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035-栄誉に見合う星々

翌日。

僕は朝食を摂らずに学校へ向かった。

料理をしている精神的余裕がなかったともいう。

電車に乗り、席に座っていると。


「あっ」

「...もしかして、ナユタさんですか?」


唐突に、知らない女生徒二人から声を掛けられた。

途轍もない面倒の予感がしたが、僕は応じることにした。


「はい、ナユタです。なんで僕を?」

「昨日の戦い、格好良かったです!」

「そうそう、ミユキ・カナタ先輩を助けるために飛び出して行って!」

「ん?」


その話を誰がしたんだ?

僕は恐る恐る、彼らに尋ねる。


「待ってくれ、その話をどこで?」

「? 王子が学院の配信サイトで決闘の映像を上げてましたよ?」

「は?」


待った。

それはどういうことだ。

そのあと根掘り葉掘り聞いたところ、あの王子は決闘の映像を学院内のストリーミングサービスを利用して録画、配信していたらしい。

ミユキ・カナタを圧倒し、敗北させることで自らの威光を高めようとしたのだろうか。

だが、結果として大迷惑だ。

僕が誰も居ないと思って叫んだあの言葉も、全て配信されていたってことだろう?


「すごく男らしかったです!」

「カナタ様を守ってくださって、ありがとうございます」


身分不相応な賞賛を受けながら、僕は学院の本校舎に辿り着く。

今日は本校舎にて、基本戦闘訓練のガイダンスがあるのだ。

騎士はKFAの外でもそれなりに戦えなくてはならないから、そのための授業であった。


「おい、アレって...」

「ナユタとか言ったか?」


本校舎についた僕は、当然多くの目線に晒される。

針の筵のような気分だった。

だから貴族と関わるのは嫌だったんだ。

こういう目に遭うから...


「よぉ、ナユタ!」


その時。

背後から声を掛ける人物が。

振り向くと、クライムとナスカが立っていた。


「すげぇな、ナユタ! リアルタイムでは見てねえけど、お前カッコよかったぜ!」

「パトリック王子は最低でも4回、KFAの大会で優勝しています。どんな事情があろうと、KFA乗りたちからすればあなたは英雄のようなものなんですよ」


ナスカがフォローしてくれる。

あの王子、意外とすごいのか。

ズルい機体で完封していたように思えたが...普通に戦えばいいのに。


「...ロランは居ないのか?」

「アイツは遅刻だってよ」

「そうか...」


というわけで、三人で校舎の中に入る。

...その入り口で、ミユキが待ち構えていた。


「あっ」

「わ...私たちは先に向かいますので」


マグマすら凍結しそうな程の視線を受け、クライムとナスカは去ってしまう。

周囲にいた、僕を映像で見たらしい野次馬たちも去っていく。

2階に上がるためのホール大階段の前で、僕とミユキは向かい合う。


「...その、何の用でしょうか」

「大問題になったわ」

「...でしょうね」

「それで、なのだけれど...言うのを忘れてたわ」


ミユキは周囲を見渡し、誰もいないのを確認してから、手を素早く差し出した。


「...友達に、なってくださいませんこと?」

「もう友達じゃなかったんですか?」

「友達は敬語なんて使わないわ」

「公の場ですから、それに...ミユキは、皆の憧れでしょう。生意気な口は...」

「生意気なんかじゃ....ない!」


唐突に、ミユキが叫ぶ。

僕はその気迫に圧され、たじろぐ。


「...私は、貴方に憧...」

「ちょっと、待ちなさい!」


ミユキが何か言いかけた時、鋭い声が飛び、僕は驚いてつい飛び上がった。

声の方を向くと、腕を組んだフウカが立っていた。

まずい、これは非常にまずい。

僕が望んだ日常からはかけ離れていれる。


「カナタ様、()のナユタに甘ったるい息を吐きかけないでくださいます? この人は私と添い遂げるつもりで選んだのですから」

「...フウ」

「あら、一学年違うだけで人を大年増扱いですの? 貴女こそ、ナユタの意思は無視しているじゃありませんこと?」


出会った瞬間、この会話である。

僕は気づいた。

この二人、相当仲が悪い、と。

僕はこの二人と友達になったことで、僕の日常は崩壊したのだ。


「どう思います、ナユタ」

「まあ、待ってください」


ここは取り持つことが重要だ。

何で争っているかは知らないが、争いは何も生まない。


「ミユキは僕がフウカの興味を引く存在だから、声を掛けたんですよね? だったら、争う理由はもうないのでは?」

「...は?」

「.........そうね」


何か失敗したかのように、ミユキが顔を歪ませる。

フウカが、可哀想なものを見るような目で言った。


「あら、人のぬいぐるみを欲しがるなんて...我儘なお方なのですね」

「ぬいぐるみだなんて...もしや、可愛がるつもりだけで、愛などないのでは?」


言い争いをやめない二人。

僕は、どうしたものかと迷っていた。

とにかく、このままでは遅刻する。


「...いいから、やめろ。僕が遅刻するだろう」

「っ!」

「格好いい...! 推せる...」


二人の間に割り込んで、強制的に制止する。

ミユキが知らない単語で何か言っているが、僕にはよく分からなかった。


「...だけど、ナユタ」

「元より、友達だろ?」

「...わかったわ」


僕の言葉に納得したのか、それともこれ以上は風聞に関わると思ったのか。

フウカは僕の言葉であっさり退いた。


「というわけでミユキ、僕はフウカと授業に出てくる」

「...ええ」


なんとか納得させられたらしく、ミユキは頷いた。

僕はフウカと共に廊下を歩く。


「急にどうしたんだ、一体」

「いいえ、何でもないわ。友達、なんでしょ」

「ああ」


一体何なんだと僕は頭を掻き、廊下を歩いて行くのだった。


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