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026-決裂

数日後。

僕は一人、学校から帰っていた。

もうほとんど人通りもなく、それがかえって心地よかった。

僕は負けたんだ、その思いがいつまでも引きずられて、今にも摩擦で火が付きそうだった。


「...前を向いて歩きなさい」

「っ」


唐突に、僕の足元に誰かの靴が映った。

ふと前を見ると、目の前にミユキ・カナタが居た。


「...こんにちは」


何をしにきたのだろうか。

僕に忠告でも入れにきたのか?

それとも、慰めにでも来たのか?

僕は彼女の脇をすり抜けようとしたが、ミユキ・カナタはそれを体でブロックした。


「...待ちなさい、これには事情があるのよ」

「事情? 事情ってなんですか、僕が無様に負けることが事情だとでも?」


少々棘のある言い方になってしまった。

言ってから、後悔する。

貴族相手にこんな物言いをしていい理由はないはずだ。


「...だから、話すと言いたかったのよ」

「...わかりました」


ここで放置して帰れば、どんな目に遭うかもわからない。

僕は戦々恐々としながら、場所を変えると言って歩き出した彼女に続く。




ミユキ・カナタが向かった先は、本校舎の食堂だった。

彼女は僕を窓際の席に座らせて、自販機で飲み物を買うと、僕の反対側に座る。


「...あの授業のことは謝るわ。だけど、貴方が最後まで残ることが重要だったのよ」

「仮にそれが重要だったとして、なんで僕が」

「私が。...私が貴方を、見込んでいるから」


その瞬間。

時間が切り替わったのか、外の日差しが緋色を帯びた。

彼女の髪が、紅く照らされ妖しく輝く。


「見込んでいる...?」

「貴方、フウカ・シュレイン伯爵令嬢から特別に見られているのよね」

「え?」


あれで特別視なのか...


「あの娘はね、貴方が思っているより異性に対してドライなのよ。自分が家の道具だと、理解しているからかしら。...そんなあの娘が、貴方に目を掛けた。...これだけで、私は貴方に注目している」

「だからって...」


僕が最後まで残る事に、何の関係があるのだ。


「理解できないでしょうね。私が注目すると言うことは、その対象は路傍の石では駄目ということよ」

「.........」


理解できた。

同時に、反吐が出る。

そんな事のために...


「そんな事のために、僕の友達を呆気なくやられた汚名に晒したんですか?」

「やられる事に汚名はないわ。ただ、あの戦いで最後まで残った貴方を、以前から私が注目していたという事にするという話よ」

「はぁ...?」


話していることがよく分からない。


「私は貴方が気になる...けれど、貴族であるからには、理由なく誰かを見ることはできない...という事よ」

「そうですか...」


分かったような、分からないような。

そんな気分だった。

だが、どっちにしろ胸糞は悪い。

僕は飲み物を鞄にしまう。


「帰らせて頂きます」

「待って...待って頂戴。貴方が不快な思いをしたというのは...そうね、私の話を少しだけ聞いて欲しいのよ」


なんで僕が。

そう思いつつ、僕は鞄を椅子に置く。


「...私の夢は、学院で実力を示す事。つまりは、貴族の最高ランクのプライムになる事よ」

「...それで?」

「貴方のためなんて、何も分かってないことを言うつもりはないわ。だけど...私がプライムになった時、貴方が私のパートナーになれる実力を持っていれば、将来は安泰だと思うの」

「そういう事ですか」


結局、自分のため。

貴族ってのは自分勝手なんだな。


「...生憎、貴族と関わり合いにはなりたく無いので」

「そう...」


彼女は悲しそうな顔をする。

それも演技なのか?

僕には分からなかった。


「僕みたいな三流を捕まえるより、もっとましな卵がいっぱい転がってるでしょう」

「それは...シュレイン伯爵令嬢が目を掛けた貴方なら、何かあると思って...」

「彼女は僕と友達になっただけです」

「それが本来あり得ないと...」


その後の事はよく覚えていない。

僕は疲れ切って、列車の中でただ揺られていた。

その日から、ミユキ・カナタが僕に話しかけてくる事は無かった。

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