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30話 ステルスマーケット

 ショーグンがいない。

 チクショー、いつからだ?

 いつの間に逃げ出しやがった?


 アレか?

 俺が一心不乱にカマで刈っている時か。

 死角からどこかへ消えていたわけか。


 じゃあ俺は、ひとりでシリアルキラーごっこしてたのか?

 クククとか言っちゃって。


 ハズイ。

 とてつもなく恥ずかしいぞ。

 ショーグンめ、よくもやってくれたな。


「打ち首じゃあ!」


 カマを持ったまま家へと向かう。

 どうせテレビでも見てやがるんだろう。

 背後から忍び寄って、その首元にカマを突きつけてやろう。


 カラカラ。

 ところが、勝手口のトビラ開こうとしたら、それより先に勝手に開いた。

 そして、顔を見せたのはショーグンだ。


「あ、旦那様。ちょうどよかった。よろしかったら休憩しませんか?」


 ショーグンの手には透明の液体が入ったコップがある。

 外側には水滴。内側は細かい泡がいくつもついている。

 たぶんサイダーだ。

 よく冷えたサイダー。


「お、おう。そうだな。ちょっと疲れたしな」


 なんと、逃げ出したのではなかったのか!

 スマン、ショーグン。

 疑ってしまった俺を許してくれ。


「とりあえず一段落したし、家の中で飲むか」

「そうですね。ちょうどお母さまが、枝豆を湯がいて冷蔵庫で冷やしてくれていたハズです」


 いいね、冷えた枝豆。

 しかし、おまえよく知ってるな。

 食い物のことになると、抜群のセンサーが働いてるみたいだ。


 カマを棚の上に置くと、家の中へと入っていくのだった。



――――――



「うまいな、コレ」


 サイダーを飲みながらの枝豆は格別である。


「ええ、美味しいです」


 豆は丹波の黒枝豆だ。

 ホロホロとした食感が炭酸によく合う。


「え~、続いては最新の流行をお伝えするコーナーです」


 テレビの音が耳に入る。

 電源を入れたのはショーグンだ。

 ほんと、お前テレビ好きだね。


「スタジオのトクさ~ん。なんと、いまセレブの間では、自宅に地下室を作るのが流行っているんですよ」


 見ているのはワイドショーだ。

 ショーグンは時代劇だけでなく、こうした情報番組をよく見ている。

 カルチャーに興味あんのか?

 それとも情報をインプットしてんのか?


 いずれにしても、テレビってところがショーグンらしい。

 ふつう情報収集ならインターネットを使うだろうに。


「へ~、地下室でビリヤードでもするんですかねー?」

「トクさん。それはもう古いですよ。今のトレンドはシェルターです」


「シェルター? シェルターって震災やら戦争やらから身を守るための、あのシェルター?」

「そうです。そのシェルターを地下室に設置するのがセレブの間で流行ってるんですよ」


「へ~、自分たちだけ助かろうと?」

「トクさん! 金持ちを敵視するのはやめて下さい」


 スタジオと中継とのやり取りだ。

 このトクさんて個性的な司会者だな。

 これでよくクレームこないな。


「敵視はしてないよ。ただ、お金に余裕があると、つぎは健康が欲しくなるんだなあと思って」

「いや、そうなんですけど、言い方をもうちょっと考えてくださいよ。いま、けっこう音楽やらなんやら趣味を大事にする人が増えてるじゃないですか。歌を歌おうが、演奏しようが、地下室だったら音が漏れにくい。だったらもうシェルターにしてしまって、防音機能と防災機能を兼ね備えた方がいいじゃないですか。決して自分だけ助かろうとか、そういう気持ちじゃ――」


「いったんCM入りま~す!」

「ちょっと、トクさん!!」


 無情にも中継は打ち切られ、すぐにCMが流れ出す。

 すげ~なトクさん。

 よくこんな毒舌でやっていけるな。


 などと考えていると、CMが耳に入った。


「フミ屋のアイスバー。スッキリ爽快、チョコミント味!」

「これからは、一家に一台シェルターの時代! プライベートを確保しつつ、防災意識も高めよう!!」


 ……あれ? いまアイスのCMに紛れてシェルターのCM流れてなかった?

 CMだと聞き流してたものの、シェルターの単語で一気に気持ちが引きもどされた。


 これは案件じゃね?

 シェルターを作ってる企業がスポンサーだから、番組で宣伝してるんじゃねえの?

 じゃあ、さっきの全部台本てこと?

 なるほど。それじゃあ、ちょっとぐらいクレーム来ても大丈夫なわけだ。

 世の中いろんなところで繋がってるんだなぁ。

 気にしなければスルーしちゃうけど、注意深く見れば痕跡はあるもんなんだな。

 でもまあ、さすがにこれはあからさま過ぎる。

 こんなステマに引っかかるやついるのだろうか?


「旦那様」

「ん? どした?」


 急に語りかけてきたのはショーグンだ。


「うちは地下室作らないんですか?」

「え!? 地下室?」 


 なにを言い出すんだこいつは。


「そう地下室です」

「作らねえよ。なんでうちに地下室がいるんだよ」


「これからの時代、地下室がトレンドだと思うんですよね。日頃の防災意識が命を守るんですよ」


 いた! ステマに引っかかったやつがここに!!

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