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021-嫌な奴

翌日。

僕は目覚め、適当に目玉焼きとベーコンをパンに乗せて朝食を終え、制服に着替えて出る支度を済ませる。


「随分早いな」

「今日は決闘授業があるから、急がないと間に合わない」

「...成程、勢い余って事故に遭うなよ」

「ありがとう」


僕は寮から飛び出して、早朝の住宅街を駆け抜けて駅に向かう。

まだ通学時間二時間前なので、駅にはほとんど人がいない。

もう列車は出発する所だったが、どうせ2分の誤差なので次を待つ事にした。

暫く待っていると、背後から肩を叩かれた。


「!」

「よぉ、ナユタ」

「...クライムか」


クライムだった。

予想通り、一般寮に居るらしい。


「一般寮か、やっぱり」

「おうよ、俺には貴族との生活なんてごめんだね」


貴族寮になれば一人部屋どころか一軒家が貰えるらしいが、クライムはそれが嫌だという。

まあ、理解できなくもない。


「貴族というのは柵の塊だとは聞くな」

「ああ、貴族はプライドの塊だからな、俺ぁ毎朝マウント取られるのは嫌なんだ」


騎士爵は、いくら一代限りでも貴族である。

それ故に、名誉はあっても平民が調子に乗るな、と言われ続けるのだ。

クライムはそれが嫌なのだろう。


『次はカシマ、カシマ。第七大講堂をご利用の方はこちらでお降りください』


僕らは暫く列車に揺られる。

クライムがこの時間に起きた理由はわかる。

今回向かうのは終点のアツシマ、そこにある第一訓練場。

許可を取らないと使用できない、コロニー外部にある訓練場である。


『次はアツシマ、アツシマ、終点です。乗り換え路線はございません』


そして、数十分電車に揺られる事。

僕に頭を乗せて寝ていたクライムが、目を開けた。


「着いたのか?」

「もう着く所だ」

「悪りぃ」


僕はクライムと共に、アツシマ駅で降りた。

列車はそのまま、アツシマ駅の地下にあるらしい車庫にレールごと降りて行った。

そこで簡易整備を受け、地下を走行して中央まで戻る、そういう事らしい。


「しかし、随分と豪華な所だな」


駅を降りると、庭園が僕らを出迎えた。

庭園には、誰かの胸像が等間隔で並んでいる。


「知らないのか? 第一訓練場は、学院生徒大会の会場でもあるんだぜ」

「そうなのか」

「胸像は、歴代の優勝者。ここに並ぶだけで、大変名誉な事なんだとさ」


学院の生徒大会は二年に一度開催され、同じ者が優勝しても胸像は二つにはならず、グレードが上がるらしい。

石像から最高のレアメタルへ。


「行こうぜ」

「ああ」


僕らは訓練場へ向かう。

だが、何も起こらず...というわけにはいかなかった。


「おや、君たちは...?」


入り口で僕らは、数人の貴族に囲まれた人間を見た。

誰だろうか?


「ナユタ、頭下げろ!」

「な、なんだ!?」


クライムが強引に僕を地面に引き倒した。

急なことで対応できず、僕は芝生を舐める羽目になった。


「ああ、騎士爵の。貴族の端くれとはいえ、流石に私のことを知らないというわけではないようだね」


声が降ってくる。


「平民の君は許してあげよう、頭を上げたまえ」


クライムが手を緩めたので、僕はゆっくりと立ち上がる。

目の前にいる男は、クライムを見て嘲笑の笑みを浮かべていた。


「無知蒙昧な君に、私の名前を教えてあげよう。その前に名乗りたまえ」

「...ナユタ・カイリです」


貴族の学章ではない、見た事のない学章。

それをつけた人物で、クライムがこの反応を見せるということは、只者ではないと僕は理解し、最大級の敬意を示さざるを得なかった。


「私の名前はパトリック・ジン・ロカルファ。本当なら平民の君が会うことも叶わない存在だ、私と会い、言葉を交わした事を生涯誇りに思うといい」


これが王族。

獅子の学章をつけた男、パトリックはそう言って、僕たちの横をすり抜け去っていく。

その際に、取り巻きの一人がクライムを見て、こう言った。


「王に受けた恩を忘れてないようだな、シューレンの餓鬼が。物乞いの分際で、我らが主人を覚えていた事だけでも評価対象だな」


とんでもない事を言いやがった。

僕の内心は腑煮え繰り返る思いだったが、クライムが何も言わなかったのでやめた。

ここで食ってかかるほど、僕は勇気ある人間じゃない。

王子達が去ってから、クライムは鞄を芝生に叩き付けた。


「くそ!」

「...クライム」

「分かってる、な? 俺は貴族なんて嫌いだ」


そう言うとクライムは、乱暴に鞄を担ぎ直し、訓練場に駆け込んで行く。

僕は若干の気まずさを覚えながらも、その後を追った。

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