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すれ違う運命の中で  作者: 甘衣 一語
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幼なじみな俺ら

「ケイ君、妹いたんだ。響ちゃんうらやましい。」

 響の後ろ姿を見送り、大和が恨めしげに呟く。

 実は子どもが大好きな大和は、本当は咲ちゃんのお世話を引き受けたかったのだろう。けれど子どもの相手を1人でするのは不安で、最終的にママが引き受けてくれたことを感謝しながら羨ましくも思っているはずだ。

 2人だけでテーブルに座るのも申し訳なく、カウンターに移る。

「まぁ、ここに来れば咲ちゃんに会えるんだろ。とりあえずはそれで我慢していろ。」

 そんな対して慰めにもなっていない言葉で満足した大和は、いつものように別の席へ向かっている。

 他の人に話しかけては楽しそうにしている姿に少し心が痛む。

 大和とは保育園の頃からの付き合いだ。その後同じ小中高一貫の学校に入学し、今に至る。

 その間クラスが別れることもあったが俺らはずっと一緒にいた。

 サッカーの試合で負けたときも、高校に上がってサッカーを諦めたときも、進路で悩んでいたときも、大和の隣にいたのは俺なのに意識していないのが少し悔しい。

 今もテーブルに1人で座っている女性と嬉しそうに喋っている。

 やっぱり俺では、男ではダメなのだろうか。と不安になることもある。例え大和が俺の気持ちに気付いたとしても子どもを作る未来はない。それがやっぱり嫌なのだろうか。


 俺が大和と初めて会ったのは保育園に入る少し前、親の引っ越しで大和の住む町へ来た初日だった。まだ弟妹も生まれていない頃で両親は仕事の関係ですごく忙しそうだった。だから家の敷地の外に1人で出た。家の隣には小さな公園があって、賑やかな声につられて足を運んだ先で、俺が見たのは楽しそうにサッカーをする大和だった。自分と同じくまだ思うように動かない体で、兄たちを真似てボールを蹴る大和が、すごくかっこいいと思った。

 それから保育園に入ってその子が同じ組だと知ってすごく嬉しかった。保育園では大和のサッカーがいつでも見られたし親しくもなれた。ただ大和とは校区が違ったので両親に泣きつき、大和に勉強を教えるという条件で大和の母親、レイさんからも小学校受験の許可が下りた。

 なんとか大和も合格し、サッカーの強い学校に進んだ大和はそれまで以上にサッカーに打ち込んだ。大和は勉強はまぁまぁだが運動がとにかく好きで、サッカーだけでなく他のスポーツも上手だった。上級生とも競り合えるほどに上達し、プロ顔負けの実力で進んだ高等部。

 当然のように入部したサッカー部で大和はアルファという存在を知り、そして壊れた。

 俺らの学校はサッカー強豪校なだけあって部員は30を超えていた。その中で1軍、2軍、3軍と実力でチーム分けされ練習内容が割り振られる。基本試合に出るのは1軍だけで、そのチーム割りは4月の終わりにあった。1軍になると張り切ってグランドに向かった大和が、泣きながら帰ってきたのはその1時間後くらい。

 あれほどの実力がありながら大和は1軍に入れなかったのだ。強豪校で実力者揃いだから1軍に入れなくてもおかしくはないが、大和が泣いているのは別の理由だった。全国屈指のアルファ校としても知られている俺らの高校の、そのサッカー部にはアルファが十数人いたのだ。彼らは全員1軍に入り、それ以外は2軍。大和に比べると実力の劣る生徒も1軍に入ったという。

 差別はダメだといいながら、結局アルファが一番なのだ。その事実が大和に大きな衝撃を与え、ほどなくして大和はサッカーを止めた。

 響に話しかけるようになったのはそれからさらに半年経った頃で、その頃にはなんとか、元気に振る舞えるほどには自分の中で折り合いがついたようだった。

 最近はまたサッカーも始めていて、やっぱり楽しそうにサッカーをしている大和が好きだなと感じる。


「あれ、優大は今日は話しかけないの。」

 会話が一段落したようで大和は俺の隣に座る。まるでいつもは俺が誰かをナンパしているかのような口ぶりだが、そんな過去は一度もない。

「お前こそ、楽しそうだったな。」

 俺は後ろを振り返る。さっきまで大和としゃべっていた女性は、もう他の人に目をつけている。

「え、そ、そう。」

 なぜか照れくさそうに笑うその姿に、少し怒りが湧く。

「いや、あのね優大。」

 ひとしきり照れてから嬉しそうに話し出す。

「あの子真美ちゃんって言うんだけど、優大のことがかっこいいですねって声かけてきたの。」

 だから僕嬉しくてつい。と恥ずかしげもなくそんなことをいう。俺のこと。

 確かに俺目当ての女性が少なからずいるのは知っているが、なんでそこで大和に話しかけるんだ。

「あ、違うよ。真美ちゃんから話しかけてきたんじゃなくて僕から聞いたんだからね。もしかして好きなんですかーって。」

 無神経にそんなフォローを入れる大和には、怒りを通り越してもはや呆れるしかない。

「そうか。なら仕方ない。」

 最大限の嫌味を込めそう答えるが効果はない。俺が怒らないので、安心したように息を吐いている。大方、俺が大和に先を越されて怒っている、と勘違いしているのだろう。

 大和はいつもこうだ。どれだけ分かりやすくアピールしても気付かない。ここまでなるとただのバカかもしれないと、思ってしまうほどの鈍感だ。

 まぁ、それでいい。

 どうせこれからもずっと大和は俺から離れられないのだから。そのためにレイさんたちにも根回ししてコツコツ外堀を埋めているのだ。精々今は暢気にしていればいい。どんな手を使ってでも大和を俺のモノにするさ。子ども、がとかどうだっていい。

 そんなの大和を捕まえてからいくらでも考える時間はあるだろう。

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