012-歴史講義1
翌日。
アラームで起きた僕は、扉を開けて入ってきたラウルを見た。
「.....本当に起こしてくれるとは思わなかった」
「こっちも、そのつもりだったのだが」
若干気まずそうな雰囲気を見せるラウルに、僕は少しの安堵を覚えた。
少なくとも、敵対的というわけではないようだ。
「昨日は食材が無いから料理できないんだったな?」
「あ、はい」
「朝食は作ってある、今日だけだぞ」
「分かってます」
ラウルは、手慣れた様子でサンドイッチを作ってくれた。
目玉焼きと炙ったハム、トマトのスライスにキャベツを挟んだものだ。
クライムが好きそうだなと思いつつ、頂く。
「キミは何でも美味しそうに食べるな」
「実際に美味いからな」
ラウルは僕を見ながらそう言う。
当然だ、芋よりはなんだって美味い。
「自分で食べるだけの料理だから、自信はなかったんだが」
「今まで食べた中だと、相当美味い」
「そうか.....」
初めての都会で食った飯、行きのシャトルの中で食った飯と、食堂で食った飯。
それと比較すると、かなり美味い。
「っと、そろそろ出ないとな」
「ああ」
僕らは急いで朝食を完食し、それぞれの部屋で制服に着替える。
「ラウルさんはどちらの学科で?」
「俺か? 俺は技術学科だ、KFAの整備工にでもなろうと思ってる」
「へぇ.....」
KFAはああ見えて精密機械なので、僕は少しラウルを尊敬した。
手先が不器用なので、僕は機械弄りには向かない。
ラウルと共に寮を出た僕は、駅に向かう。
駅には既に大量の学生が詰めかけているが、ここでは平民でさえマナーを守るらしい。
列を作って、構内に入るのを待っていた。
「話には聞いてたが.....そうか、朝は混雑するのか.....」
「ラウルさん、大丈夫ですか?」
「ああいや、問題ない。行こう」
列に並んだ僕たちは、十五分後にようやく列車に乗る事が出来た。
この列車は無料で運行されていて、それでも金のある者達は有料のシャトルで学院に向かうのだ。
「席、空いてて良かったですね」
「キミが座ればよかっただろうに」
「僕は構いません」
列車は混雑していたが、一人分の席を確保できたのでラウルに譲った。
本当に構わない。
僕は立つのが好きだからだ。
『次はラトシカ、ラトシカ。技術学科第六講堂にお越しの方はこちらでお降りください』
「俺はここで降りる」
「わかりました」
それから三駅通過したところで、ラウルは降りて行った。
僕も、次で降りる。
本校舎を使うのは行事の時だけで、基本的にはコロニーの各地に分散した講堂で授業を受けるのだ。
様々なことが学べる以上、たくさんの専門講堂があると聞く。
『次はハミロ、ハミロ。騎士学科歴史講堂をご利用の方は、こちらでお降りください』
ハミロで降りる。
騎士学科は人が多いのだが、この時間にここで授業を受けるのは僕らのクラスだけのようだ。
降りる人は少ない。
「あっ! ナユタ!」
「シュレインさん、おはようございます」
ここは「フウカさん」と呼んでもらえると思ったのか、彼女は若干不満げに頬を膨らませる。
だが、
「ここは公道ですよ、どんな目で見られるかわかりません」
「...そうね」
僕と彼女は身分差がある。
向こうが僕と友達付き合いをしたいと思っていても、周囲がどう見るかは...
面倒ごとは避けたい。
「一緒に行きませんか?」
「ええ、いいですよ」
僕の提案に、彼女は頷く。
しかし、本校舎から離れているから昼食を食べるのは大変だな...そう思っていたが、ロビーには軽食スペースが設けられていて、今まで見たこともなかった料理の自動販売機が置いてあった。
「あれって...」
「見たことないの? 中で自動料理する自動販売機よ、ちょっと高く付くわ」
「そうなんですね」
見たことないものばかりだ。
しかし、始業時間までもう間もなく、見て回る暇はない。
僕らが入室すると、程なくしてチャイムが鳴った。
「よろしく頼む、歴史学科のソウ・シロハマだ」
歴史学科の講師は、パッとしない...というと失礼だが、銀髪と銀眼の男だった。
特に特徴がないようで、存在感だけはある。
「パイロット...騎士学科で、どうして歴史を? そう疑問を抱く生徒もいると思う」
特に前置きなどもなく、シロハマ先生は話し出す。
それに僕らは、耳を傾ける。
「だが、必要なことだ。必要な場所で、必要な時に剣を振るために、歴史や地理の知識は必要不可欠。よって、君たちは学ばなければならない」
言っていることはもっともだ。
だが、これは挨拶にすぎず、彼自身の考えでも思想でもない。
それをこれから聞くのだが。
僕らは、改めて佇まいを直すのであった。
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