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化物皇女と勇者?と魔王?  作者: 北田シヲン
第1章 勇者の旅
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7話:ある大楯の冒険者の話

「ママ〜今日、パパ来る?」


「ん?ああ、きっときてくれるで!だって、娘の晴れ舞台なんやから!」


 仲睦まじい母親と娘。今日は、7歳になる娘の健康と将来を願って、神社でお祈りをあげてもらう日。

珍しく化粧して、5歳の時よりさらに豪華になった着物をきて、参道を歩いていた。


 ウェルムボストン王国の北の外れ、他国との国境に位置する街フロンティエーラ。

国境ということで、王国騎士団の詰所があるが、隣国との関係は良好なため、殺伐とした雰囲気ではなく、朗らかとした雰囲気が漂っている。


 街には、神社仏閣といった建物が多く立ち並び、ここに住む人々は、独特の方言を使う。

初めて聞く人にとっては、聞こえが悪く、怖い印象を与えがちだが、そこに住む人々は、人情味に溢れている。


 季節は春。参道の両端に、桜の木が植えられていて、風が吹くと散った桜が舞い踊る。

母と娘は、美しい自然の風景を見ながら、ゆっくりと歩いていく。


 大人が歩けば10分もかからない道も、2人で歩けば、30分。

寄り道しながら、ゆっくりと歩いていく。

父親が息を切らしながら、追ってくるのを期待して。


「はぁはぁはぁ…すまん!遅れた!」


 先に神社についていた母と娘を追いかけ、走ってきた男――娘の父親だ。


「パパ〜!!」


 久々に見る父の姿に、興奮した娘は、神社のそばにある団子屋の椅子から飛び降り、走って近づいて行く。

母と娘は、団子屋で団子を食べ、抹茶を飲みながら、休憩しつつ、父親が来るのを待っていた。


「おぉー!大きいなったなぁ!ってこらこら、そんな格好で走ったら転ぶぞ?」


「へっへー!大丈夫やもん!あたちもパパみたいに鍛えてるんやから!」


「ほぉ〜じゃー今からパパが実力みてやる!ほら、かかってこい!」


「よぉーし!とりゃー!!」


 着物のままはしゃぐ娘とそれに付き添う父、それを団子屋の椅子に座りながら、遠巻きに見守る母。

1ヶ月ぶりの親子水入らずの時間だった。


 神社に行き、神事が終わってから、親子3人での記念撮影。

楽しい時間はあっという間に過ぎて、日は沈み、夜になった。


 三日月が、街中をにやにやと笑うように照らす、そんな夜だった。

遊び疲れた娘を先に寝かせ、母と父は、居間にある椅子に座りながら、話しを始める。


「今回は、どんだけ家に入れるん?」


「明日の朝には、別のとこにも行かなあかん。いつも待たせてすまんな」


「ううん、ええよええよ。うちが選んだ道や。こうなることは覚悟しとった」


「そうか…いつも迷惑ばっかかけて、すまんな」


「ええってば。それに、謝らんといて。謝られたら、うちらが見窄らしく見える」


「……。」


「今日は、あの子と遊んでくれてありがとう。あの子の笑顔、久々に見たわ。―――うちが選んだ道…やけど、あの子には酷やったかもな。うちの子に生まれたばっかりに」


「そんなことあらへん。あの子は、お前の娘として生まれてきたことを誇りに思っとる。さっきかて、「ママは凄いかっこいいんやで!この前、家まで付いてきた変なおじさんを蹴っとばしてたし!そんでそんで、料理も美味しいの!」って嬉しそうに話しとった」


