000 夢から始まる物語
更新する気はめっちゃあります
まだタイトル、サブタイトルは仮です
風が吹く。
彼には馴染みのない景色が眼前に広がった。
彼は崖の先端に居た。
草原と森林が広がる大地。
街がここから見える。
中世風の街の中央には、真っ白に輝く城が聳え立っている。
その奥には、
黒と白の二つの山が、
天にも届く灰色の塔が、
樹が生い茂り遮蔽され中の見えない樹海が、
そこにある。
彼はここに見覚えはなかったし、なによりどうやってここに来たかすら覚えていない。
ついさっきまでバスの中に居た事だけは覚えている。
思い切り楽しんだ修学旅行の帰り道、疲れて眠ったのか。
そう考えるとここは夢の中だ。彼はそう安直に考えるが、実際そうだろう。
こんな地球上にも存在しないような景色、現実にある訳がない。
そう考え勢いよく頬をつねる。痛くなかった。感覚がぼやけている。
彼、霞上 晴はただの男子高校生だ。別に目立つような風貌でもなければ影が薄すぎるわけでもない、常にクラスのピラミッドの真ん中にいるような存在だ。正直目立っていたのは名前だけ。そのことを自覚しているからこそ劣等感を抱いていたし、自分はこの景色に釣り合わないと思った。ここに学校の女神とかがいたら絵になるんだろうな、なんて思考をずらす。
「――ねえ」
背後から急に肩を叩かれ声を掛けられれば驚くのは当然だろう。
咄嗟に体をターンさせ一歩退く。
そこには美少女が居た。
こちらに無邪気な笑顔を向ける彼女はどこか愛らしかった。
驚かされた恨みはそこで消え去ってしまった。
身長は百五十センチほどで、僕と頭一つくらい違う。プラチナブロンドの髪が首元まで伸びている。まるでファンタジーの世界に出てくるような服装で、防具に剣の刺繍が施されているのが印象的だ。風で揺れるスカートが彼女の可憐さを引き立たせていた。子供のような純粋さと大人びた上品さを兼ね備えた碧色の眼には、荘厳さすら感じた。
「ごめん、驚かせちゃったね。」
そう言って彼女は手を合わせて謝る。
その声は、外見から受ける印象そのままに幼さと大人っぽさが同居していた。
ハルはここが夢の中だと信じ込んでいたことすら忘れて、その声に聴き入ってしまった。
彼女はそのまま僕の隣に来て、その場に腰を下ろす。
それに釣られて自分も座る。
僕と彼女の間に気まずい空気が流れるが、先にその流れを断ち切ったのは彼女だった。
「あのさ、」
「なに?」
「この景色どう思う?」
「綺麗だと思うよ。」
「良かった。」
ハルは正直何が良いのか分からなかった。
少しずつ心が落ち着いてきて、ここが夢の中だと思う実感も湧いてきた。
こんな景色、現実には存在しない。
「ねえ、あなたの名前はなんていうの?」
彼女は自然に尋ねてくる。
なにかこれが儀式のように感じられたが、彼女の透き通った目を見ていたら疑うのが悪いように思えた。
「晴。霞上晴。君は?」
「珍しい名前だね。私はレイン。レイン=フォグ。」
「君も珍しい名前じゃないか。」
「そう?ここじゃよくある名前だよ。えーと、ハル、……でいい?」
「いいよ、じゃあ僕はレインって呼ぶね。」
彼女、レインは微笑みを絶やさない。
ただ底なしに元気なようで、どこか裏を感じさせる。
だが別に悪意が感じられるわけではない。
ハルには笑顔でいることで自分を縛っているようにも見えた。
ハルはここを夢の中だと思っている。これは自分の作り出した夢で、今見ているものは全て現実に無いものだ。だがそうでもないかもしれない、なんて心の隅で思っているところもある。自分の目の前にあるこの景色とこの少女が、本当に夢の中だけの、実在しないものと思えない。これが現実とは言わない。だが、僕に関連のあるものの一つだと思えてやまない。僕の忘れた、遠い記憶の一部かも。なんて考えるが、自分で考えていて馬鹿らしくなる。
だから単刀直入に聞くことにした。
「レイン、ここってどこなの?」
「夢の中だよ。」
「……え? やっぱりそうなの?」
「ここはあなたと私の見ている夢の中。」
なんてことを平然と言う。
だんだん訳が分からなくなってきた、こんな夢なら早く覚めたい。
夢を夢だと分かっていて、しかも夢の中の登場人物もこれを夢だと分かっている。
こんなに根本から滅茶苦茶な夢があっていいものか。
「そんなことはいいからさ、話そうよ、ハル。こんな夢なんだ、話さないともったいなくない? 私はあなたの世界の話とか聞きたいな。」
「別にいいけど……、え?」
彼女が話している最中に、少しずつ世界に靄がかかり始める。
視界の隅から霧が流れこんでくるようだ。
景色が霞み始める。
彼女は悲しそうに、どこか諦めた様子で僕に言う。
「もう時間が来ちゃうんだ……。 最後くらいはちゃんと楽しく話せると思ったのにな。 ねえハル、最後に一つ聞いていい?」
「ああ、……!!!」
そういうと彼女は近寄ってきて体を僕にくっつける。
外見がどれだけ地味でも男子高校生だ。というかどんな男子高校生だろうと美少女がこんな近くに来たら焦るだろう。心臓の脈が乱れるが、それを表面に出さないように耐える。
それを見た彼女は、
「近くにいるほうがお互いを見失わないから。我慢して。」
と言う。堪えている僕の顔を見て、近づいたのが嫌がられていると勘違いしたのだろう。
そんなわけがないのに、と心の中で呟く。男なら嫌な訳が無いだろう。むしろ嬉しいはずだ。
ちらりと彼女の顔を覗き見ると、真面目に悩んでいそうだったのでそんな考えは振り払った。
「あのさ、私、色々と頑張って来たんだ。走り回って駆け巡って、本当に頑張ったんだよ。この頑張りってさ、報われると思う?」
僕は彼女のことをよく知らない。でも彼女が悩んでいる顔を見ると、全力を尽くしてきた事が窺い知れる。
ハルには、全力で打ち込んだものとか、成したものなんて一つもなかった。だからこそ、
「僕には分からないよ。」
「……そうだよね。ごめん。」
「でもさ、僕は思うんだ。そういう努力は報われるべきだって。否定する奴がいるなら笑い飛ばしてやれ! そういうもんじゃない?」
「……! そう、そうだよね! 笑い飛ばしてやる、か。いいね! ありがと。」
彼女の悩みが少しだけ解けた、そんな気がした。
気のせいかもしれないが、確かに彼女は晴れやかに笑っていた。
また霧が広がり、視界が真っ白になる。
そして、
更新きっとします
修正完了(仮)