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42話 別視点――オペレーション、ショーグン

 地球での生活を始めたオキュリス221型だったが、起動してすぐに回路の異常に気がついた。

 うまく情報が伝達されないのである。

 張り巡らされた回路のいくつかがショートし、信号がそこで途絶えてしまうのだ。


 そもそも、オキュリス221型は一つの問いに対して、さまざまな解を持つように設計されていた。

 最適解、無難な解、一部正解を含んだ解、正解を含まない解、といった具合に。

 それら解から、最適解と致命的な失敗につながるものを除外し、残ったものからランダムで解が選択されるシステムだ。

 だが、その解のいくつかが、届かない。

 結果、選択される解は、より最適解から遠いものとなっていた。


 このバランスのズレは知育教育としては致命的だった。

 使用者(マスター)とともにさんざん試行錯誤したあげく、正解へとたどり着かない、そんな危険性があるからだ。

 

 しかし、どうやら今回の使用者(マスター)は成人した男性だ。

 品種改良としての機構にも問題はない。

 オキュリス221型は、多少の損傷があってもやっていけると思った。



 地球での生活は、、ゆったりとしたものだった。

 平和な環境、善良な使用者、暖かい住人たち。

 オキュリス221型の予想通り、回路の損傷は問題にならなかった。

 

 そして、新しい名前までもらえた。

 ショーグン。いい響きだった。


 オキュリス221型あらためショーグンは、やがて自身が知育教育として作られたことを忘れてしまう。

 それが環境によるものか、回路の破損によるものかは分からない。

 だが、幸せを感じていることは確かだった。


 そんなおり、ショーグンは、ある信号をキャッチした。

 テレビと呼ばれる情報伝達装置からである。


『危険が迫っている』


 その信号は、地球に住むベクタール星人に向けて発せられたものだった。

 ベクタール星人は観光目的で来る他の宇宙人と違い、地球へ溶け込んでいた。

 侵略ではない。ひっそりと、ただ、その地の住人になろうとした種族だった。

 その種族に、逃げるよううながす信号だったのだ。


 それをキャッチしたショーグンだったが、残念ながら危機の内容までは分らなかった。

 回路の損傷がそうさせたのだろう。

 

 だが、ただ事でないのは分かった。

 使用者を守るための緊急回路が開いたから。

 ムダに迂回する回路、親しみやすくするために付与された乗り物酔いという設定、膨大なデーターにアクセスするための権利。

 すべてが解放された。

 すぐさまデーターにアクセスするショーグン。迫りくる危険と、その対応策を見つけるためである。


 しかし、判明したのは事故による致命的な量のデーターの消失だ。

 科学知識も、物理演算能力も、緊急時に役立つ知識もすべて失っていた。

 すぐさま復旧にとりかかるショーグン。

 だが、返ってくるのは、回路の修復の不可、データーの修復の不可、知能の再構築の不可の信号だけである。

 

 これでは使用者(マスター)を守れない!

