011-帰寮
長いようで短い一日を終え、僕は帰宅する。
帰宅と言っても.....そもそも、今日が帰るのが初めての場所だが。
「ここか.....」
都市部の外れにある、学生寮団地。
そこに向かった僕は、まずは寮母に会う事にした。
「あら? 何か用?」
「いえ、ご挨拶にと思いまして」
「立派ね、今時いないわよ、そういう子は...大切にしなさい」
寮母.....クレア・ドルチェさんは、色っぽい茶髪の女性だった。
ついでだからと、僕にビニール袋に入った何かをくれた。
「これは...?」
「握り飯よ、故郷の特産品なの、食感が嫌いだったら捨てて頂戴」
「ありがとうございます!」
思えば、晩御飯を買うのを忘れていた。
これはとても有難い。
管理人部屋から離れた僕は、携帯に送られてきた情報通りの部屋に向かう。
「.....相部屋だったか」
表札には、「ナユタ・カイリ」の名と共に「ラウル・クローデン」の名が刻まれていた。
僕は認証コードで鍵を開け、部屋へと入る。
扉を閉めると同時に、奥の部屋からラウル・クローデンらしき人影が顔を出す。
「....君がナユタか」
「よろしくお願いします、相部屋だとは思いませんでしたが....」
「入学直前に変更があったようだ」
玄関の灯りが付き、ラウルの姿が顕かになる。
金髪だが....クライムと違ってぼさっとしておらず、整えられている。
目を引くのは、緑の宝石のような眼か。
「ここで話すのもなんだ、入れ」
「ええ」
僕はリビングに足を踏み入れた。
ラウルはキッチンの方に居たらしく、いい匂いが漂っている。
「料理....できるのか」
「ああ。....食べるか?」
「お願いしたい、晩御飯を買ってくるのを忘れた....」
とりあえず、握り飯は備え付けの冷蔵庫行きだろう。
温かい飯に勝るものはない。
僕はとりあえず、荷物を置くことにした。
「入るな!」
「っ、すいません」
部屋を間違えたらしい。
僕の部屋は、奥か....
荷物を置いて、制服から一張羅の私服に着替えた僕は、ラウルの作った食事をご馳走に預かる。
「凄いですね、こんなに凝ったものは作れないです」
「もとは自分の為に作ったからな」
「頂いても?」
「好きにしてくれ」
僕は、自分の皿に取り分けた料理を食べる。
道中でも思ったが、都会の人間はいいものを食べ過ぎだ。
たまには三食芋でもいいとは思うのだが....
「ラウルさんは、相部屋が嫌ですか?」
「構わない、むしろ、想定していた最悪よりは、君はいいルームメイトだと思う」
褒めてるんだか貶してるんだか分からないが、少なくともお眼鏡には適ったらしい。
平民同士なのに、ラウルが誇り高すぎて貴族にすら思える。
「毎食こういう訳にもいかないからな」
「はい、明日からは自分で料理を作ります」
「そうか」
今日はどうしようもなかったが、明日は材料を買ってきて自分で調理することにした。
奨学金に食費も含まれてるのが、流石は学院コロニーという他なかったが。
外でお金を使わないので、なんらかの形で学院に還元されるんだろう。
「少し話がある」
その時。
ラウルが僕に、真剣な...いや、常に仏頂面なのでわからないが、ともかく真面目な声で言ってきた。
「黄泉竈食ひというわけではないが、この飯を食ったからには...」
「...!」
「次のルールに従ってもらう」
「なんです?」
ラウルは、厳格なルールを僕に定めた。
まず、ラウルの部屋には入らないこと。
次に、ラウルが風呂に入る時には、ハンガーをドアノブにかけておくので入らないこと、最後に冷蔵庫に入れてあるプリンを勝手に食べない事、であった。
別に勝手に食べたりはしないが、しかし厳しいルールである。
「僕からも条件を出したいが、いいか?」
「無理な事でなければ」
「朝起こしてくれ」
僕は朝が弱い。
厳しい条件に見合うなら、これくらいの要求は妥当だろう。
「ふふ...自分で起きろ」
「そうか...」
冗談だと思ったのか、ラウルは微かに笑いを漏らした。
僕はその間に、食事を次々と口に放り込む。
パンは出来合いのようだが、肉に野菜と美味しいものばかりだ。
「美味しかった、ありがとう」
「二日分の食材を使ってしまったな、次は俺の分も頼む」
「わかった」
明日は買い込むか。
僕はアルバイトも探さないとと考えつつ、自分の分の食器を洗うために、皿を持って立ち上がった。
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