037-慣熟訓練1
『問題はないかしら?』
「大丈夫です」
翌日。
僕はブルータルに乗っていた。
なんと、ミユキ自身がブルータルを譲ってくれるというのだ。
せめてものお礼だと、彼女は言っていた。
「ただ...」
『ただ? 何よ?』
「普段は手動操縦なんですね」
ブルータルの状態だと、手動で動かすしかないようだ。
油圧系統の再設計が行われたらしく、僕は操縦桿二つを握っていた。
通常のKFAとは操縦方法が違うので、慣れるのには時間が掛かりそうだ。
そういうわけで、慣熟訓練を行う必要があった。
『そうよ、そのレバーと、アクセルペダルで操作ね』
「難しいな...」
上下左右斜めに動かせるレバーで、グリップの裏側に数個のトリガーが付いている。
操作難度は非常に高いと言える。
『やってみなさい、まずは前進からよ』
『ちょっと、邪魔しないで?』
その時、通信の向こう側でフウカが割り込んできた。
その後始まる不毛な言い争いを無視して、僕はブルータルを前進させる。
重い足取りで一歩進んだブルータルは、二歩目に踏み出す。
オートバランサーが付いてないので、今にも転びそうだ。
「あっ」
三歩目を踏み出そうとした時、片足に蹴躓き、ブルータルが転倒する。
前べりに引っ張られた僕は、シートベルトに助けられた。
エアバッグは付いてないのか...
『ナユタ、大丈夫かしら?』
「大丈夫だ、飛んで見る」
僕は機体を立て直し、背部のスラスターの出力を上げる。
正直、この機体は重力圏内で飛ぶには全く適していないとは思うのだが...
飛行型KFAと違って鈍足ながら飛べるというわけだ。
『もうちょっと速度が出せるはずよ』
「あんまり速く飛ぶと、こっちがついて来れないんですよ」
『そうよね、ナユタはまだ初心者同然よね...忘れてたわ』
同じ口調のやつが二人も話してるせいで、どっちがどっちだか分かりづらい。
まったく貴族ってのは面倒だな...
「どっちでもいいんですけど、口調を変えて話してくれませんか? どっちか分かりづらいんですよ」
『じゃあ私! ミユキ様はお嬢様ですものね!』
『..........貴方こそ、平民の真似がお上手ね』
どっちもお嬢様だろうに。
そう思いつつ、僕は滑るようにブルータルを着地させた。
そろそろ武器のテストもやっておくか。
「ミユキ、ダミーターゲットを出してくれませんか?」
『了解よ』
対ビーム装甲のダミーが出現する。
僕はそれに合わせてメガビームライフルを構えて...構えて...
「ん?」
『ナユタ、どうしたのよ?』
「ライフル用のインターフェースが出ないんだが...」
ライフルを撃つためにはオートで誘導、射撃処理を行うインターフェースの起動が必須だ。
ただ手に持っているだけでは、精密操作がないと撃てない。
『あ...忘れてたわ。その機体に武装用のインターフェースは搭載されてないの』
「なんだって...じゃあまさか、ミユキ...手動で撃ってたんですか!?」
『そうよ、頑張ったんだから』
常人のなせる技ではない。
僕は、改めてこの機体の難しさを知った。
トゥルーブルーに変形できれば、ライフルも通常の感覚で扱えるんだが...条件が分からないので使えない。
『ナユタ、盾を上手く使えばいいんじゃない?』
「ああ、そうだな...この盾は殴打武器にも使えそうだし」
僕がメガビームライフルを使うのは難易度が高いので、この機体に合う近距離武器を探すところからだろうな。
僕は一度、ブルータルを着地させ、歩いて二人の元へ向かうのだった。
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