8話:西の大国ウェルムボストン①
勇者一行は、歩いて、西の大国ウェルムボストンへの帰路へとついていた。
途中の村や街で宿を取りながら、帰ること1週間。
マホの魔法を駆使し、本来ならば馬車を使って2週間ほどかかる道を大幅に短縮することが出来た。
マホが扱う魔法の一つ。
風を身体に纏い、移動の補助を行う魔法:風駆。
普通に歩くだけで、馬車の倍近く早く歩くことが出来る。
熟練度が上がるほど、移動速度が上がるが、パーティ結成直後、全速力の10倍速で動いた時、あまりの速さに、マホを除く全員が速度酔いしたため、それ以降、倍速しか使わないようになっていた。
本来、魔法というのは、1人に対し、最大2種類しか覚えることが出来ない。
脳のキャパ不足なのか、身体の許容限界なのかは分からないが、3種類以上覚えようとすると、身体が拒否するようになり、覚えている2種類以外の魔導書が読めないようになる。
自分が覚えている2種類以外の魔法を覚えている人に聞いたり、教えてもらっても、脳が理解することを拒み、3種類目を覚えることが出来ないようになっている。
話は唐突に変わる。
マホ3歳。常人より成長速度の早かったマホは、3歳にして、読み書きを覚え、流暢に言葉を話していた。
この子は天才だ、と祖母が喜び、早めに魔法使いの道を歩ませるため、2種類の魔導書を渡した。
最も汎用性の高い火と自由度のある水の魔導書だった。
マホ5歳。2年足らずで、2冊の魔導書を読み解き、魔法を扱うレベルにまで成長。
宮廷魔道士である祖母と修行を行なっていたある日、なぜか、図書館にある一冊の魔導書に、目が止まった。
その本を手に取り、目を通すと、そこに書かれている内容を読み解くことが出来た。
マホは、5歳にして、新たに風の魔導書を読み始めた。
人類初の快挙。王都ガルステンは、喜びと驚きで満ち溢れた。
マホ15歳。図書館にあるほとんどの魔導書を読み解き、毎日、新しい魔法を覚え、人々の期待に応えようと必死だった。
火水風木土氷雷光闇音心時原月
魔法は全14種類に分けられ、中には、とても珍しい魔法もある。
時(時を操作する魔法)、原(原子を操る魔法)、月(月に関連する魔法。他の魔法と比べ解析が進んでおらず、未だ謎に包まれている部分が多い)は、その珍しい魔法に分類され、図書館が管理する魔導書の中には存在せず、御伽噺や過去の英雄譚などで書かれている。実在するかどうかも分からない魔法だ。
マホは、その3つを除く11種類の魔導書を読んだ。
王都を守護する宮廷魔道士は、それぞれが別々の魔法のエキスパートであり、祖母と他の宮廷魔道士と一緒に修業をし、将来を期待されていた。
マホ17歳。誕生日を迎えた次の日、王様に呼び出され、王座の間を訪れていた。
王様から、古びた魔導書を渡される。それが何なのか、解析して欲しいとの用件だった。
マホは、期待に応えるため、笑顔で了承し、魔導書を読み始める。
マホ18歳。丸一年を掛け、ついに、魔導書を読み解いた。すぐさま、王様に伝えようとしたが、その日は、自分の誕生日だった。
両親、祖母と一緒に誕生日をお祝いしつつも、頭の中では、すぐにでも王様に伝えに行きたいと思っていた。
次の日、朝から王様の元を訪れ、魔導書には、異世界の勇者を召喚するための魔法が書かれていたことを明かした。
それを知った王様は、納得した様子で頷く。
ちょうど1年前、東の大国に魔王らしき者が現れ、近隣の国を次々と侵略しているという情報が入っており、ウェルムボストン王国も狙われるのではと不安に思っていたそうだ。
王様は、魔王討伐のため、他の宮廷魔道士と協力し、異世界の勇者を呼び出し、この国を救って欲しい、と懇願。
マホは、それを二つ返事で了承した。
王都ガルステンにある王様の住う城、ガルステン城。
とてつもない大きさの城。その中に、大理石で作られた教会がある。
マホは、床に魔法陣を描き始める。
他の宮廷魔道士と協力すること、3日。
教会の床全体に広がる大魔法陣を描きあげ、ついに、勇者降臨の儀式が行われた。
王様や貴族が見守る中、マホは魔法を唱え、勇者を呼び出すことに成功。
それが、何を隠そう―――嘉者熊勇人である。
こうして、西の大国に勇者が召喚された。
だが、今のままでは魔王に勝つことはできない。
