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佇むライオンの牙

作者: 幸京

「ご協力、本当にありがとうございます。では約束の10億円を振り込みましたので確認して下さい。え?いやいや、あなたの人生を買ったも当然ですからこれくらいは当然です。このお金で人生をやり直して下さい。そしてこれでもう、二度とあなたと会うことはありません。匿名による訴えにはなりますが、ほとぼりが冷めるまで隠れていた方が良いかもしれません。あなたのことを特定しようとする動きは必ずあります。どうかお気をつけて。僕ですか?大丈夫です。幸いなことにお金はあるので、外国でひっそりと生きていきます。家族は亡くなり友人知人もいないので、マスコミが近づくのは罪人達です」


「本日発売された週刊真実にて、株式トレーダーである森山公彦氏からホテルで性被害を受けたと被害者女性が告発しました。記事によればこの女性Aさんは、先月9月10日(日)夜に森山氏より株式市場の流れの話がしたいとのことでホテルに呼ばれました。その後、性被害にあったとのことです。警察には言っても立件してもらえるか分からず、それでも森山氏が世間から評価されていることが納得出来ず告発に至ったとのことです」


「まぁよく分からないのが、何故警察ではなく、週刊誌に情報提供したのかということです。いや警察による立証が難しいとか、何も出来ないなんて知らないですよ。そりゃそうでしょ、僕はただのコメンテーターですよ。警察の捜査方法を変えられる立場ではないですよ。あの、まだ話が終わっていないんで聞いてくださいよ。は?僕はずっと落ち着いていますよ。ですから、だからといって何故週刊誌なのか、あと週刊誌はこのAさんに取材費のようなお金は渡しているのかが気になります」


「うわ、引くわ。え?いや森山よ、こいつ女を暴行したって被害者から週刊誌に暴露されてるわ。気持ち悪いな。ネットコメントでも気持ち悪い、死刑案件、成金野郎とかすごいあるわ。確か、親がシングルマザーで貧乏だったけど苦学して大学出たんじゃなかったか?あ~やっぱそうだよね、何かそれで這い上がりあそこまで登りつめて、そうそうそれで好感度かなりあったのにな。人は分からんもんやな。え?こいつ震災地や養護施設に多額の寄付してたの?。マジ?、あ、いらっしゃいませ~。お二人様ですか?」


「週刊真実からあった森山公彦氏による婦女暴行、その被害者であるAさんとの和解が成立したと森山氏の担当弁護士から書面にて発表されました」

『この度、一週間前に週刊真実により告発された、私によるA様への暴行は全て事実であります。誠に申し訳ありませんでした。あれからA様への謝罪を行い和解が成立しました。何故、このようなことをしたのか、全ては私が未熟であるがためです。重ね重ね申し訳ありませんでした。それでも抽象的ではなく、具体的な理由を考えれば私は転校先の小学6年生から中学3年間、担任を含め全クラスメイトから苛めを受けていました。家が貧しく服や物品が買えず全て貰い物であったためみずぼらしく、性格も大人しく勉強も運動も出来なかったので苛めの的にされやすかったのでしょう。給食にはチョークの粉を入れられ、ランドセルを川に落とされ、プロレス技をかけられ骨折すれば転倒した事にしろと脅されました。私の葬式ごっこ、女子トイレでの排泄強要、放課後に全裸にされ服探し等、ただただ地獄の日々でした。高校は通信制で通い、大学は奨学金を借りました。そこでは苛めはなく、安心して過去を忘れ勉強して身を立てようと努力しその結果、何とか多くの方に認めてもらえるようになりました。そんな時です。私の公演に来たA様の姿を壇上から見た時にフラッシュバックを起こしてしましました。私を苛めていたクラスメイトの一人によく似ていたのです。過去は忘れて生きていたつもりでしたが足の震えが止まらず、私はまだ過去を忘れていないのだと思いました。自分は変わった、自分は過去を忘れ乗り越えた、自分はここまで這い上がったと、自分に言い聞かせるためにA様を株式市場の流れについて話したいとホテルに誘いました。信じられない話ではありますが、暴行をしようとはまったく考えていませんでした。密室で二人で普通に話をすることにより、フラッシュバックを乗り越えようと思ったのです。ですが駄目でした。ホテルで二人きりになった瞬間、パニックになり身体が震えました。そんな私を心配して、慌ててベッドに横にしフロントへ電話をしようとしたA様に暴行してしまいました。和解が成立したとはいえ、もちろん、決して許されることではありません。トレーダーは引退して今後二度と皆様の前に出ることはなく、この度の自分の行いを忘れず日々謝罪の気持ちを持ち生きていきます。最後となりましたが、この度は誠に申し訳ありませんでした』


「どうして記者会見しないんですか?昔の苛めが原因だから許されるんですか?Aさんは何も関係ないじゃないですか」

「橘さん、あなた、辞めてもらいます。ほらあの森山の件、クラスメイトだったでしょ?イジメていたの?違う?そう、でも店の電話が鳴りやまないの。ほら今も、あ~もう!」

「苛めの証拠は?何も証拠はねーのにうるせーな。どいつもこいつも暇人かよ。あ?うるせーよ、クソユーチューバーが」

「今村、クビだ。分かるだろう、森山の件だよ。客や取引先からの苦情が相次ぎ仕事にならん。この業界もコンプライアンスが厳しいからな」

「森山の小学6年生と中学のクラスメイトの写真、個人情報、ネットで出てるわ。何か勤め先や家族にも電話がきているみたい」

「お、お父さん、お父さんは森山っていう人をイジメていたの?学校の先生なのに、どうして?ぼ、僕、学校でみんなに、ウ、ウ、ウヮーン」

「性被害にあったのに警察に行かず金で解決したんだろ?この女、どう考えても金目当てじゃん」

「お前は仕事が出来るからクビにはしない。だが降格で今後の出世は諦めろ」

「離婚だ。お前の個人情報だけじゃない、俺の職場にも電話がきてんだよ。慰謝料は請求しないが子供には絶対に会わせない。お前、学級委員長だったらしいが最低だな」

「ねぇ、嘘だよね。あなたはそんなことしてないわよね。知っているでしょ、私もイジメられていたの。あなたはイジメは絶対に許さないって怒っていたよね?」

「母さん、教師らしく昔から大層なことを言っていたね。感謝して?謙虚に?人を想う?、よく言えたね。森山を犯罪者にした元凶のくせに」


絶望なのか何なのか、よく分からない感情のまま、崖に向かう時に声をかけられた。

ー死ぬつもりですか?良ければ死んだつもりで僕に協力してくれませんか?あんな奴のせいで死ぬなんて馬鹿らしいですよー。

心優しき復讐鬼は、月が綺麗な寒空の下、海辺で笑いながらそう言った。

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