5話 あれ? メカってこんなのだっけ?
「どうぞ私のことはお気になさらず、先に進んで下さい」
俺の後ろを、謎のメカがトコトコ付いてくる。
「この程度の傾斜なら問題なく歩けますので」
すこし悩んだけど、家に連れて帰ることにしたのだ。
「こう見えて私の趣味はウォーキングなんですよ」
母親にどう説明しようか。
最新型のお掃除ロボット……。
は、さすがにムリがあるか。
たとえ本物の掃除ロボットだとしても、なぜこのタイミングで山から持ってきたって話だしな。
あまりに不審すぎる。
「若いのに健康に気をつかってエライねぇ、なんてよく褒められましてね」
どうしたものか……。
振り返って謎のメカを見る。
箱の前面には、電光掲示板のように赤く光る顔が描かれている。
かなりシンプルな顔だ。なんていうのか、携帯の顔文字みたいな感じなのだ。
「お世辞だとしても、やっぱり嬉しいものなんですよ」
でも、意外に表情豊か。
赤い顔文字はさまざまな変化をみせる。
そして、その顔から直接両手両足が出ているわけだ。
ちょっとどころか、かなり変な形だ。
「そんなこと言われちゃあねえ。また明日も歩こうなんて、やる気になるじゃないですか」
宇宙人はいったい何がしたくて、こんな変なメカを作ったんだろうか。
「マスターさんは、何か趣味みたいなものはあるんですか?」
え? 趣味?
聞き流していたのに急に話をふられ、驚き半分メンドクサさ半分だ。
だってコイツ、聞いてもいないのにずっと一人で喋ってやがるんだ。
「あー、趣味ってほどじゃないけど、ネットで音楽を聞いたりするかなあ」
「へ~、いいですね。音楽は心を豊かにしてくれますからねぇ」
ほんとうに変なメカだ。
意外と高性能なのか?
「ちょっといい? お前さ、品種改良BOXって言っていたよな」
何ができるか聞いてみるか。
そういやタコ星人も、使い方は本人に聞けとか言っていたしな。
「ええ、そうです。品種改良BOX。これでも業界シェアNo1なんですよ」
ふ~ん、すごいのかどうかよくわからん。
シェアNo1て人気があるともとれるし、ただの量産型ともとれる。
「なにができんの?」
「そうですね、異なる品種の植物を簡単に掛け合わせることができます」
……それ、すごいの?
すごいかどうかは簡単の程度によるからなあ。
けど、どちらにしても俺には関係なさそうだ。
俺は研究者でもなければ農家でもないし。
「他になんかない?」
「他にですか?」
なんやかんや言っても、こんな会話ができるって、すごいテクノロジーだと思うんだよ。
他にも、あっと驚くような機能があってもおかしくない。
「そう、品種改良以外に」
「いえ、ないですね」
え!?
きっぱりと言い切りおった。
こいつマジでポンコツなの?
――いや、待て。
本当はスゴイ機能だけど、文明が進んだ者たちからみれば当たり前ってこともある。
決めつけはよくない。
しっかり検証していく必要がある。
「もしかして、空飛べたりする?」
歩けるのなら、空だって飛べるんじゃないか?
「いや、ムリですね。私はそういう風にはできてないんですよ」
飛べないのか。
あんなにテクノロジーが進んでいるのに。
「じゃあ、武器とかは? レーザーとか出たりしない?」
「ご冗談を。私は品種改良BOXですよ。そんなの出るはずがないじゃないですか」
マジかよ……。
言われてみれば確かにそうなんだけど、期待しちゃうじゃん。
なんたって宇宙人が残していったメカなんだから。
「いや、よく考えてみてよ。俺がやってもらって助かりそうな機能とか」
「う~ん……」
謎のメカは考え込んでしまった。
あれ? メカってこういうもんだっけ?
もっと素早く的確に答えてくれるものじゃないの?
「あ、そうだ。ご飯食べられますよ」
食べられるのかよ!
なんてムダな機能なんだ。
「じゃあ、計算は? 2167×77は?」
流石に計算ぐらいはできるよな。
これぐらいはすぐに答えられるよな。
「え? ……もう一回言ってもらっていいですか?」
聞き返してんじゃねえよ。
マジかコイツ。
しゃあねえ、もう一回だけな。
「2167×77」
「……」
ウソでしょ。まさか電卓以下なの?
「ヒントもらっていいですか? とりあえず最初の文字だけでも」
計算問題に最初の文字とかねえから!
ヤバイ。
コイツは正真正銘のポンコツだぞ。
タコ星人が気前よくくれるわけだ。
コイツ程度なら手放しても惜しくはないと思ったんだろう。
騙された!
最後に言っていた、大変だろうけど頑張ってくれってそういう意味だったのかよ!!
「ハア、なんてこったい」
がっかりしすぎて深いため息がでてしまう。
「あのなんか、ご期待にそえなくて申し訳ありません」
品種改良BOXは申し訳なさそうにうつむいていた。
「最初に言った、なんなりとお申し付けくださいってのはなんだったのよ」
「すみません……」
「俺じゃなくて、木に向かって話しかけるしさ」
「重ね重ね申し訳ありません。なにせワカメ星人を見るのは初めてでして……」
ワカメ言うな!
俺だって、こんなポンコツメカを見たのは初めてだよ。
そうこうしているうちに、明かりのついた実家が見えてくるのだった。