勝つためには、各地に眠る伝説の武具を探すほかなかった。
王様は、勇者の助けとなるべく、3人の強者を徴兵する。
魔法使い:マホ
弓・槍使い:ソウマ
大楯使い:マコト
勇者を入れ、バランスの取れたパーティを結成。
こうして、マホは勇者と共に冒険へと旅立つ。
中でもマホの実力は、王都ガルステンの宮廷魔道士に引けを取らないほどになっていた。
他の2人も、王都で名を知らぬ者はいないほどの有名人だった。
王国騎士団で、近頃、実力をぐんぐんと伸ばし、その強さは王国騎士団最強 騎士団長の若い頃を彷彿とさせると噂される女騎士。マコト・ホーガン。
同じく王国騎士団で、素行と女癖の悪さで有名な悪童。ソウマ・バレン。だが、その実力は高く、真剣に戦えば、同世代で勝てる者はいないとまで噂されている実力者だ。ただ、本人にその気がないため、いつまでも昇進することがない。
こうして、勇人、マホ、マコト、ソウマの勇者パーティが結成された。
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「ふぅーやっと着いたじゃんよーあー疲れたー」
「大丈夫?ソウマ?まあ、かくいう俺もすごく疲れたんだけどね。ふぅーちょっと休憩してこうよ。王様は待ってくれるよ、うん」
「そうだよな!?王様は器がデカデカがばかばだから待っててくれるよな!?よーし!じゃー女将さんのとこ行こうぜ!やっふー!」
男子二人して、肩を組みながら、ふらふらの足取りで、吸い込まれるように、街の玄関口から見える食堂へと入っていく。
「はぁ…本当に情けない。マホの魔法のおかげで、殆ど歩いていただけだろうに。この程度で根を上げていてどうするんだ…」
「まあまあ、ここは、うちの顔に免じて許してやってくれよ!それより、ファムさんに紹介しない?うちらの街をさ!」
「うむ、名案だな!ファム君。改めて、ここがぼくたちの住む街、王都ガルステンだ。男子諸君がくたばってる間、君をエスコートさせてはくれないか?」
「は、はい!喜んで!」
マコトとマホに手を引かれ、皇女は街の中を案内された。
西の大国ウェルムボストン王国。その王都ガルステンは、様々な文化が入り混じっている複合都市だ。
元々、小さな国々が集まってできた連合国家だったのだが、現在の王がそれを嫌い、力づくで一つに統合した国だ。
最初は反発こそあったものの、そういった国に、武力行使や経済に圧力をかけることで、弾圧し、徐々に歯向かうものは少なくなっていき、今のウェルムボストン王国が出来上がった。
今では、統合してよかったという国がほとんどだが、中にはよく思っていないものたちもいる。
そういった経緯があり、各国の文化が混ざり合い、歪ながらも機能しているのが、この西の大国である。
神社、お寺、仏閣、教会、神殿。西洋、東洋が入り乱れ、人々はその中で生活していた。
皇女は、マコト、マホに手を引かれながら、喫茶店や服屋、2人のお気に入りスポットに案内された。
(初めてじゃな…こういうのは)
バネルパーク皇国の皇女であったファムにとって、友だちという存在は誰一人としていなかった。
街や城の住人と仲は良かったが、そこにはハッキリとした身分の違いがあり、みな、どこか遠慮していた。
中には、物好きな者がいて、皇女と気兼ねなく話す者もいたにはいたが、皇女とは生きる時間が違いすぎた。
500年を生きる皇女の10年と他の者の10年では明確な差が出る。
身長が伸び、成長した次には、発育が止まり、シワが増え、どんどんと自分だけが歳をとり、見窄らしくなっていく。
何も変わらない皇女と変わっていく自分を重ね、如実に現れる違いが嫌になり、自ずと離れていく。
そんな皇女にとって、唯一、気兼ねなく接し続けてくれたのは、ヴァールだった。
だが、今はもう違う。隠さなければいけない存在だったヴァールだけでなく、今目の前には、マコトとマホがいる。
誰にも遠慮することなく、遊べる相手が出来たわけだ。
皇女は、少し嬉しかった。こんな自分に優しくしてくれる二人の存在が。
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それから2時間が経った。
満足した様子のマコトとマホは、仲良く、皇女の手を握りながら、勇人とソウマのいる食堂の中へと入っていく。
