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人間性を理由に勇者パーティから追放されましたが、私は今日も元気です。

最近追放モノの広告をTwitterでよく目にするので書きたくなり、書きました。

文章、内容等拙い所も多いと思いますが、感想など頂けると嬉しいです。

「フォス。お願いだ、僕らのパーティから抜けてくれ」


 休日に呼び出されたと思ったら、開口一番がそれだった。


「いきなり何を言い出すんです、ライネル?」


 全く突然のことで、まさに晴天の霹靂。何かしでかした覚えもなく、パーティ加入の経緯も相まって信じがたいの一言に尽きる。


「納得いきません。当然、得心のゆく説明はして頂けるのですよね?」


 当然の権利として解雇事由の説明を要求すると、ライネルは信じられないという目で私を見る。


「フォス、君が所属する僕らのパーティがどういうものか、ちゃんと分かってるかい?」


 何を当然の事を。無論、心得ているに決まっている。


「教会公認の勇者パーティでしょう。教会より命を受けた勇者ライネルを支援、補佐するための人員。それが私たち勇者パーティ、間違いないでしょう?」


「ああ、そうだ。そして君は、この勇者パーティに相応しくない。だから、抜けて欲しいんだよ」


 相応しくない?ありえない。私は思わず立ち上がりそうになるのを堪え、至って冷静にライネルに問いかけた。


「ライネル。私は、教会から直々にあなたを補佐するようにと編成された神官ですよ?教会内部での厳正な審査を経て、最も勇者パーティに必要と判断された神官です。どこをどう判断すれば勇者パーティに相応しくないという話になるんです!?」


 思わず語気が荒くなってしまったことを反省。しかし、幾重にも積み重なった審査を通過して派遣されているのだ。相応しくない、の一言で納得できる筈がない。


「その胸に手を当てて、自分の行いを省みてくれ」


「どれほど省みても、不適格となりうる要素がありませんが」


 返す言葉に、ライネルは意外そうに目を開く。


「それは、本気で言っているのか?」


「ええ、本気ですとも。いつだって正しい判断に基いて正しく、実に勇者らしい振る舞いを心がけて来たはずですよ。実際、勇者パーティの功績への貢献度は低くない筈ですが」


 私の言葉に、ライネルは目を閉じて机の上で組んだ手に額を乗せる。


「……あれはパーティ結成から半年くらいの時だ。道中偶然見かけた商隊が魔物に襲われていたときのこと、覚えているか?」


「忘れる筈ないでしょう。本来の仕事と別件だったので教会に提出する報告書がやたらと増えたんですよ、あの時」


 私が教会に命じられたのは勇者パーティの戦力だけでなく、その活動内容の報告も含まれる。教会の活動報告というのは、まぁ大きな組織ゆえにかなり厳密に書式が決められたものな訳だが、それを全く知らない勇者に書かせるなら、書き方を知っている神官にやらせようという事である。私が上司でも同じ判断を下したと思うので文句はない。けれど、イレギュラーな事態の報告書となると書式がちょっと変わって面倒なのだ。


「あの時、助けた後に挨拶に来た商人にお前が言った言葉はなんだ?」


 ふむ。あの日は確か、ちょっと雲がかかって夏場にしては涼しい日だった。そんな日だったから、オークの活動性が増し、普段なら安全なはずの街道を通る商隊を襲うような事が起こったのだと、後々の検証で明らかになった。

 とまれ、目的地に向かう途中、オークに襲われている商隊を見かけたライネルは、日程が遅れる事を承知で飛び出し、商隊を助け出したのだ。結局商隊を救った頃には日が暮れていて、仕方なくその場で野宿することになった。私が負傷者の手当てを終え、遅れたスケジュールの調整をしている時だ。助けた商隊を率いていた商人が、私たちの野営しているテントにやって来たのは。


