7話 東京に帰る
マイちゃんには帰ってもらった。
彼女はもうちょっといたそうにしていたが、これ以上は俺の身がもたない。
とにかく品種改良BOXが余計なことばかり喋るのだ。
タコ星人のことも聞かれるより先にペラペラ喋っていた。
もう疲れた。ごまかすとかもうムリだから。
それでも彼女には、いちおう口止めした。
けど、まず秘密にはしておけないだろう。こんなおかしな体験、他人に喋るなってほうがムリだ。
ただ、不幸中の幸いというか、明日の朝には俺は帰る。
ブラック企業だけあって、二日しか休みが取れなかったのだ。
騒ぎになったときは、品種改良BOXは東京にある俺のアパートの中ってわけだ。
――――――
翌日。
「とっても美味しいです。このシャケ」
品種改良BOXは、俺と共に朝ご飯をモリモリ食べている。
不思議なことに、あの電光掲示板みたいな口に食べ物が次々と吸い込まれていくのだ。
なんで食べれんの?
その口、どうなってんだよ。
「やっぱり朝は米ですよね。パンも悪くはないけど、落ち着くのはゴハンです」
品種改良BOXは、ハシを器用に使ってゴハンを食べている。
そりゃあもう、海苔すら見事に巻いている。
ほんとうにどうなってるんだ?
あの手でハシが持てることじたい、不思議でしかたがないんだが。
「このだし巻き卵の味付けは絶品ですよね。お母さまが作ってらっしゃるのですか?」
ちゃっかり母のご機嫌までとっている。
しかし、何でだし巻き卵知ってんの?
地球人すら見たことなかったんだろ?
おかしくねえか?
「母さん、メシ食ったら帰るよ。なんも手伝えなくてゴメン」
付き合ってらんね~。
ここから東京まではけっこう時間がかかる。
高速を使っても五時間。次の日のことを考えると、あまりのんびりしてられないのだ。
「いや、手伝いなんかいいんだよ。でも、もう帰るのかい? さすがに短すぎないないかい?」
母の言うとおりだ。
祖父が死んだとなれば、三日は休みが取れるハズ。
つくづくブラックだな。できることならサッサと辞めたい。
「車の運転大丈夫かい? あんまり寝れてないんだろ」
続けて母が言う。
たしかに昨日は疲れているのにあんまり寝れなかった。
色んなことがあり過ぎて、興奮状態だったのかもしれない。
「まあ、眠くなったらサービスエリアで仮眠をとるよ」
昼メシ食ったら少しだけ寝よう。線香あげにきて自分が線香をあげられたなんてシャレにならないからな。
「で、この子はどうするんだい?」
母は品種改良BOXを指さして言った。
「もちろん連れて――」
「え? わたしは行きませんよ」
ところが品種改良BOXは、モッチャモッチャと食後のバナナを食べながら行かないとか抜かす。
え? コイツなに言ってるの?
持ち主についてこないメカとか聞いたこともないんだが。
「なんでだよ。お前だけここに残ってどうするんだよ」
「大丈夫です。わたしこれでも結構適応力があるんですよ」
イヤイヤイヤ。
誰もオメーの心配なんてしてねえよ。
「適応力とか関係ねえから。くだらねえこと言っていないで、それ食ったら出発するぞ」
あまり遅くなると道が混む。
ただでさえ疲れているのに、渋滞に巻き込まれるのは勘弁してもらいたい。
「それがですね、ついていくのはちょっと難しいんですよ」
しぶる品種改良BOX。
はあ? なに言ってんだコイツ。
ついていくのに難しいもクソもあるか。
「難しい? なんだよ、なにが難しいんだよ」
「お車で行かれるんですよね?」
質問に対して質問で返してきやがった。
なんだよメンドクサイやつだな。
「そうだよ。それがどうした」
「じつはですね。わたし乗り物酔いするんですよ」
ええ!!
ウソでしょ。
なんでメカが乗り物酔いするんだよ!
「ですので、ご一緒には行けません。たいへん申し訳ないのですが……」
俺のメカだよな。
俺が起動して、俺の命令だけを聞く、俺専用メカだよな。
「あ、好き嫌いはないんで、出されたものはなんでもいただきます」
食べ物か? 食べ物のことか?
コイツ、俺の実家に寄生するつもりマンマンじゃねえか。
ふざけやがって。
「いいから行くんだよ!」
そう言って品種改良BOXを引っ張るが、ビクともしない。
そういや、コイツめちゃくちゃ重いんだった。
「なんで抵抗するんだよ! お前は俺の命令聞くんじゃなかったのかよ?」
「いえ、自分の体に害が及ぶときは例外ですね」
「害つったって、たかが乗り物酔いじゃねえか」
「そうもいきません。わたしの動力源はエルドラ素粒子と言いまして、核のおよそ一億倍のエネルギーをもっています。暴走すれば、このあたり一帯消し飛びますよ」
物騒だな、オイ!
それに核の一億倍で、この性能かよ。
燃費悪すぎない?
けっきょく品種改良BOXはテコでも動かず、俺一人だけ東京に帰ることになった。




