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ドラゴンと会話をする魔法使い

 僕と目が合ったウォータールーさんだったけど、しばらく何も言わなかった。その顔を見る限り、僕に不満があるようには見えない。


 な、何を言われるんだろう……そう思っていると、


「どんな気分かな?」ウォータールーさんが口を開いた。「ドラゴンを翻弄するってのは」


「……」そう問われた僕は、一瞬答えあぐねたけど、「う、嬉しいです……」


 とりあえず、嘘偽りない答えを返した。ウォータールーさんは笑って、


「俺としてもびっくりしたよ。予想以上だった」


 二度三度と、僕の肩を叩きながら、ガハハという感じでウォータールーさんは言った。


「あ、あの、ドラゴンは……」


 その時、僕は思い出した様にウォータールーさんに尋ねた。


「ああ。もう大丈夫さ」ウォータールーさんは視線を上げて、「どうだ、サニー。元気そうか?」


 僕は振り返って、ドラゴンのいる方を向いた。その巨体の前に、手を後ろに組んでちょこんと立っていたサニーちゃんが振り返って、


「大丈夫だって~」


 と、僕達の方に答えた。


 あ、あんなところにいたら……


「サニーちゃん! 危ないよ!」


 僕は焦って、思わずそう声を上げて言った。


 でも、サニーちゃんは平然とした様子で何も答えず、代わりに肩を竦めた。そして、ドラゴンの方を見上げると、


「危ないんだって」


 そう声をかけていた。


 すると、ドラゴンが右手を彼女の方に降ろし出した。


「!」


 焦った僕だったけど、その手はサニーちゃんの隣にそっと置かれ、彼女も何のためらいもなくそこに乗った。ドラゴンは手を上げて身体を真っ直ぐ立ち上がらせる。


 ドラゴンが掌に少女を乗せたまま近付いて来るのを、僕は茫然と見ていた。そして、僕ら二人の前まで来た時、思わずたじろいでしまった。な、なんだろう、この状況……


 ドラゴンはゆっくり右手を下ろし、サニーちゃんはそこから飛び降りた。そして僕に近付いて来ると、


「危険なんだ」


 また肩を竦めた。


「どうだった? 『アナベラ』」


「まぁ悪くはないんじゃないか? まさか倒されるとは思わなかった」


「!!?」


 突然知らない女性の声が聞こえてきて、僕は思わず声のした方……つまりドラゴンの方を見た。ドラゴンもまた、僕の方を見下ろしていた。心なしか、笑っているようにも見えなくはない


「うぉ、ウォータールーさん!!」僕はウォータールーさんの方を見ると、「あの、今このドラゴン、

声を発しませんでしたか!? というかアナベラって呼びませんでしたか!?」


「ほぉ? ドラゴンが人語を離すのはおかしいか?」


「え?」


 ドラゴンは生物の中でも特に頭の良い生き物なのは知っている。でも、まさか人の言葉が話せる程なのか?


「えっと……ドラゴンは人の言葉を話せるんですか?」


「いいや?」


 ウォータールーさんは飄々と、前言をひっくり返すようなことを言った。


 えっ!? どういう事だ!!? そんな僕の困惑を見て可笑しそうにしながら、


「ちゃんと説明してあげたら?」


 サニーちゃんがウォータールーさんにそうツッコんだ。ウォータールーさんも笑っていて、


「いや、このドラゴン……アナベラは、俺が魔法で人語を使えるようにしたのさ」


「ま、魔法でですか? そんなことできるんですか?」


 そんな魔法、聞いたことがない。


「魔法にはまだ様々な可能性があるからな」ウォータールーさんは答えた。「まぁ、と言ってもまだ利用するには高度な技術がいるから、学校で使ったり勇者として利用するのはまだまだ先の事になるだろうがな」


「……」


 僕はウォータールーさんの言葉を聞いて、何も答えることも出来なかった。僕はまたドラゴンを見上げた。


 色々聞きたいことがあるんだけど、上手く言葉に出来ない。そんな中で思いついた質問が、


「じょ、女性なんですか? 声が女の人っぽい感じでしたけど」


「そうだな……だな、アナベラ」


「いちいち確認すんのか」


 ドラゴン……アナベラさん? は、なんだか呆れた様に苦笑しているような反応を示しつつそう言うと、僕の方を見た。


「とりあえず人間。名乗りな」


「え、は、はい。メードレです。メードレ・エッグです」


「メードレ。メードレ……」アナベラさんは、僕の名前を覚えようとするように繰り返した後、「一応名乗ろう。アナベラだ。よろしく」


「お、お願いします」


 僕はアナベラさんに頭を下げた。


「……ウォータールー」


「ん?」


「こいつはあんたと違って、礼儀正しそうだな」


「ははは。違いない」


 アナベラさんの皮肉っぽい言葉に、ウォータールーさんは気楽に笑って返していた。こんなやり取りにお二方の、それなりに時を経た仲の良さを感じさせた。


 その時ふと気がなることが生まれた。


「……あ、あの」


「ん?」


 僕はアナベラさんに声をかけた。


「あの……大丈夫ですか? その、口の中……炎を吹き損ねた時の事です……」


 アナベラさんが炎を吹く瞬間に、僕はアナベラさんの閉じた口を凍らせた時の事だ。


「……ああ」アナベラさんは思い出した様に、「心配してくれんのかい。自分の技だよ、気にしなくて良い。そもそも、マジでもなかったしね。ま、驚いたのは間違いないけど」


 確かにアナベラさん、凄く平然としている。


「じゃあアナベラ。戻るよ。邪魔したな」


「あぁまたな。何か面白い話があったらいつでも持ってきな」


 そう言うと、アナベラさんは背中を向けて、そのまま翼を一振り、宙に浮かんで、元来た穴の方へと戻っていった。それを見送った後、


「……それじゃ、俺達も行こう」


 ウォータールーさんはその場で瞬間移動の魔法を使って、元の家に戻った。

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