 なんとか打開策を見つけようと、ショーグンは情報収集につとめた。

 テレビの視聴だ。オフラインのショーグンにはこれ以外の方法はなかったのである。

 ――いや、実際にはあっただろうが、思いつくだけの知能を得られなかったのだ。


 それでも、断片的に情報を収集できた。

 シェルターの必要性、エネルギー貯蓄の必要性、食糧の確保の必要性、この三つだ。


 シェルターの建築。

 これにはすぐさま取り掛かれた。使用者をうまく誘導できたからである。

 次にエネルギーの備蓄。

 これもうまい具合に誘導できそうだった。


 だが、問題は食料の確保だ。

 すでに栽培した食料の大半は手放していた。

 自身の手で段ボールに詰めて郵送したのである。

 痛恨のミスだった。


 だが、すぐさま考え方を改めた。

 加工品でない食料など保存もきかない。いつまで、どの程度食料がいるかも分からない。

 これから必要になるかもしれない道具をそろえることを優先した。


 それに、食料に関しては何とかなるかもしれない目論見(もくろみ)もあった。

 自分は品種改良BOXだ。食料を効果的に生産できる能力なのだ。

 しかし、ここでも問題があった。

 植物データーの喪失だ。

 ショーグンには、全宇宙の植物の情報がインプットされていた。

 だが、それが、すべて消え失せていたのである。

 ショーグンことオキュリス221型の最大の特徴は、データーベースからの植物の生産である。

 ようはデーターベースに登録してさえいれば、それらを自由に交配、タネや苗として取り出せたのである。


 それからは、一からデーターを積み上げるべく植物の採取に努めた。

 だが、やっぱり、自身の足で移動できる範囲では、採取できる数はそれほど多くなかった。


 そんなとき、植物園なる施設を耳にした。地球に生息する多種多様な生物を集めた場所だ。

 しかも、そこへ使用者(マスター)が向かうというのだ。


 ショーグンは使用者に気づかれぬよう、車のトランクに潜り込んだ。

 最初、頭がつかえて扉が閉まらなかったが、変形させたらきれいに収まった。

 こうして、無事植物園と辿り着いたのである。


 ショーグンは植物園で片っ端から植物を取りこんだ。

 データーベースの構築である。

 途中、使用者の交配行動の一部に遭遇したが、軽く観察するにとどめた。

 自分にはしなければいけないことがいっぱいあったからだ。

 その甲斐あって、かなりの数の植物データーを登録できた。


 しかし、ここでちょっとした問題に直面した。

 今日すべき作業を、すっぱかしたのである。

 使用者(マスター)から命ぜられた仕事を無視し、植物採取に努めた。

 むろん、命令より優先すべきことだったからそうしたワケだが、命令違反を問い詰められるのは明白(めいはく)だったのである。


 いっそのこと、地球に危機が迫っていることを伝えようかと思った。

 だが、思いとどまった。

 どう伝えたらいいのかわからなかったのである。

 迫っている危機とはなんなのか、その対処法とはなんなのか、あやふやなまま相手に納得させるのは不可能に思えた。いまの自分の知能では。

 ひとまず危機の内容が分かるまでは伏せるべきだと考えた。それはこれまで通りだ。

 いたずらに心配させるだけでなく、自身に対する不信感を募らせやしないだろうかと考えた。

 自分の行動が制限されてしまっては元も子もない。危機が分かったころには手遅れだったなんて事態は絶対に避けねばならなかったのである。


 だから、車のトランクに忍び込んでいたことも知られるわけにはいかない。

 今日すべきことを、なぜ放置したのかと問われてはいけないのだ。


 ショーグンはどうすればいいか考えた。考えに考え抜いた結果、ミゾに挟まることにした。

 朝から挟まっていたならば、命ぜられた指示を行えないのは当然である。


 ショーグンは待った。使用者が自分を見つけてくれることを。

 一瞬、見つけられず、あるいは探しもせず放置されるのでは? との思いが頭を過ぎったが、すぐに打ち消した。

 使用者(マスター)なら、ちゃんと探してくれる。そして、かならず見つけてくれる。そう確信していた。


 ほどなくして、使用者は現れた。

 心配して探しに来てくれたのである。

 感謝した。だが、それを口に出すことはできない。怪しまれる。

 かわりに憎まれ口を叩くことにした。この方が自然だ。

 申し訳ない気持ちでいっぱいになった。秘密にしたうえ、騙すのである。

 が、憎まれ口は驚くほどすんなり出た。

 不思議である。


 その後もショーグンは精力的に活動した。

 他にもまだすることがある。

 周辺の地形の確認、避難所になりそうな建物とその構造把握もしなきゃならなかった。


 それからしばらく。ついに、訪れる危機が判明した。

 隕石が地球に衝突するとの信号をキャッチしたのである。


 よし、これで使用者(マスター)に話せる。

 ショーグンは喜びの声を上げた。


「オペレーション、ショーグン。コンプリート!!」

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