『勇者様がた、助けて頂いてありがとうございます。なんとお礼を言っていいものか……』


『いえ、当然の事をしたまでです。この国の民を守るのが、勇者としての僕たちの仕事ですから』


『おうよ、あんた、運が良かったぜ!俺たちが通りかからなかったら危なかったな!』


『ま、あたしクラスの魔法使いが居たから被害も最小限で済んだ訳だし、ブライアンの言う通り、運が良かったわね!』


『ところで商人様、今回このような形とはいえ私たち勇者パーティの支援を利用された、という事で、相場としてはこれくらいの報酬が必要となるのですが……』





 思い返して、特に何も引っかかる所はない。


「至って普通の言葉をかけましたね」

「いやちがうんだわ。全然普通じゃないんだわ。どこの世界に助けた商人からお金を毟り取ろうとする勇者パーティがいるんだ。襲われて命辛々助かったと思ったらなけなしのお金まで持っていかれて泣きっ面に蜂なんだわ。

 あの瞬間の商人の『えっ勇者パーティって金取るの?』みたいな顔忘れられないんだが?そのあとお前のところに大金の入った袋を渡しに来た商人苦虫を噛み潰したような顔してたの覚えてる!?」


 捲し立てるようにライネル。


「ああ、あれは私も驚きました。何も言ってないのに、少し大目に包んで来ました、なんて言うものですから」


「いやお前が何か言ったからだろ!?商人さんがお金取ってくるってテント出た時お前何か耳打ちしてたじゃん!絶対あれのせいだろ!?」


 はて。私はギルドへの申請を散々調べて、私達と同じ時間にあの街道を通過する商隊がいないことを確認していたはずなのに運良く居合わせられた彼らの幸運を讃えただけなのだが。不思議なこともあるものだ。


「というか、至って常識的な事を述べただけじゃないですか。そんなに滅私奉公の気概が重要ですか?報酬を貰わない仕事は適当なものになるんです、あれは必要でしたよ」


「いや報酬なら国や教会から出てるじゃん。僕ら言ってしまえば公務員だよ?」


「あれは公務の外なので別途報酬が必要だったと何度も説明したじゃないですか。というかそんな昔の事引っ張り出して来て不適格呼ばわりするのはおかしくないですか?」


 私の抗議に、ライネルは「いいや、まだある」と頭を抱える。


「そんな。勇者パーティに望まれこそすれ疎まれるなんてありえないこの私が、どんな事をしたって言うんです?」


「今のでも相当なんだが……。これはどうだ?ヴィクテム村での人食い竜討伐の時、君は何を立案した?」


 ヴィクテム村での人食い竜討伐。比較的最近の話だ。無事に討伐が成功したとして、国王直々に報奨金まで頂いた大事である。


 そう、あの日は確か、カラッとした雲一つない晴天で、サンドイッチでも持参すれば恰好のピクニック日和だったと日記に記したのを覚えている。村は子供が多く、活気に満ちていて、しかし脅威になりそうな戦士はおらず。なるほど、確かに人食い竜であればこんな所にも棲みたがるだろうと納得したものだ。


 折しもその近くの戦士たちが遠征に離れた時勢を狙ったのは、ずる賢い竜種の仕業としても舌を巻く手際の良さであった。


 村に辿り着き、損害状況を村長と共に確認し、すり合わせ、討伐のための作戦を練ったのが到着した日の夜。私は、その日のうちに収集した情報や出立前に取り寄せた情報を整理して、作戦を立案した。ライネル筆頭に脳筋気質のパーティだから、私のような頭脳派はちょっと仕事量が多いのだ。とまれ、あの日、村長が辺りの地図を広げた会議室で、私は練りに練った作戦を披露した。


『人食い竜は日に3人の生贄を要求してくる。それは間違いないですね?』


 私の問いかけに、村長が頷く。


『ええ。もう一週間ほどになりますが、最初の日は一人、次の日は二人と言っていたのが、三人ずつ連れてこいと……。若い者や女子供を順に差し出せば、他の者は助けてやると言いまして』


『これまでの犠牲者は20人ほどと言っていましたね。安心してください、件の悪竜は我々が命を賭して討伐します』


 ライネルの言葉に、ふっと頬を緩ませる村長。私も小さく頷き、村長に一つの書類の束を渡した。


『おや、神官様。これは?』


『ええ、この村の住人を、ある条件に照らし合わせて整理したものです』


『ある条件?』


『はい。比較的簡単に後釜が見つかる、生贄にしてもよい人達を優先順位別に整理したものです』


 そして、私は作戦を続けた。


『かの悪竜を討伐するのに、何の準備もなくその根城で戦う訳にはいきません。ずる賢い竜ですから、その棲家は奴が戦いやすいよう整えられていることでしょう。そこで、生贄です。

