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成長を実感する魔法使い

「おはよう」


「おはようございます」


 服を着替え、朝食の為に降りていくと、ウォータールーさんにそう声をかけられて、僕も挨拶を返す。


 サニーちゃんも既に席についており、


「おはよ」


 と気軽に挨拶されたので、


「おはよう」


 と返した。朝食は、パンの種類が違うのを除けば、昨日と同じだ。


 僕はお二人と共に食事と会話をしつつ、ふと、今日はどこまで出来るだろうかと考えた。せめて軽く転がせる程度に出来ればいいんだけどな。


 ──僕は外に出て、未だ眠気の取れない身体をストレッチでほぐす。そして、両腕を後ろに回しつつ昨日と同じ場所に立って、鉄球と向かい合う。


 鉄球は決して変わらぬ様子でそこに置かれたままだった。


 ……やっぱり異質感が凄い。全然周りになじんだ感じがしない。昨日一日中見たはずなのに、全然見慣れた感じがしない。


 しっかり気を取り直して、まず軽い風を起こしてみる……うん。問題はなさそうだ。手を開け閉め開け閉め繰り返し、僕は風を鉄球の方に吹かせる。


 キラキラの様子から、自分の思ったのに近い形で風が起きているのを確認する。少しまだ横にはみ出してるという感じだろうか。


 鉄球の周囲の草も、僕の風の吹いている方になびいている。よし。今日はせめて動かすだけでも……そう思って、僕は自分の所に向けて、風を斜め上、鉄球を僕の方へ吹き飛ばす勢いで風を起こした。


 次の瞬間、鉄球がとんでもない勢いで僕の方に飛んできた。


「……えっ?」


 一瞬、何が起きたか理解できなかった僕がようやく事態を把握したのは、既に目の前まで鉄球が落ちてきているのを見た瞬間だった。


「うわぁっ!!」


 僕は思わず両手を真っ直ぐそこに向かって突き出して風を起こした。すると、今度は起きた風によって、鉄球は反対方向に飛んで行った。


 鉄球はそのまま、飛んできた時と同じような弧を描いて地面に落ちる。転がるかと思ったけど、重みで地面に僅かながらのめり込んで、落ちた場所からほとんど動かなかった。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 気が付くと、もう既に走り込み参集はしたみたいな勢いで汗をかいている。とはいえ、内心かなり肝を冷やしていた。


 ……え? 何が起きたの? 風を勢いよく起こした瞬間、鉄球がそれに負けぬくらいの勢いで僕の方に飛んできた。


 あまりに突然な出来事に、僕はただただ混乱するばかりだった。そんな時、


「なんだ。もう出来たのか」


 振り返った僕は、家から出てきたウォータールーさんの姿を認めた。


「今日中には出来ると思ったが……まさか、朝っぱらから出来るようになるとは思わなかったな」


 ウォータールーさんは、起きて当然と言えそうな調子でそんな感想を漏らした。


「あ、あの……」


「ん?」


 そんなウォータールーさんに、僕は声をかけた。まだ内心のドキドキが治まらず、戸惑っているような調子になった。


「い、今のは、やっぱり僕が……?」


「もちろんだよ」ウォータールーさんは軽く笑いながら、「まあ今日出来るとしても昼過ぎ……夕方になるくらいかなと思ってたんだがな」


 ウォータールーさんは淡々とそう言った。


「メードレ」


「! は、はい!」


「とりあえず今度は冷静になって鉄球を浮かしてみろ」


「はい。分かりました」


 僕は、元の場所からそこそこずれた鉄球の方を見た。風を起こした時の感覚は覚えてる。正直、心がけは昨日と変わらない。僕は両手を前に出して、風を起こす準備をする。


「……」


 う~。少し怖い。浮かび上がるどころか空に浮いたと思うとそのまま僕の方に一気に飛んできたことを思い出す。


 いや、僕がしっかり調整してなかったからだけど。


 とりあえず僕は、今度は勢いよく僕の方に風を起こすのではなく、鉄球を宙に浮かせる感じで風を起こすことにした。


 結構な勢いの風を起こし、鉄球を宙に浮かすことが出来た。


「……おっととと」


 僕は何とか風を起こして、鉄球を浮遊させたままにしようとした。そして、安定したと判断した僕は、その鉄球をまた僕のいる側に移動しようとした。


 これがまたなかなか難しい。


 僕は鉄球を浮かせる風を、丁度真上に持ち上がるよう真っ直ぐ噴き上げるイメージで起こしていた。これは、動かぬままでいれば出来ない事ではなかった。


 それが、例えば風をこちら側に吹かせて鉄球を運ぼうとすると、こちら側に吹かせる風が千夜過ぎて、鉄球が思った以上にこちら側に来て落ちそうになる。


 慌てそうになるのを何とか抑えて思わず息を止めつつ、今度は鉄球を押すような形で風を起こす。する今度は、逆方向に落ちそうになってしまう。


 とにかく、バランスを取ることが難しくて仕方がなかった。真っ直ぐ上に突き立てた人差し指の上にボールを乗せて落ちないようにしてる感じだ。


 これ、キラキラがあるから分かったんだけど、無かったらこの特訓はもっと難しかっただろうな……


 ……結果的に、僕はそのまま鉄球を地面に落としてしまった。バランス調整したまま自分の方に持ってくることが、予想以上にきつかった。


 ウォータールーさんは笑いながら、


「せっかく浮かせてここまで飛ばすことは出来たんだ。今度は上手く浮かせ続けることだな」


「はい……本当に……」


 魔力に加え、バランス調整で神経も使って結構披露している。昨日と比べて体のだるさがなかったのに、今日の方がつらいかも。


 ウォータールーさんが指を鳴らしてマジグインをその手に出現させつつ、僕の方に近付いてきて、


「とりあえず飲んでおけ」


 そう言われて渡されたのを、一気に飲み干した。……勢いでなんとかなる苦さではなかった。苦みの為に舌を出して苦しんでいるのを笑ってみているウォータールーさんは、


「じゃあ頑張れよ」


「は、はい……頑張ります……」


 だんだん落ち着いてきてそう返事をすると、ウォータールーさんは家の方に戻っていった。僕の手からも、薬の瓶が消えた。


 薬を飲んだ後の感じを少しでも和らげるため、一度大きく息を吸って、そしてゆっくり吐いていく。


 真っ直ぐ目を向け、改めて鉄球のある方向を見つめる。それは、先ほど東亜違う位置にある。あの場まで、完璧でないとはいえ、僕が動かしたのだ。


 一人になって、そんなことを考えられるようになったためか、急に嬉しさがこみあげてくる。


 昨日までまるで動かせず、今日になっても出来るかどうか不安だった中での事だ。大きく喜びを表したいけど、目標には到達していない。


「……~~~~~~~~よし!!」


 両方の掌を力強く握り、身体を少し屈めた後、喜びを気合に変えて僕は叫んだ。そして改めて特訓に取り組んだ。


 ウォータールーさんの言った通り、もし上手くいけば、三日までに鉄球を所定の位置まで移動できるかもしれないという希望で、気持ちも身体もはやった。

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