「そっかぁ…あの子は、強いなぁ。誰に似たんやろ」


「お前やろ?俺は、お前のそういう強いところに惚れたんや。これからも辛い思いさせると思うけど、お前らのこと、愛してるから」


 夫の言葉に、涙を流す妻。

こうして、夜は老けていった。


 次の日の朝。父親は、娘が寝ているであろう早朝に起き、静かに家を出ていく。


「じゃーまた、帰ってくるから」


「いってらっしゃい」


 母親はそれを見送り、二度寝するため、自分の部屋へと戻っていく。

それを扉の影から確認していた娘は、父を追いかけるように、こっそり家を出た。

もちろん、母にはバレないように。


「パパ、いっつもいなくなるんやから!今日こそは、なんでかはっきり分かるまで、ストーカーしたる!」


 そう息巻きながら、父にバレないように慎重に後をつけていく。

家を出て5分。父は、娘が住む家と同じ大きさ、同じ形の家の扉の前で立ち止まった。

ポケットからジャラジャラと音を立てながら鍵を取り出し、その中から一本を選び、鍵を開け、扉を開ける。


「こんな朝早くからお邪魔したら、迷惑やない?」


 疑問に思った娘だったが、近くの家の影にこっそりと隠れ、父親を見守っていた。

すると、その家の中から、自分と同い年ぐらいの子どもが現れ、父親の胸に飛び込んでいくのが見えた。

昨日の自分と全く同じ。帰ってきた父を見て、喜び、はしゃいでいる。


「ぱぱ!おかえり!早く遊ぼ!」


 娘は自分の目を、耳を疑った。

自分の父親が、知らない子から、ぱぱ、と呼ばれているという事実と、それを受け入れ、笑顔で迎え入れている父親の姿に。


 ウェルムボストン王国は、一夫多妻制。

夫が、複数の妻を持つことが許されている国だ。


 娘も授業でそれは学んでいたのだが、実際に、自分の父親がそうなんだと知った今、言葉では言い表せられないほどの衝撃を受けていた。


 パパに愛されているのは自分だけじゃなかった。

パパには、あの鍵の数だけ子どもがいて、みんなに会いに行かなきゃダメだから、帰ってこないんだ。


 子どもながらに、それを理解した娘は、父を追いかけるのをやめ、とぼとぼとした足取りで家へと戻り、自分の部屋のベッドに、崩れるように倒れ込んだ。


 その日、母は仕事だった。いつもなら、元気に「行ってらっしゃい!」と見送ってくれる娘は、朝からずっと部屋から出てこない。


 その日、娘は、帰ってきてからずっと、泣いていた。

ぐちゃぐちゃと回る思考に、心が押し潰され、涙となって瞳からこぼれ落ちていく。


 大好きだった父との思い出は陰り、思い出すたびに憎しみがこみ上げる。

内緒にしていた母に対しての怒りも、沸々と湧き上がっていく。


 その日から娘は、笑わなくなった。

母の前でも、父の前でも、友だちの前ですらも。

笑わなくなった代わりに、剣や槍、大楯などの武具を使った稽古に一層励むようになった。


 厳しい稽古に涙を流しながらも、父に認めてもらおうと健気に頑張っていた娘の姿はもうそこにはなかった。

憎しみと怒りを原料に、心を憎悪で燃やし、荒れ狂う蒸気機関車のように、ただ一つの目標というレールをひた走る。


 それから、3年。娘は10歳になった。

街の稽古場では、もう誰も相手が出来ないほどに強くなっていた娘は、師範の誘いを受け、王都にある学園に通う事となった。


 やっと故郷から離れることができる。

娘はとても嬉しかった。女好きでろくでなしの父とそれを許容する不甲斐ない母の顔をもう見なくて済む。

娘は、それがとても嬉しかった。


 学園に入ってからも、娘の努力は凄まじかった。

3年が経つ頃には、学園を主席で卒業。


王国騎士団最強である騎士団長の若い頃に匹敵するほどの実力だと、王国騎士団内で盛り上がり、期待される中、進んで王国騎士団に入団。

何度かつまづくことはあったものの、持ち前の頭脳と努力で、どんどんと階級を上げていった。


 これも全て、自分が偉くなり、ウェルムボストン王国から一夫多妻制を廃止するため。

娘は、7歳のあの日からずっと、その日を心待ちにしている。



「……夢か。懐かしい夢だ」


 マコトは、ベッドから身を起こし、窓の方を見た。部屋の窓から差し込む太陽が、朝が来たことを知らせる。


「父上、母上…か」


「マコトー!起きてるー?」


懐かしい夢を見て鑑賞に浸っていると、突如、扉の外から声が聞こえてきた。


「あ、ああ。起きてるが、どうした?」


「朝ご飯できたから起きてきて!」


「そうか、今日はマホが当番だったか。ありがとう、すぐに行く」


 マコトはすぐさま、着替えを済ませ、部屋を片付け、外に出る。

宿泊所の外に、宿泊者が利用出来る調理場があり、今日はマホが料理を作り、全員を起こし回っていた。


 マコトが一番最初に席につき、一人、また一人と席についていく。

マコト、マホ、勇人、ソウマ、ファム。全員で揃って朝ごはんを食べる。


 マコトは、この瞬間が好きだった。

自分の家族を憎んでいるのにおかしな話だが、勇者一行を、新しい家族のような特別なものに感じていた。


 勇人がのほほんとした父親で、ファムが綺麗な母親。マホが可愛い妹で、ソウマが生意気な兄。

口には出さないが、そう考え、このパーティでもっともっと冒険をしたい、と心の底から願うのだった。

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