028-白銀の真意
「僕はそちらの御令嬢とお話があるのですが、少しお時間を頂けませんか?」
僕の言葉に、振り返ったパトリックは明らかに不快そうな表情をした。
彼にとっては、グロテスクな虫を視界に入れたようなものだろう。
「君は誰かね? 悪いとは思うが、平民一人一人の名前を覚えておけるほど、この高貴な脳は安くはないのでね」
「名乗る必要があるでしょうか?」
もうなるようになれだ。彼女は困っているだろうし、ここで僕が助ければ謝罪もうまく行くかもしれない。
「ああ、君は反逆者のようだね」
「な、何を...!?」
パトリックが指を鳴らすと、群衆の中から数人が飛び出して、僕を拘束した。
ああ。
やっぱり、ダメなのか。
傲慢な話だったか、人を助ける素質を持たない僕は。
またも負ける。
「“処分”してくれたまえ」
「...くっ」
「お待ちなさい!」
声が飛んだ。
その場にいる全員が、硬直した。
ミユキ・カナタが、怒声を上げたのだ。
「一国の王ともなろうという貴方が、気に障っただけで臣民を処罰するなど! この外道、断じて見過ごせませんわ!」
「ああ、少し語弊があるな。私たちは正義を実行しているだけだ。王にこの物言い、将来は反政府組織に所属するに違いない、ああ、哀れな事だが」
もうやめてくれ、ミユキ・カナタ。
僕には特別なものなど何もない。
義理もないのだから、庇わなくてもいいというのに。
「決闘よ!」
「えっ」
その場にいる全員が...いいや、パトリックを除く全員が、あり得ないと言ったふうに言葉を漏らした。
「私自身と...そこのナユタ・カイリの名誉を賭けて、この私ミユキ・カナタは...正統なる王血、パトリック・ジン・ロカルファに決闘を申し込みますわ!」
「ミユキ、君は...」
「場所は、第三訓練場を指定! 二時間後ですわ!」
「...覚えておくといい、君は負けるだろう」
パトリックはそう捨て台詞を吐くと、仲間達と共に駅から出ていった。
僕は地面に放り出され、駆け寄ってきたミユキ・カナタに介抱される。
「大丈夫ですの...かしら?」
「何てことを! 僕が...」
僕が、何だ?
僕に何ができた?
「...分かっているわ。けれど...もし貴方がそのまま連れて行かれたなら、まず間違いなく死んでいたわよ」
「...はい」
馬鹿なことをした。
結局、場を収めるどころか、彼女の人生がかかった決闘の起点を作ってしまった。
僕は何がしたかったんだ?
「行きましょう、私の決闘を見ておきなさい」
「はい」
彼女が勝てるかはわからないが...
しかし、勝って欲しいと僕は心の底から思うのだった。
二時間後。
僕らは、第三訓練場へ集合していた。
コロニーの外壁に突き出した、無重力と地上戦を複合した戦場だ。
「大丈夫ですか?」
「心配要らないわ。ここは酸素があるもの」
「そうではなくて、KFAの状態です」
僕は上を見上げた。
格納庫の中で、白と灰色の装甲を持ったそれは佇んでいた。
見たことのないKFA。
「ブルータルの事? これはウチの家宝なのよ、そう簡単に故障はしないわ」
「ブルータル?」
「王国の古いことばよ、残酷で、残虐。そんな意味の名前のKFA」
この機体はブルータルと言うのか。
僕が少し得したような気分になっていた時、アラートが鳴る。
「もう行くわ。見ていて」
「...分かりました」
僕は、レールに乗って出撃する彼女を見送った。
見送るしかなかった。
情けない。
『審判決闘:開始』
審判決闘...貴族が利用する、何かを決めるための決闘。
相手のKFAを破壊するか、頭部を破壊すれば勝利となる。
だが...
「はぁ!? バドックⅢ-Ω!? なんで...軍用の機体がここに!」
僕は叫ぶ。
数日前に歴史の授業で習った、特殊タイプのバドックⅢがそこに居たのだ。
ビーム系の攻撃を防いでしまう、そんな特殊な装備を積んでいると。
「まさか...!」
僕は気付き、ブルータルの方を見た。
ブルータルはメガビームライフル装備で、完全に遠距離型だ。
彼女は、この戦場においてバドックⅢに対して有効打を放てない事になる。
「...卑怯だぞ、パトリック殿下!」
何もできないまま、僕は窓を叩いた。
戦いが始まる。
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