 かの悪竜は、どうも欲に弱いという印象。脅しに来た帰りに目に入った牛舎を襲っていることからも明らかです。

 目撃証言を照らし合わせると、かの悪竜が好む若者を四、五人ほど差し出せば、多少腹が膨れていようが全て平らげてしまうでしょう。

 そうして腹が膨れて動きが鈍くなった所を、我々で袋叩きにします。牛も何頭か添えれば盤石という所でしょうね。最悪でも人が5人と牛数匹の命で大多数の村人とその資産が守られる。さ、村長、村を救う勇士達を選んでください』




 思い返すが、何もおかしな所はない。


「何も、おかしな事は言っていないと思いますが」

「いやおかしいわ!どこの世界に平然と生贄を要求する勇者パーティがいるんだ!?

 お前生贄を選ぶ時の村長の苦しそうな顔見てた!?

 マーサとブライアンを部屋から出した辺りでおかしいと思ったけどさぁ!しかもお前しれっと僕に沈黙の魔法掛けて口出しできなくしただろ!?」


「だってマーサもブライアンも生贄とか言うと顔顰めるじゃないですか。これから戦うのにモチベーション下げられてもたまったもんじゃないですもん。ていうか、ライネルはおかしいおかしい言いますけど由緒正しい兵法書にも載るレベルの定石ですからねあれ」


「僕のモチベーションもだだ下がりだったわ!そもそもそんな平気で人の命を数字に落とし込む兵法書は捨ててしまえ!ていうか最終的に人間の生贄必要なかったよね?普通に倒せたよね!?」


「いやぁ、まさかあの悪竜、素で火のブレスさえ吐けない貧弱だった上に、牛だけでお腹いっぱいになっちゃって、拐った人間全員謎のもったいない精神で巣の隅に軟禁してただけとか想像の斜め上も過ぎるじゃないですか」


「想像の斜め上はお前の作戦なんだよなぁ!?」


 喚き立てるライネル。ここが勇者パーティに割り当てられた広い邸宅でなければとんだ近所迷惑になっていた所である。


「落ち着いて下さい、ライネル。今日は昨日くたくたになって帰ってきたマーサが休んでいるんです、あまり大きい声を出すと彼女を起こしてしまうじゃありませんか」


「いやマーサがくたくたになってるのも誰のせいだ!?」


 はて。マーサが疲れ果てていたのは、昨日までの彼女にしかできない仕事がとても多かったからで、言ってしまえば彼女の才覚か、もしくはそれが必要になるほどの損害を出した魔物どもが原因な訳だが。


「マーサは魔物退治の時に破壊された砦の修復作業と、家屋の修復、一部破損した魔導書の修復をしていたんですよ。そもそも砦の近くまで魔物を通した兵士とか攻めて来た魔物、ひいては定期的な魔物退治を怠っていたギルドの怠慢でしょう」


「……この前の王都防衛戦の時、君が提案した作戦は何だったかな」


 はて。何かおかしな事を言っただろうか。


 あの日は休日だったのに急に招集がかかって、何事かと出頭してみたら砦付近に魔物の大軍が迫っているとの報告。勇者パーティ出動の命を受けて国軍の作戦会議に通された訳だが……。


『恐れながら閣下。砦に援軍を出し、水際で魔物を止めるのは不可能です』


『ほう、神官風情に何が分かる。あの砦は難攻不落の大砦、きっと我らの到着まで持ち堪えてくれようぞ』


『はい。ですから、彼らが時間を稼いでいる間に民を王宮に避難させ、市街地戦にて魔物を処理します。砦は対軍勢には高い防御性能を発揮しますが、はっきり言ってあの砦は魔物を止めるには向きません。あの砦で戦うくらいなら、多少入り組んでいても地の利があるなら孤立しにくく、そもそも今より魔物の襲撃が多い頃に基礎設計がなされた市街地の方が対魔物戦をする上では有利かと。

