理想郷
その夜、私は帰宅していつも通りの日常を過ごして、ベッドに潜った。数分経たずに眠りに入っただろう。それから間もなく、辺りの景色は緑色の草原へと変わる。大きな木が後ろに1本立っているのが印象的だ。
『え?ここどこ?夢?』
『お嬢ちゃんまた会いましたリスね』
『あ、あれ?』
『自己紹介がまだだったリスね。僕は栗林リスお。リスの中のリスリス。』
名前はわかってるんだけどな〜と思いつつ返事をする。
『あ、うん。私は栗野慧姫。放課後は助けてくれてありがとう。』
『どういたしましてリス』
『えへへ』
『どうしたリス?』
『さっきは栗林くんにちゃんとお礼言えなかったから。お礼言えたのが嬉しくて。』
私は少し顔を赤くして恥じらうように照れる。
栗林くんは笑顔で私の手を握った。
『え?どうしたの?』
『おいでリス!』
そこからのリスおくんはリスのようなすばしっこさだった。草原を駆け回るように私の手を優しく握りしめたまま、離さない。私はあわわと声を出しながらはしゃいでいる。こんなに楽しいことすることなんて高校生になってから全く無かったの。私は思い出したかのように走りながらこの状況を訊ねる。
『そ、そうだ。リスおくん。ここって夢の中なのかな?』
『夢じゃないよ。こっちを見てリス。』
『まさかここって!』
『うん。僕の理想郷リス!』
理想郷?まさか異世界ってこと?ありえない。でも、リスおくんは現に存在するし、手の感触も感じる。夢じゃないってことだけは肌で感じるわ。突然、リスおくんが私を抱きしめる。
『きゃっ!?』
『動かないで。背中に兎さんがついているリス。慧姫ちゃんの背中に乗るなんて幸せ兎リスね。』
栗林くんはわたしの背中から兎を取ってくれた。これはとても白いうさぎね。珍しい。
『栗林くんありがとう。』
『苗字じゃなくて名前で呼んで欲しいリス。』
『う、うん。良いのかな?』
『僕が良いって許可するリス。』
『りりりりりりリスおくん!』
『よく言えました。』
早口で吃った私をリスおくんはまた優しく抱擁してくれた。かなり近い。唇さえも触れ合いそうな勢い。リスおくんって結構Sなのかな?もどかしいような至近距離。この時間が一生続けば良いのになと思えた。
これが私のリスおくんとの理想郷での出会い。