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特訓だらけの1日を終える魔法使い

「──僕の訓練記録ですか?」


「あぁ」


 昼食の時、僕はウォータールーさんから、訓練を記録したいと相談された。僕とサニーちゃんが隣り合わせ、向かい側にウォータールーさんが座っている。


 目玉焼きとサラダとサンドイッチだ。


「いくつかの機関で、ポテンシャルの開花していく君がどうなっていくかを確認しておきたいそうでね」ウォータールーさんは言った。「俺としても、出来ることなら記録しておきたいしね」


 そう言って、ウォータールーさんはスープに少し付けたパンを口に含んだ。


 いや~、記録か~。今までそんな提案されたことなかったな。なんだか少し気恥しい物を感じる。でも、


「分かりました。僕は全然大丈夫ですよ」


「ああ、ありがとう」


「何か僕もレポートとか書きますか?」


「いや、そこまでは必要ない。適当に時間を見つけて軽く色々聞かせてもらえれば……」ウォータールーさんは少し考えて、「あ~。まぁもし書く余裕がありそうなら、軽いものでも書いてくれるとありがたい」


「分かりました」


 僕がそう答えると、


「そんなにメードレの事が気になるなら、初めからお爺ちゃんのとこにやれば良かったのに」


 サニーちゃんは、ウォータールーさんからコショウを受け取って目玉焼きに軽く振りながら言った。


「お偉いさんは気紛れなのさ」


 ウォータールーさんはサンドイッチを食べて言った。


「お爺ちゃんは何でメードレを呼んで訓練とかしてあげなかったの」


「気紛れだからだ」


「うざ」


 ウォータールーさんが笑い飛ばす。サニーちゃん、凄くストレートに言うじゃん……


「俺は少なくとも、あの森を抜けない事には、だれであろうと指導に当たろうと思わなかったからな」ウォータールーさんは真面目に答えた。「それに、ポテンシャルが百であるからと言ってあの森を必ず抜けられるわけじゃない。多分勇者組合や学校側もそのことを分かっていたから、俺の所にやらなかったんだろう」


「組合や学校の人達がポテンシャル百の人間の才能を開花させて、自分達に箔をつけたかったからって可能性は?」


「……」


 な、なんだかサニーちゃん、結構シビアな見方をするな……


「我が孫よ」ウォータールーさんが言った。「あえてその見解は否定しないが、もう少しこう……穏和な見解をだな……」


「? 箔を付けるって、別に悪いことじゃなくない?」サニーちゃんはあっさり言った。「お爺ちゃん言ってたじゃん。野心は大事だって」


 サニーちゃんはそう言って、潰した黄身のかかった白身をフォークで切り取って口に運んだ。


 ──昼食後、特訓までもう少しだけ余裕のあった僕は、椅子に座ってだらーんとしていた。


「メードレ」


 ウォータールーさんの方を見ると、ウォータールーさんは僕の方に何かを投げてきた。受け取って見ると、何かの薬瓶みたいだ。


「魔力回復用の薬、『マジグイン』だ」ウォータールーさんは言った。「飲んでみてくれ。自家製だ」


「はい。ありがとうございます」


僕はそう感謝して瓶を開けてマジグインを一気に飲んだ。


「……!!!」


 思わず吹き出しそうになるのを何とか堪えた。なんだこの味!!? 色んな薬草をごた混ぜにして、その味を更に数倍国したみたいな味わいだった。


「最高に苦いだろう。これでも結構ましになってるんだ。最初はまるで飲めもしなかったからな」ウォータールーさんはからから笑いながら、「でも、効力は折り紙付きだ。さっきに比べ、魔力が溢れているんじゃないか」


 苦味による苦しさのせいで聞き逃しそうになるのを何とか聞きつつ、僕は自分の事を意識してみる。

 ……確かに、魔力は回復してる気がする。さっきよりも調子が良い。調子のよくなっていくのと、口の中にがっつり張り付いているかのような苦みの為に、心が色々凄いことになってる。