 それに、伝令の言葉を信じるなら砦が破られるのは時間の問題。ならば王都まで誘い受け、万全の兵力で処理する方が効率的かと』


『貴様、砦に残った兵達を見捨てろと申すか!』


『はい。ですが、砦とは言っても戦時でない今は元々最低限の人員数しか割かれていないと聞いております。それも新兵の訓練所代わりに使われていたとか。訓練途中の新兵であればまだ代えも利きましょう。

 というか、熟練の兵が率いているのでしたら、今なら早々に砦を放棄する旨を通達すればいくらかは無事に帰ってくるのでは?

 閣下、ご決断を』





「……別段、特別な作戦を提案した覚えはありませんね」

「いや特別なんだわ!わざわざ王宮内に人を集めてまで都に魔物を入れるような作戦普通立てないんだわ!

 結局それで壊れた砦や街を直すのにマーサが駆り出されたの!お前が変な作戦立案しなかったらマーサの仕事ここまで増えてないの!なんでああいう作戦立てたかな!」


 またも激しくライネル。


「いやでも最終承認したの閣下ですし」


「お前が

『他に合理的な作戦を立案できる方がおられないなら、スピーディな対応が求められますので今すぐにでも決定しますね。代案は1分以内にお願いします。まぁそこから議論重ねてる間に砦が壊滅するのは目に見えてますが』

 とか急かすからだろ!?別に最初の作戦通り砦まで行って魔物と戦えば良かったじゃん!」


「え、それすると私の仕事が増えるじゃないですか嫌ですよそんなの」


「いや仕事しなさいよ!」


 いや仕事しなさいよって言われても。神官の仕事なんて負傷者の治療とお墓立てたり供養したりでないに越した事はないと思うんだが。


「はー。それで、なんです。ちょっと考え方の趣味が合わないから人のこと追放するってことですか?」


「考え方とかじゃなくてさ。お前の倫理観どうなってんの?とてもじゃないけど勇者パーティにいていい人間性の持ち主じゃないよね?」


 人間性。人間性と来たか。そこまで人格を否定されるとなると、困ったものだ。


「……分かりました、そこまで言うならパーティ抜けます。ライネルのばか」


 言って、私はライネルの部屋を後にした。ちょっと目にゴミが入って涙が出たが、知った事ではない。私はさっさと身支度をして、勇者パーティ邸から去った。







 あれから数ヶ月。今日も勇者パーティは輝かしい成果を挙げているらしい。私の代わりに新しい神官が入ってうまくやっているのか、評判は上々である。まぁ私がいた時の方が短期間で出している成果の数は多かった筈だけれど、今の私の仕事は勇者パーティではないのだ。


 私は神官フォス。終わったことを振り返らない女。今は別の仕事がある。教会は浮いている仕事が多いのだ。亡き母曰く、『手段は選ぶな。金は稼げるだけ稼げ』。


 勇者パーティの収入が仕事量の割にまぁまぁよかったから入っていたが、手段を問わなければ仕事自体はいくらでもある。それさえこなせば、実際的な肉体労働から解放される今というのはそれなりに気楽でいい。


 私は神殿から貰ったばかりの新しい部屋に、来客を通す。


「ようこそいらっしゃいました、勇者パーティの皆様。私は神官長フォス。今日からあなた方の直属の上司になりました。今後とも国のため、民のため、身を粉にして働いてくださいな。

 ……ああ、一つ断っておくと、私前任者ほどあなた方を遊ばせておくつもりはありませんので、そのつもりで」


 ライネルが、神官長の制服を纏った私に引きつった笑みを浮かべる。どうも、人間性が合わない上司を持つと大変なようだ。まぁ、私の知った事ではないし、私は合理的に仕事を進めるだけだから何でもいいのだけれど。


 私は新しく与えられた仕事道具に満面の笑みを浮かべて、彼らに束になった仕事リストを差し出した。


 人間性を理由に勇者パーティから追放されましたが、私は今日も元気です。

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