昼は食堂、夜は大衆居酒屋になるその店は、勇人、ソウマの行きつけの店だ。
店内は、どこか実家のような懐かしい雰囲気が漂っていて、木で造られた内装が、なおさら、その雰囲気を強めていた。
店長兼女将兼大将の強気な女性は、自分の仕事を旦那に任せ、勇人とソウマを巻き込んでの大宴会を、すでに開催していた。
「おお!嬢ちゃんたちも来てたのかい!ほらほら、飲んでいきな?久々に帰ってきたんだろ?」
女将がこうなってしまっては、断れないことを2人は知っていた。
マコトとマホは顔を見合わせ、王様に挨拶に行くのは明日だな、とアイコンタクト。
「わーい!ちょうど飲みたかったぜ!」
「わかったよ、女将さん。よし、今日は、ファム君の歓迎会を兼ねて、ぱーっと飲もうじゃないか」
「なんだいなんだい!えらくぺっぴんさんを連れてるじゃないか!あんたも飲んで、食べて、楽しんでいきな!お代は、男ども持ちだからさ!」
「あ、ありがとうございます!では、遠慮なく…」
「アンタ!この子たちにもお酒!ついであげて!」
「あいよ!―――ほら、どうぞ!」
キンキンに冷えたグラスの中には、シュワシュワと弾ける黄金色の液体が入っていた。
新規参戦した3人にもグラスが渡り、勇人たちのグラスにも新しい液体が入る。
女将さんが大きな声で元気よく―――
「かんぱーい!!!」
と言い、全員のグラスと軽く触れ合わせた後、一気に飲み干す。
こうして、皇女の初めての歓迎会が幕を開けた。
日が落ち、夜になる頃には全員が出来上がっていたが、その後も飲んでは食べ、飲んでは食べを繰り返し、女将とファムを除く全員が潰れたところでお開きとなった。
「あんた、強いねぇ〜あたいと同じぐらい飲んでるのに潰れないなんて!今度、またおいで!一緒に朝まで飲み明かそうじゃないか!」
「いえいえ、女将さんと比べればまだまだですが、そのお誘いお受けします!」
「よぉーし!よく言った!あっははは!あんたのこと気に入ったよ!そういえば、名前、まだ聞いてなかったね?なんて言うんだい?」
「あ、確かに!こほんっ…申し遅れました。わたし、マルファムル・ファン・バネルパークと申します。女将さんも気軽に、ファムってお呼びください」
「こりゃ親切に。じゃーあたいも。ごほんっ…申し遅れました。あたい、バネッサ・エドモンドと申します。気軽に、女将さんって呼んでおくれ!」
お互い、真面目に挨拶をし、
「「――――ぷっ、あっははは!」」
それがとても馬鹿馬鹿しくて、二人は顔を見合わせて笑った。
「いやーあんたおもしろいねぇ!でも今日はもうお開きだ!こいつら、運ぶの手伝ってくれるかい?ファム?」
「女将さんには敵いませんよ!
わっかりました!―――ちなみに、どこに運べば?」
「こっちだよ、着いてきな!」
そう言って、女将さんは、勇人、ソウマを片腕で掴み上げ、お店の勝手口からお店の裏側に出た。
ファムは、両肩でマコトとマホの二人を抱え、のそのそと着いて行き、ドアを開けると、お店のすぐ後ろに、大きな一軒家が建っていた。
「ここがこの子たち、勇者御一行様の家だよ!ファムも仲間になったんだ!好きに使いな!」
「わぁー…おっきいですねー」
一軒家というより、外国から来た要人をもてなす迎賓館のような大きさと作りの建物が、月夜に照らされながら、堂々と鎮座している。
「入り口はこっちだよ!」
呆気にとられながらも、女将さんの後について行き、それぞれの部屋に一人ずつ放り投げていく。もちろん、女将さんがその腕っ節で。
そして、残った部屋に案内され、その部屋が、これからの皇女の自室となる。
その後、お風呂とトイレの場所を教えてもらい、女将さんは店に戻っていく。
「何から何まで、ありがとうございました!女将さん!」
「いいってことよ!ほら、あんたも早く寝なよ?明日は王様のとこに行くんだろう?」
ペコリと頭を下げ、女将さんを見送った後、ささっとお風呂に入り、居酒屋独特の匂いを落としてから、ふかふかのベットに入る。
(久々じゃなーベットで寝るのは〜あぁーさい、こ、う…じゃ………)
ベットに入るやいなや、疲れが出たのだろう。
皇女は、すぐさま寝てしまった。
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