「まぁ今も改良中でな。しばらくはそれで我慢してくれ。一応、少しずつ美味くはなっているから」


「は、はい……」


 僕は何とかギリギリ、答えることが出来た。


……………


 昼食後も特訓に打ち込んだ。風の魔法で鉄球を動かそうとしたり走ったり、そこに加えて筋トレなんかもやった。


 特訓は夕方まで、最後はメインとなる風の魔法による特訓だった。今日の終わりぐらいまでは……と思ったものの、結局ほとんど動かすことも出来なかった。


 ただ、クエストの事も気にせず、一心不乱にこうやって特訓に打ち込むのは気持ちが良かった。


 学生の頃も同じようなことをしていたけど、今ほど楽しんでは無かった気もする。たぶん学生の頃は、特訓の必要性がいまいち見いだせないままやってたからかもしれない。


 今だと、勇者での様々な活動を経て、「もっとこうだったら」「もっとこうしたい」みたいなのが増えたからかもしれない。もちろん、それ以外のも理由はあると思うけど。


「お疲れさん。じゃ、これを一杯」


 そう言って出されたのは、昼に飲んだ魔力回復用の薬『マジグイン』だった。嫌というより「うわ! 出た!」って感じだったけど、味は分かりきっているし、効力は絶大だ。


「ありがとうございます」


 疲れてへなへなした調子でそう言いながら、僕はそれを受け取って口の中に含んだ。一瞬「ウッ」って感じになるけど、覚悟してたのと、なんだかんだ疲れていたのもあって、一気に飲み干せた。


 実際最初飲んだ時とは違い、口に広がる苦さより、魔力の回復していくのを感じた。


 ──ウォータールーさんの手作りの夕食を終え、風呂にも入ってゆっくりした。寝間着に着替えて、あとは寝るだけってなった時、


「よし。メードレ」


 僕は、コップを持ったウォータールーさんに呼び止められた。


「寝る前に一つ、やってもらいたいことがある」ウォータールーさんはコップを机に置いて、「内容は簡単だ。風をこのコップと同じ形にするんだ」


「コップを……ですか?」


「そうだ」ウォータールーさんは言った。「今日の特訓で分かったことだと思うが、風の……というかまぁ、魔法自体そうだが、より精密に、性格に操作をするのが難しいだろ? そこで、見知った物の形を、風の魔法で模してみるんだ」


「風を……」


 僕は、とりあえず机上のコップを手に取って、持ち手や底を見たりした後、また元の位置に戻す。

 そして、右掌でまず小さな風を起こして、次に左手を添えて、言われた通りやってみた。


「……」


 起こる小さな風が僕の手の中で揺らめいて、萎んで盛り上がってを繰り返すのが、キラキラのおかげで鮮明に見えた。


 そうして少しだけ試した結果……自分でもゾッとするくらい、それが難しいことが分かった。


「今日の特訓で、思いの他風が広い範囲に広がるのを見て確認しただろうが」ウォータールーさんが言った。「魔法の細かな操作というのはかなり難しい。だから、こういう地味で下らぬ様に見える特訓こそ、実はかなり重宝なものなんだ。まして風だ。炎で何かを燃やしたり水で何かを濡らすことに比べれば、損害も小さい。せっかくだから、部屋に戻った後に試してみると良い。そのコップは、持って行ってくれて構わない」


「分かりました」


 僕は頷いて、コップを持って部屋に戻ろうとすると、


「特訓の一環だが、昼のと違って飽くまで任意だ」ウォータールーさんは言った。「正直、少し経ってやらせようと思った奴でもあるからな。今やってる鉄球のとっくんがおわる時までにうまく使える様になっていればいいという感じだ」


「分かりました」


 そう返事をして、僕はさっそく特訓を行った。最初は軽く数分程、と思ってたんだけど、思わず夢中になって続けてしまった。


 ただでさえいつも以上に疲れた感じがあって、特訓もしていたのに、その事を忘れていた。そのせいもあってか、ある瞬間からふと目の前が暗くなったかと思うと、次の瞬間には、部屋の明るくなっているのに気が付いた。


 寝落ちしてしまった。


 最初は何が起きたのか把握できずに周りをキョロキョロ見まわし、やがて思考がはっきりしてきた。そう言えば、特訓してる途中だったような……


 そう思いだした瞬間、寝る前まで使っていたコップが無くて焦り、慌ててベッドの下を見た。コップは何事もなくそこに落ちているのを見てほっとした。

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