001-覚醒
新連載です。
とりあえず序章を更新します。
更新時間は13:00と21:00になります。
『...お前は......になるんだ......な?』
暗い場所で、僕はただ立っていた。
金属に反響したような声が響いている。
僕に向けられたものなのに、その言葉は遠く、ひどく歪んで聞こえた。
『...ぞ......』
『待ってよ!』
僕の声は、ひどく幼く聞こえた。
何故だろう?
どうして幼い声なんだろうか?
『待ってよ...』
その先は、激しいノイズが入って聞き取れなかった。
ああ、夢が終わる。
また何も得られなかった、そんな感想を抱いて、僕は現実へと戻って行った。
「...っ、またこの夢か」
起き上がると、足に枕が当たっていた。
少し肌寒い。
布団がはだけて、半ばベッドからずり落ちるような形で引っかかっている。
「...そうか、もう着いてるんだな」
僕は窓の外に視線を移し、呟く。
窓の外は宇宙空間ではなくて、格納庫になっている。
僕や他の学生を乗せたこのシャトルは、無事に目的地に辿り着いたということだ。
ベッドから起き上がって、ベッドサイドにある時計を見た。
「王国標準時...6時52分...って、まじか!」
後8分で出ないと間に合わない。
僕は急いでベッドから飛び出して、船室の洗面所に向かう。
顔を洗って、歯を磨く。
いつも通り、黒髪と黒目の自分が鏡に写っていた。
この髪と瞳の色の組み合わせは王国でも珍しいらしい。
「忘れ物...なし!」
僕は荷物をブリーフケースに突っ込む。
二重底から引っ張り出した制服で身を包み、旅支度は完了。
「よっしゃ」
タイを締めて、僕は満足げに息を吐く。
15日間お世話になった船室だけど、惜しくは感じない。
『シュテンリット学院生の皆様は、第六、第七番ゲートより下船してください。パージット工船組合員の方は指示があるまで待機をお願いします、一般人のお客様は...』
扉を開けると、廊下の喧騒がすぐに耳に入ってきた。
僕の入る学院と同じ制服の生徒が、行き交っている。
僕もすぐに部屋から出て、その列の中に入り込む。
「うわぁ...!」
第七番ゲートから出た僕たちは、ベルトコンベアに流されて外へと出る。
流石に学院ともなると、格納庫も大きい。
故郷の宇宙港で見た時は大きく感じたシャトルが、振り返れば小さく見えた。
『シュテンリット学院生の皆様、ご入学の方は初めまして。在校生の方はお帰りなさい。私はシュテンリット学院の保安局職員、ズベルト・ロイアーです』
閉じた扉の前に三列を成して並んだ僕たちだったが、唐突に声が響く。
『スキャンは完了しました、爆発物、危険物の持ち込みは禁止されていますからね...無論、分かっていると思いますが』
いつのまにか、身体と手荷物のスキャンが終わっていたらしい。
ここに並ばされたのもテロ防止の一環なのだろう。
『では、これよりシュテンリット・コロニーへの進入を開始します。初めての方は重力転換に気をつけてくださいね』
重力転換とは、実際に体感したことはないけど、重力の向きが違う空間に突入した時に起こる現象らしい。
ゲートが開き、僕たちは一室に案内される。
次へと続く扉が変な場所についているから、ここで重力転換を行うらしい。
『重力転換まで...3、2、1...』
「うわっ!?」
急に、足元が足元ではなくなった。
その感覚に慣れずに、派手に転んでしまう。
さっきまで床だった場所が、壁になった。
逆に、さっきまで壁だった所が、今立っている地面になっている。
『では、先へどうぞ』
扉を潜った僕たちは、エレベーターに乗り上を目指す。
エレベーターに乗ってる途中で、体がふわりと浮かび上がって、僕は困惑する。
『おっと、お忘れしていました。最後に通るのが低重力域、コロニーに重力を生み出すための回転ブレードがある場所になりますので、ご了承いただけると幸いです!』
低重力域は、これといって見るべきところはなかった。
手慣れた様子の在校生に従っていくと、また扉にぶち当たる。
『扉を開放します、重力転換は起こりませんのでそのまま外へどうぞ!』
扉が開き始めた。
僕は、誰かの背中を追って、外へと出て...風を感じた。
「す、すげぇ...!」
その先にあったのは、絶景。
地面から空まで地面があって、下にも上にも街並みが並んでいる。
その中央部を占拠しているのは、僕が通う予定の学院だ。
「っと」
入学式があるのは標準時で九時丁度。
それまでに辿り着かないと、遅刻になってしまう。
僕は在校生の列を追って、移動手段である鉄道の駅へと向かうのだった。
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