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伝説と話し合う魔法使い

 帰ってすぐ、ウォータールーさんは即座に本題には入らなかった。手を洗うよう言われて洗面台に行って部屋に戻ると、台所で飲み物とお菓子の用意しているのが目に入った。


「手伝いますか?」


「いや、大丈夫だよ。拘りもあるんでね」


 ──準備はすぐに終わった。今度出されたのは紅茶と、先ほどとはまた違う種類のビスケットだった。


 ……よく見ると、紅茶も少し違うかな? 色がさっきのより濃い。


 それぞれサニーちゃん、僕、そしてウォータールーさんの席の前に置かれ、


「このビスケットはこうやって食べると美味いんだ」


 ウォータールーさんがそう言って、ビスケットをコーヒーに軽く浸し、その部分を口に含んだ。


 最初の時は少し緊張して意識しなかったけど、ウォータールーさんのそういう所作には、どこか気品というか、礼儀正しさというか、なんだか高級感溢れる感じがあった。


 サニーちゃんの方を見ると、彼女はビスケットと紅茶は別々に飲食していた。


「私も時々するけど、やっぱり分けて食べたほうが好きかな?」


 僕に視線を向けられてか、尋ねる前にそんな答えが返ってきた。


 僕はとりあえずウォータールーさんの真似をして食べてみた。ビスケットを紅茶に軽く浸し、そこを口に含む……うん。確かに美味しい。


紅茶に濡れて少し湿ってほどよく柔らかくなったビスケットの歯ごたえも良いし、ビスケットのしっとりとした味と紅茶の丸やかな味わいの組み合わさったような味も気持ち良かった。


「気に入ったかい?」


 ウォータールーさんにそう聞かれた。彼の方を見ると、既に僕の内心を見透かしたような微笑みを浮かべていた。


 これが、大人の余裕という奴だろうか。


「はい。美味しいです」


「そうか。それは良かった」ウォータールーさんは紅茶を少し啜って、「では、このまま本題に入ろう。こんな場でこんな状況だ。気軽に聞いてくれ」


「は、はい」


 気軽に、とは言われたけど、やっぱり緊張する。


「さっきも言ったと思うが、俺の予想以上にはやれるようだな。魔力としてはだいたい……六十ぐらいじゃないか?」


「……そうです」


 僕は驚きながら言った。ウォータールーさんは笑いながら、


「長い間勇者やってたら、おおよそ数値の予測ぐらいは出来るようになるさ」


 ウォータールーさんはまた紅茶を啜って、


「まぁ一応言っておくが、もちろんあれでドラゴンを倒せるほどではない。はっきり言っておくが、本来であればほんの数分程で決着がつくはずの戦いだ。すなわち、ドラゴン側の勝利だ。アナベラには始めから手加減するように言っていた。一応頭を使ってアナベラを倒すことは出来たが、少なくとも、そのまま勝ちに持ち越せるという実感はなかっただろ?」


「……」


 僕は自分の両手を見る。僕の魔法が、ドラゴン──アナベラさんに通じないことは無いとは分かった。


 ただ、とても倒したりどうしたりという息でないのは分かった。僕は拳を握り、ウォータールーさんの方を見て、


「はい」


 僕の反応を見て、ウォータールーさんは少し笑って、


「まぁそう真剣に、硬く受け取るな。ビスケット食いながら聞いてくれても構わない。さっきから食べてないじゃないか」


「食べた方が良いよ」サニーちゃんが口を開いた。「紅茶も冷めちゃうし。メードレは真面目すぎんだよ」


 サニーちゃんはビスケットをかじる。


 二人にそう言われて、なんだか気持ちがすっと軽くなったような気がしなくもなくなった僕は、言われた通りまた紅茶に浸したビスケットをかじった。


「とりあえず、自分の実力のどれほどのものかをしっかり受け止められるのなら、問題ない。伸びしろはそこにかかっているからな」


 そう言った後、ウォータールーさんは机の上を、何かを探すように見回した後、


「うむ」


 と小さく唸って、指を鳴らした。


 目的の物……タブーレが宙を浮いて、ウォータールーさんの手の中に収まった。ウォータールーさんはそれを僕の方に向けて、能力値を見せてくれる。


「……なるほど」ウォータールーさんはタブーレを僕の方に見せて、「数値はこんな感じだ」


 確認すると、攻撃力四十五、防御力五十、スピード五十三、耐久力三十、魔力六十、ポテンシャル百。僕が最後に計った時とそんなに変わらない。


「本当に百なんだね」一緒に見ていたサニーちゃんが言った。「耐久力ヤバ。低すぎ」


「うぐ……」


 気にしてるところを言われた。


「ハハハ。魔力でカバーできるというのもあるんだろうがな」ウォータールーさんは自分の方にタブーレの画面を向けて。「ただまぁ、丈夫な身体にするのは大事だな」


 ウォータールーさんはタブーレを机の上に置いた。


「ちなみに、メードレは風の魔法が得意なのか?」


「はい。そうです」


「例えば、本当は炎だったり水だったりを使いたかったってことは無いか?」


「そうですね……」僕は考えて、「もちろん、色んな魔法を使えればとは思ってます。ただ、自分はやっぱり風の魔法を優先的に使いたいですね。僕の目的……勇者としてどうしていきたいかって考えると、風が一番ですね」


「変な質問だが、風の魔法は好きか?」


「好き……そうですね。好きって言っても良いかもしれないですね」


 風は気持ちが良いし。


「なら良し」ウォータールーさんは満足したように、「自分が使いたい魔法と得意な魔法が一致しないという者は多い。そのためにモチベーションがいまいち持てずに苦労することもあるんだが。まぁメードレに関しては問題なさそうだな」


 ウォータールーさんの音場を聞いて、僕はほっとした。


「とりあえず今日はこれでお終いだ」ウォータールーさんは言った。「訓練は明日から行わせてもらう。今日はもうゆっくり休むと良い」


「はい。分かりました……あ」僕は思い出した様に、「僕、フェルシーという町の宿に荷物を置いてるんです。それを取りに行っても良いですか?」


「あぁ、そうだな」ウォータールーさんは言った。「ちなみに、荷物は多いか?」


「一応一人で持ち運べる程度です」


「分かった。なら……」


 ウォータールーさんはポケットから何かを取り出し、僕の方に差し出した。受け取ってそれを見ると、胡桃に似た道具だった。


「『ドルゴック』という物だ。どんな場所にいても、それを握り潰せば特定の場所に変えることが出来る。荷物を纏めたら、魔力を籠めてこれを握りつぶしなさい。目的の場所……今回なら君の部屋にそのまま辿り着くから。ちなみに魔力を籠めないとどれほど力を籠めても潰せない仕様になっている。うっかり潰してもいけないからね」


「分かりました」


 僕はドルゴックをしまった。すると、ウォータールーさんは右手を手の甲を上向けて僕に僕の方に向ける。


「じゃ、行ってきなさい」


 そのまま、その手が光ったかと思うと、僕はいつの間にか宿の前にいた。ウォータールーさんの力でワープさせてもらえたのだ。

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