でスキル鑑定する事になっている。国益に関わる特殊(レア)スキル持ちを探し出す為に建国当初から執り行われている、と聞いた。


マリィベルは「浄化」、3つ下の彼女の妹マリアンヌは「聖魔力」だった。


数百年ぶりの聖女の誕生だとマリアンヌが持ち上げられる一方で、特殊(レア)スキルである筈の「浄化」を持つマリィベルは家族からも、国からも目をかけられる事なく貴族令嬢としては珍しく、一通りの事は自分でこなす事が出来る「変わり者」として評判になった。


特殊(レア)スキルの持ち主は国益の為に王家や高位の貴族と婚約する事となっているが、マリアンヌは王家や様々な高位貴族から声をかけられる一方でマリィベルは見向きもされなかった。

唯一教会だけがマリィベルを哀れに思い、教会の取り成しで第2王子シャルルとの婚約が決まった。


「どうせならマリアンヌの方が良かった」と会う度に口にされ、最後には


「マリアンヌの聖魔力を利用して浄化のスキルを使っている」


と、難癖を付けられた上で国外追放されたマリィベルは背筋を伸ばし、壇上の国王夫妻に礼をした。


「何故そいつがそこにいる?」


マリィベルが口を開くのを遮ったのは元婚約者のシャルルと、妹と結婚した王太子だった。


「国外追放された身の上で、よくも図々しく我が王城に足を運べたものだ」


マリアンヌは扇子で表情を隠しているが、目元には濃い隈が出来ており、化粧でそれを隠している事が見て取れた。


「陛下から、国外追放は王太子殿下とシャルル様の独断であったと聞いておりますが?」


2年前はオドオドとしていつも下を見ていたマリィベルは冷たく言い放った。


特殊(レア)スキル持ちは準王族相当の権限がある。自分は子爵令嬢だから、と、下を向く必要などどこにも無かったのだ。


強制(ギアス)持ちに命じられては、逆らう事など容易い事ではありません。陛下や王妃様に掛けられた強制(ギアス)を解き、マリアンヌの置かれている現状を耳にして二度と足を踏み入れる事は無いと考えていた祖国にこうして舞い戻ってきたのです」


「それは...」「だが...」と口にする2人にマリィベルは冷たい目を向ける。

マリィベルの噂を信じていた者達も、どういう事なのかとあちらこちらから声をあげる。


「マリィねえさま…」

「マリー、貴女魔力欠乏症で倒れる事が多くなったと聞いたわ。聖魔力といえど無限ではない、休息は必要な事よ。


このまま、王太子殿下とシャルル様に言われるままに聖魔力を使い続ければ。


そう遠くない未来に、―――貴女は死ぬわ」


マリアンヌは、誰かの為に自分の能力が役に立つのならば、とその身を顧みずに聖魔力を使う痛々しい娘だった。姉であるマリィベルが何度忠告しても、「目の前で困っている人を見過ごす事は出来ないから」と毎日失神するまで力を使い続けた。

マリィベルは仕方なく、意識を失ったマリアンヌに浄化の力で回復を促し「無理をするのは良いが、無茶だけはしない様に」と口酸っぱく言った。


国外追放されたマリィベルは魔物の多発地帯である国境をアテもなく彷徨っていた時、帝国の皇弟エイリークに保護された。


そして、帝国でこの国では禁忌とされている聖女に関する研究書物を目にして愕然としたものだ。


『聖女とは、特殊(レア)スキルである聖魔力の持ち主と浄化の持ち主、2人を指すものである』


聖魔力の持ち主は、マリアンヌの様に少々、否、だいぶいきすぎた自己犠牲の持ち主が多く浄化の特殊(レア)スキルの持ち主がいない場合の聖魔力の持ち主の平均寿命は7つにも満たない。

浄化の持ち主が魔力の澱みを浄化する事によって魔力欠乏症を防ぎ、聖魔力の持ち主は聖女として十二分の能力を発揮する事ができる。


それでも、聖女の平均寿命は25歳程度の様だが。


「聖女について調べるとは、なんと不敬な...」

「何故、不敬なのです?聖女とて人間です。適切な知識を得る事はなんの問題も無いでしょう?」


聖女を神聖視するこの国では王族を含めて「聖女とは特殊(レア)スキル聖魔力を持つ者」だと信じていた。

だからこそ、本来「聖女」として成り立つのに必要不可欠な「浄化」の特殊(レア)スキル持ちのマリィベルを蔑ろにしていないものとして扱った。


「マリー。国が、王家が、家族が、私をいないものとして扱っても。役立たずと罵っても。私を「姉」だと言って、人として扱ってくれた貴女が、国の都合で身を削るのはとてもではないけれど見ていられないわ」


チェリーブロンドの青年が前に立つ。


「残念ながら、キミが生まれ持った自己犠牲の精神はこの国を増長させるだけだ。仮にキミが生命を落としたとしても、それを美談として広めるだけだ。


―――キミが、必要以上に疲弊しているのは。


第2王子の強制(ギアス)に依るものだ、と言う事実は、闇に葬られてしまうだろう」


第2王子はカッとなり、口を開こうとして、―――紡ぐべき言葉を失った。


「エイリーク皇弟殿下...?!」


「愛するマリィと、そのマリィが助けたいと願った妹君の迎えに、婚約者である私が出向かない理由はないだろう?」とエイリークは飄々とした様子で口にした。


「エイリーク皇弟殿下は我が王国から王太子妃を奪おうと仰るのですか?」

「そのつもりは無いけれど、場合によってはそうなるかもしれない。いや、そうなる。


―――お前、自分の妻の体調を1度でも案じた事はあるのか?」


そう指摘を受けて初めて、王太子は妻であるマリアンヌをまじまじと見た。


濃い化粧で隠された隈、コケた頬、ある程度ふっくらと女性らしい身体付きだった姿は見る影もなく誰がどう見ても痩せ細って、今、この場に立っている事が奇跡としか思えなかった。

宮廷医官が「マリアンヌ様の月の道が途絶えた」と重々しく口にした時は懐妊だと無邪気に喜んだが、それは心因的外傷(ストレス)で月のモノが途絶えたのだと、今ならば理解出来る。


「ルドルフ王太子殿。アナタは、自分の妻が、自分の見栄の為に、生命を落としてもいいのかい?」


いいわけが無い。


王太子は傍にいて気付かなかった己を悔やみ、「マリアンヌの望む様に」と小さく口にした。


この謁見の直ぐ後、王室からマリアンヌは静養として、姉マリィベルの住む帝国に住まいを移す、と布令が出た。

マリアンヌが日に日に弱っているのは誰の目から見ても明らかだったので、「どうかお身体を大切になさって下さい」とあたたかい言葉が国中から届いた。


マリアンヌは今帝国で、「動いていないと落ち着かない」と聖魔力を使おうとする度にマリィベルと義兄エイリークに止められる日々を送っている。


「あの国から私がたったひとり、家族だと胸を張って言えるマリーを助け出す事が出来た。私は、それだけで十分幸せよ」


そう語るマリィベルの傍らで、あの国が「聖女」であるマリアンヌに必要以上に課してきた公務を纏めながら、「帝国への叛意有りとしか思えないから、兄上に箴言しないといけないかな」とエイリークは腹の底が見えない笑顔を貼り付けて口にするのだった。

「聖女」を搾取し続けたマリィの祖国はマリィを溺愛するエイリークとその兄が根回しして属国にしました。

マリーは聖女の宿命か、帝国で静養してある程度快復したものの、25歳で亡くなっています。

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