表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/41

011-帰寮

長いようで短い一日を終え、僕は帰宅する。

帰宅と言っても.....そもそも、今日が帰るのが初めての場所だが。


「ここか.....」


都市部の外れにある、学生寮団地。

そこに向かった僕は、まずは寮母に会う事にした。


「あら? 何か用?」

「いえ、ご挨拶にと思いまして」

「立派ね、今時いないわよ、そういう子は...大切にしなさい」


寮母.....クレア・ドルチェさんは、色っぽい茶髪の女性だった。

ついでだからと、僕にビニール袋に入った何かをくれた。


「これは...?」

「握り飯よ、故郷の特産品なの、食感が嫌いだったら捨てて頂戴」

「ありがとうございます!」


思えば、晩御飯を買うのを忘れていた。

これはとても有難い。

管理人部屋から離れた僕は、携帯に送られてきた情報通りの部屋に向かう。


「.....相部屋だったか」


表札には、「ナユタ・カイリ」の名と共に「ラウル・クローデン」の名が刻まれていた。

僕は認証コードで鍵を開け、部屋へと入る。

扉を閉めると同時に、奥の部屋からラウル・クローデンらしき人影が顔を出す。


「....君がナユタか」

「よろしくお願いします、相部屋だとは思いませんでしたが....」

「入学直前に変更があったようだ」


玄関の灯りが付き、ラウルの姿が顕かになる。

金髪だが....クライムと違ってぼさっとしておらず、整えられている。

目を引くのは、緑の宝石のような眼か。


「ここで話すのもなんだ、入れ」

「ええ」


僕はリビングに足を踏み入れた。

ラウルはキッチンの方に居たらしく、いい匂いが漂っている。


「料理....できるのか」

「ああ。....食べるか?」

「お願いしたい、晩御飯を買ってくるのを忘れた....」


とりあえず、握り飯は備え付けの冷蔵庫行きだろう。

温かい飯に勝るものはない。

僕はとりあえず、荷物を置くことにした。


「入るな!」

「っ、すいません」


部屋を間違えたらしい。

僕の部屋は、奥か....




荷物を置いて、制服から一張羅の私服に着替えた僕は、ラウルの作った食事をご馳走に預かる。


「凄いですね、こんなに凝ったものは作れないです」

「もとは自分の為に作ったからな」

「頂いても?」

「好きにしてくれ」


僕は、自分の皿に取り分けた料理を食べる。

道中でも思ったが、都会の人間はいいものを食べ過ぎだ。

たまには三食芋でもいいとは思うのだが....


「ラウルさんは、相部屋が嫌ですか?」

「構わない、むしろ、想定していた最悪よりは、君はいいルームメイトだと思う」


褒めてるんだか貶してるんだか分からないが、少なくともお眼鏡には適ったらしい。

平民同士なのに、ラウルが誇り高すぎて貴族にすら思える。


「毎食こういう訳にもいかないからな」

「はい、明日からは自分で料理を作ります」

「そうか」


今日はどうしようもなかったが、明日は材料を買ってきて自分で調理することにした。

奨学金に食費も含まれてるのが、流石は学院コロニーという他なかったが。

外でお金を使わないので、なんらかの形で学院に還元されるんだろう。


「少し話がある」


その時。

ラウルが僕に、真剣な...いや、常に仏頂面なのでわからないが、ともかく真面目な声で言ってきた。


「黄泉竈食ひというわけではないが、この飯を食ったからには...」

「...!」

「次のルールに従ってもらう」

「なんです?」


ラウルは、厳格なルールを僕に定めた。

まず、ラウルの部屋には入らないこと。

次に、ラウルが風呂に入る時には、ハンガーをドアノブにかけておくので入らないこと、最後に冷蔵庫に入れてあるプリンを勝手に食べない事、であった。

別に勝手に食べたりはしないが、しかし厳しいルールである。


「僕からも条件を出したいが、いいか?」

「無理な事でなければ」

「朝起こしてくれ」


僕は朝が弱い。

厳しい条件に見合うなら、これくらいの要求は妥当だろう。


「ふふ...自分で起きろ」

「そうか...」


冗談だと思ったのか、ラウルは微かに笑いを漏らした。

僕はその間に、食事を次々と口に放り込む。

パンは出来合いのようだが、肉に野菜と美味しいものばかりだ。


「美味しかった、ありがとう」

「二日分の食材を使ってしまったな、次は俺の分も頼む」

「わかった」


明日は買い込むか。

僕はアルバイトも探さないとと考えつつ、自分の分の食器を洗うために、皿を持って立ち上がった。


↓小説家になろう 勝手にランキング投票お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