006-バドックⅡ、宇宙へ
第十四格納庫は、電車を使わなければ行けない場所にある。
幸いにも、授業の場合は移動用のシャトルバスが出ているため、僕たちは五分程度で格納庫に辿り着いた。
エアロックを二つ通過して、格納庫へと足を踏み入れた僕たちは...
「す、すげー!」
「バドックⅡだ!」
立体格納庫には、左右にずらりとナイトフルアーマーが並んでいて、クラス全員分が用意されているように見えた。
最新型のバドックⅢではなくて、一つ型落ちのバドックⅡではあるものの...五十年前はこれが主流だったと聞く。
「お前らに使わせる機体だ! 最新型じゃねえから我慢しろ!」
その時、格納庫によく響く声が轟いた。
僕たちがそちらを見ると、中年のオヤジ、といった風貌の男が立っていた。
すごく整備士っぽい。
「俺はバランド・スクマ! あのスドーとタッグでお前らの講師をする! 整備士だが一応パイロット資格も持ってるぞ!」
バランドさんか。
僕は認識を改めた。
この人もすごい人だ。
騎士以外でパイロット資格を取れるのは、相当勉強した人間だけだと聞いている。
「オラッ、さっさと機体に乗れ! 時間になったらここは真空だぞ!」
「「「「「「はい!」」」」」」
流石に死にたくはないので、僕たちは機体に乗り込んでいく。
立体格納庫なので、順番に期待に乗り込んでは次の段に入れ替える。
僕は最後あたりに乗り込むことになった。
梯子を伝って、バドックⅡのうなじ部分からハッチを開けて乗り込んだ。
ハッチを閉めれば、もうここは外界とは隔絶された空間となる。
バッテリーで勝手に空調が維持されていて、その中で僕は小物入れに色々入れる。
「確か、まずはヘルメットを着けるんだったな」
この辺の話は、パイロット・テストを受けた人間なら当然知っている事だ。
だけど、あくまでシミュレーションの中での話、改めて慎重に手順を思い出し、実行する。
ヘルメットを付けて、生命維持装置をタッチパネルで操作して確認する。
宇宙に出るので宇宙服は必須なのだが、今日は訓練なので大丈夫だ。
「脱出装置も大丈夫、と」
コックピットブロックを分離する脱出システムも問題なし。
安全ピンが抜かれていると誤作動を起こしてしまう。
次は...
「火を入れる...だっけか」
全てのKFAは、ロドス機関で動いている。
ロドス博士が提唱したロドス微粒子のエネルギー現象を利用した、高出力のエンジンらしい。
僕はロドス機関を起動して、次に補助電源を起動する。
バッテリーを使って行われていた空調やコックピットの維持が、補助電源で賄われるようになる。
「燃料供給開始...」
昔は燃料弁を調節していたらしいけど、今は自動で出来る。
手動でも出来るようだが、やり方は習っていない。
「冷却システム問題なし、ハイドロプレッシャー異常なし」
ロドス機関と各機器の冷却システムの作動を確認、機体の制御に必要な油圧系統を再確認する。
座席の正面にあるタッチパネルを操作して、機体の標準座標軸をセット。
こうすることで、宇宙にはない地面を機体が認識してくれる。
「円周モニター起動、HUD、マルチシステムオンライン...」
機体の周囲360°を表示してくれるモニターが、KFAのコックピットには使われている。
これは宇宙で戦うために実装されたと言ってもいい機能だ。
HUD...ヘッドアップディスプレイを付けると、距離計とか照準器、武器の概略表示などが展開される。
「ヤバっ」
HUDに表示された標準時を見て、僕は休み時間まで時間がないことを知る。
休み時間の間に出撃して、そこから訓練の筈だからだ。
急いで設定を終わらせる。
レーダーと地図を設定、その後に火器管制システムの起動。
無線を付けて、タッチパネルの裏に書いてあった周波数に合わせた。
『お前らあと五分だぞ!』
バランドさんの声が聞こえてくる。
僕は機体の動作チェックを手早く済ませる。
関節部に問題ないことを確認してから、改めて座席に座り直し、シートベルトを締めた。
慣性制御とか、小説に出てくるような便利なものはないので、座席から放り出される事にならないためだ。
「よし、動くか...?」
操縦桿を握る。
タッチパネルを少し左にずらし、バドックを動かそうとする。
直後、振動と金属がぶつかる音。
『何やってんだ! B-66番!』
「すみません!」
『ガントリーを外せ! それが終わったらカメラアイを点灯させろ! 発進口への移動は全員そろってからだ!』
「はい!」
気を急き過ぎていた。
僕は自省し、タッチパネルを操作してKFAを拘束するガントリーを解除する。
そのうえで、カメラアイ......バドックの場合は頭部に付けられた四つの目のようななカメラを光らせた。
カメラアイの光は、パイロットの意思表示に必要なものだ。
白なら通常行動、赤なら交戦の意志あり、緑なら通信許可を要請、等だ。
「B-66 ナユタ・カイリ! 出撃準備完了!」
準備が終わった。
僕は声を張り上げて、通信でそう発言したのだった。
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