デッドorプール
この男子校のプールは老朽化で使えない。だが今朝、担任の男性教師は突然こんなことを言い出した。
「みみ皆、落ち着いて聞いてくれ。来週から始まる水泳の授業だが……先方のご厚意で、なんと同地区の有栖川女学校と合同で行われることになった」
ウオオオオオオオオオオオオオッ!!!!
地鳴りのような歓声が沸く。柔道部の太田が興奮のあまり教師を背負い四階の窓から放り投げた。パトカーに乗せられ連行される太田。教室の角ではスク水マニアの中田と佐藤と佐竹が胸の膨らみか腰のくびれか尻の締まり具合かで言い争い火花を散らし燃え尽きた。
「たかが水泳の授業で浮かれて……猿以下だな」
そう言った意識の高い石川は階段を踏み外し、転げ落ちて担架で運ばれて行った。
夢なんじゃ!? と現実を確かめるべく教室では誰もが拳を振り上げ血しぶきを散らし殴り倒されていく。
一時間後、清掃用具入れのロッカーが軋み開いた。顔を出したのは佐々木、そう、今朝皆からロッカーに閉じこめられ担任にも気付かれず放置されていた、いじめられっ子の彼だけが難を逃れたのだ。
「さ、佐々木ぃ……」
屍の中から誰かが佐々木の足首をつかんだ。
「もうお前しかいない……お前は俺たちの希望だ……俺たちの分も、ゴフッ」
任せろ、と言う代わりに屍を足蹴にして佐々木は教室を出た。
待ちに待った有栖川女学校と合同プールの日。
「せっかくの機会だ、楽しもうじゃないか」
松葉杖を引きずりながら現れた全身包帯姿の担任につれられ、佐々木は異世界を目の当たりにした。
キャハハと水しぶきを上げ、むき出しの肩も気にせずプールではしゃいでる女子たち。プールサイドでは数人が水着の食い込みを直しながら話している。
佐々木はプールの隅に目を移した。夏の制服を着た黒髪ロングヘアーの色白の少女が、素足を前に投げ出して座っていた。
佐々木が隣に座ると、彼女はスカートを股に挟んで体育座りし直した。膝を抱え、佐々木の方をちらりと見て言った。
「見学の人ですか?」
「うん、なんか夏風邪みたいで」
担任教師はスク水を貪るように見学していたが、水着より大事なことがあることを佐々木は知っていた。
「よかった、一人じゃつまんなくて暇してたの。あ、私ミアって言います。名前、聞いていいですか?」
「僕は……」
授業が終わる前に何としてもミアの連絡先を聞き出す。佐々木は唇に微笑を浮かべた。