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010-フウカ・シュレイン

「その....」

「すみません、お返しします」


僕はハンカチをその人に返す。

そして、立ち去ろうとする。


「待ってください、何も逃げなくてもいいでしょう」

「いえ.....その」


この学院で、貴族を見分ける方法は簡単だ。

ネクタイの色、それだけで相手の身分が分かる。

平民は紺、貴族は赤。

公爵の子供なら白だけど、この場合相手のネクタイの色は赤。


「お嬢様にお時間を使わせるわけにはいきませんので、では」


ネクタイには金色のラインが入っていて、それで相手の身分がすぐにわかるようになっている。

彼女のネクタイには三本入っている、つまり伯爵令嬢だ。

こんなのにもし不快な思いをさせたら、翌日から学校にいられなくなる。

関わってはいけないタイプの、所謂見えている地雷だ。


「身分を気にしているようなら、構いません」

「そうは言っても、僕に何の用事ですか」


ハンカチは返したんだからもういいだろう。

そういう僕の本音が顔に出ていたのか、向こうは僕の手を強引に掴んだ。


「な、何ですか.....」

「覚えてるわ、君.....ナユタ・カイリ君ね」

「な、なんで....」

「見てたもの、クライムさんと組んで戦ってたのを」


成程。

そういえば、右腕の腕章が騎士学科のものになっている。


「私、フウカ・シュレインよ。あなたとは仲良くしたいわ」

「........」


貴族の御嬢様というのはこうも強かだっただろうか?

そんな傲慢にも近い思いを抱きつつも、僕は彼女の提案に頷いた。


「そういうわけでナユタ」

「ちょっと待ってください」

「何?」

「こういうのは段階を踏むものじゃありませんか?」


何でいきなり、貴族のそれも伯爵令嬢に気安く接されなければならないのか。


「あなた、下心はある?」

「....ないわけじゃないですが」

「嘘、本当の心を隠している人は「ない」って言うわ。だからあなたに下心はない、これって....友達じゃない?」

「はぁ...?」


突然飛び出した理論に、僕は耳を疑う。

しかし、言いたい事は分かる。

下心のない関係なら、気安く接しても構わないだろうと。


「僕はハンカチを拾っただけですよ...」

「いいでしょ、私も友達いないから」

「”も”、とは?」

「友達いないのよね?」


僕の脳裏に、クライムとナスカが浮かぶ。

彼等とはまだ友達ではない、知り合い程度だ。


「では、知り合いから始めましょう」

「そうしましょ」


奇妙な出会いだ。

そう思いつつ、僕たちはベンチに腰掛けた。


「なんで、あんなところにハンカチを?」

「お昼を一人で食べてたら、忘れてたのよ」

「ああ.....」


誰かと食べる食事は楽しい。

けれど、必ずしもそれが楽しいと思える人間はいない。


「別に、一緒に食べる人が居なかったわけじゃないわよ」

「そうなんですか?」

「今日は天気がいいから」


天気.....そういえば、コロニーにも天気はあるのか。


「......天気がいい、ですか」


僕の故郷は、地上に降りればいつも曇りだった。

分厚い雲に覆われた、荒野だ。

時折雲が薄くなって、光が差して畑を照らす。


「そろそろ夜ね」


コロニーの夜は、照明が消えることに他ならない。

だから、時間通りに夜が来る。


「駅まで送りましょうか? 一人歩きは危ないと聞きます」

「いいわ。伯爵令嬢を襲う命知らずなんて、この学院にはいないから」


こうして、僕とフウカ・シュレインは出会った。

後で知ったのだが、フウカは八人墜としてから、僕に墜とされたそうだ。

知り合う人間が、優秀過ぎる。

僕の卒業が危ういという事を、改めて自覚するのだった。


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